2019年 レギュラーシーズン終了《BC・福井ミラクルエレファンツ》
2019年、BCリーグ・レギュラーシーズンの全日程が終了。福井ミラクルエレファンツは9月7日の最終戦を勝利で飾った。
エース・濱田俊之投手が先発で7勝目を挙げて自身の星もタイに戻し、クローザー・高橋康二投手が9セーブ目を記録した。
打っても四回、4番・清田亮一選手から四球を挟んで3連打で3得点。五回には相手のバッテリーエラーで1点追加し、4―1での快勝だった。
■「育成」と「勝利」の狭間で苦悩した
西地区5チーム中、前期は9勝23敗4分けで5位、後期は14勝20敗で4位だった。
投手陣が最少失点で踏ん張り、打線はチャンスで一気に得点する―。最終戦のような投打の噛み合った試合が、シーズン終盤になってようやく見られるようになった。
後期、特に8月以降は10勝8敗と勝ち越しており、チーム状態がかなり良化したことが伺える。
序盤はとにかく苦しんだ。2度の7連敗を経験するなど、なかなか勝てない日が続いた。
チームを率いる田中雅彦監督(千葉ロッテマリーンズ―東京ヤクルトスワローズ)は「選手の育成」と「チームの勝利」、この両方を同時に進めたかった。「育てながら勝つ」ということを標榜したのだ。
しかし「育てたい」と期待を懸けた若い選手の力は想像以上に未熟で、気づいたら黒星が貯まる一方だった。
「僕はどうしても選手を信じちゃう。絶対にやってくれるだろうって期待してしまう」と、とにかく田中監督は我慢を続けた。
ここは代打だろうという場面でも、そのままその選手に託し、守備でエラーが続いても、なんとか経験を積ませて上達させようと使い続けた。
「やっぱりこういうところで打てるようになってほしいとか、守れるようになってほしいとか、そういう期待で選手を引っ張ってしまうことが多かった。特に前期のはじめのほうは、勝ち負けに徹する采配ができなかった」と自省する。
田中監督がやろうとしてきたことは、「この日の試合にただ勝てばいい」という野球ではない。常に先を見据え、選手の成長、育成を促すことが第一だと考えてきた。
「選手自身もそれは感じてはくれてるし、ほかの球団も『福井っていうのはこういう野球をする』っていうのは感じているとは思う。明らかに使い方というのが違うから」。
しかしそういう目標があろうとも、あまりに負けが込んでしまうとチームのムードも悪くなる。いわゆる“負けグセ”が蔓延してしまうのだ。
そうなるとなかなか気持ちの上で攻める戦いができないし、結果的に選手本来の力も発揮できず、成績も伸びなくなってしまう。
そこで「ひとり、ふたりのためにチーム全体が沈むようなことをしてもダメだなぁ」と気づいた田中監督は、そこから出場選手やオーダーも変えた。
「育てながら勝つ」のではなく、「勝ちながら育てる」というようにシフトチェンジをした。
するとテキメン、流れが変わってきた。「勝利」は良薬である。徐々にチーム状態は上昇した。
さらに「大松尚逸」という大打者が熱心に選手を見てくれたことで、それぞれの意識も変わりはじめた。(参照⇒福井ミラクルエレファンツの逆襲)
しかしそう簡単にいかないのが野球のシーズンだ。流れはよくなりかけたが、序盤のチーム状態が及ぼす影響は小さくなかった。ときにトラウマのように、ネガティブ思考がベンチを支配してしまう。
「どうしても『また、あぁいうようになるんじゃないか』っていうのがよぎるがために、結果が出ないという選手が多かったと思う」と分析する田中監督は、自らもそうであったと振り返る。
「僕自身もやっぱり前期のとんでもないミスとかを思い出して、『やばい!またあぁいうのになるんじゃないか』っていう気持ちが最後までよぎることがあったから。やっぱり本来はスタートダッシュというか、はじめにポッといってれば、もっと上にいけるチーム力はあるのに、最初にコケてしまったんで…」。
「育成」に強くとらわれすぎてしまったことが後々まで響き、それが最大の敗因になってしまったことを自認する。
■目標は「ひとりでも多くの選手をNPBへ」
そもそも昨年の就任当初から、ひとりでも多くの選手をNPBに送り出すことを目指してきた。ここはNPBに行きたい選手たちの集団なのだから。
幸いにも昨年は7月に岩本輝投手(元阪神タイガース)がオリックス・バファローズにNPB復帰。秋のドラフト会議では片山雄哉選手が阪神タイガースに、松本友選手が東京ヤクルトスワローズに指名され、それぞれ入団した。
この中心となる選手たちが成績でも気持ちでもチームを牽引し、みごと前期優勝をはたし、西地区のプレーオフでも勝ち抜いた。
