中国の数億人が「熱波」で居住不能になる恐れ
日本列島は「命に関わる高温」に見舞われているが、中国の広大な範囲が気候変動や都市化などによって高温化し、今世紀中にそのほとんどの地域が居住不可能なほどの熱波(Heat Wave)に襲われるという論文が出された。PM2.5が中国から日本へ渡来する越境問題は終息しつつあるが、熱波についてはどうなるのだろう。
中国を襲う熱波
先日、英国の科学雑誌『nature』の「nature COMMUNICATIONS」オンライン版に、シンガポールの国立研究財団(National Research Foundation Singapore)と米国のマサチューセッツ工科大学が共同で設立したSMART(Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)研究グループが、熱波によって中国の中心的な農作地が高温化し、今世紀中に屋外労働できないほどの熱波に襲われる可能性が高いという論文を発表した(※1)。
気候変動と自然開発、環境破壊、都市化などにより、世界的に気温が上昇している。特にインドやバングラデシュ(※2)、中国と行ったアジア地域での上昇が顕著だ。
21世紀に入ってから何度か中国は強烈な熱波に襲われてきた(※3)。ここ50年間の世界の平均気温の上昇は10年で約0.13℃だが、中国の場合は約0.24℃と倍近い。都市部の高温化も深刻だが(※4)、この論文では中国の中心的な農作地である北東の平原地帯が異常に高温化すると予測している。
なぜ中国がこれほど高温化しつつあるのかといえば、複数の要因が考えられる。
降雨量の相関関係では中国東部の場合、降水量が増えれば温度が下がる傾向があり、降水量が減少していることが中国東部の高温化に影響しているという論文もある(※5)。熱波の定義から複数の論文を比較評価した研究(※6)によれば、人口密集地やこれまでも熱波に襲われてきた地域の気温上昇が顕著で高い湿度による不快指数