「NPBへ輩出」と「チームの優勝」という2つを両立させることができた監督1年目だった。「そういう意味では去年はうまくいきすぎてたと思う」と田中監督。
「やっぱり人ってモチベーションとか気持ちがプレーと比例する。去年は雰囲気もずっとよくて、モチベーション高くできていた。その中で結果も残せていた」。
今年もそれを目指したつもりだった。NPBに送り出せるよう育成しつつ、チームも勝つ―。しかしそれはかなりの難題だということに気づかされた。
もちろん選手個々の資質によるところが多分にあるのだが、それでも田中監督は自身の反省として捉えている。
もっと早く気づいてチームマネジメントができていれば、チームとしても選手個々のパフォーマンスも違う結果になっただろうと自らを責める。
「ほんとに学ぶことばっかりだった。これを僕の財産にしないと、なんのためのシーズンだったんだということになる。こんないい経験をさせてもらったことは、間違いなく去年より得るものが多かったと思う」。
まだ来年のことはわからないが、もし続投となれば「これを糧にして、同じことを繰り返さないようにしないといけない」と、大いに活かしていくつもりだ。
■育成に重きを置きながらマイナーチェンジ
とはいえ、今後も「育成」を重視していく指針に変わりはない。ただ、多少のマイナーチェンジはする。
これまでは選手個人のNPBスカウトへの“売り込み”を考え、常にフルスイングさせることをモットーとしてきた。勝利のためにと送りバントをしたい場面でも、よっぽどでないと封印してきた。
しかしそれも時と場合によりけりで、臨機応変に対応することにした。
今季終盤、いくつかの送りバントによってゲームの流れがよくなることも体感した。選手によっては、そういう小技が必要とされる選手もいる。
「もちろんバントだけじゃなくて、その選手に応じて見極めてね。選手によって絶対に必要な部分もあるし、でもだからといって必要以上にやるつもりもないけど」と、使い分けていくつもりだ。
これまで以上にバント練習にも力を入れる。実際にゲームでやる、やらないとは関係なく、「いつでもできる」という状態を作らせることが大事であることと、実戦の中で選手にサインの意図を汲ませるためでもあるという。
しっかり準備しておくことで、選手自身が考えられるようにする。
■指導者としての“加減”を学んだ
さらにもうひとつ、わかったことがあるという。
今季は「ここまでは言わなくてもわかってくれているだろう」と思って、言わずに踏みとどまったことが何度もある。
「毎日毎日、口酸っぱく言ったところで選手には響かない。逆に『うるさいわ』ってなるし、それって選手のためにもならない。ミスも選手が一番わかってることだから、わざわざそれを問い詰める必要はない。なにより言うことで、僕のストレス発散になっちゃうのが絶対にダメ」。
そう考えていたから、極力言わないようにしていた。しかしそれは違った。言わないと、まったく伝わっていなかったのだ。
さらに「こちらからなんでも言わずとも、自分で考えさせるようにした。でも考えすぎて混乱して、プレーどころでなくなる選手が多い。しっかり消化してプレーできない。なんでも言ってしまって考えさせないのもよくないし、考えさせすぎるとパンク状態になる」という問題も噴出した。
言うのか言わないのか。考えさせるのか、そうでないのか。「どこまで」という、その“加減”が非常に難しいと痛感した一年でもあった。
それだけ未熟な選手が多かったということだが、しかしそれは逆に“伸びしろ”でもある。
「今年一年やって、成長する兆しが見える選手がいっぱいるんで、そういう選手たちが来年、いい戦力になってくれたら。僕自身ももっとコミュニケーションをとって、今以上に『こんなことまで』ということを言っていかないといけないんだと思う」。
実際、今季も最終盤に来季につながるものが見えた。
「最後のほうは口酸っぱくいろいろなことを言って、それが試合の中で形としてできるようになってきた。そうすればやっぱり試合は締まるし、勝ちきれる。いい勝ち方ができるようになったし、強いなと思える試合もあった」。
これが前期の間にできていれば…という悔いもあるが、それも経験したからこそ出た答えだ。来季、上昇するための布石は間違いなく打てたといえる。
そして「来年もやるって言ってる選手たちは、みんな来年に向けてのテーマや目標、自分の課題はもって終わっている。それだけ考えられるようになった」と、選手への手応えも深めた。
苦しんだ闇の中から見出した明るい光。
同じ轍は踏まない。
来季の福井ミラクルエレファンツはきっと光り輝く。
(撮影はすべて筆者)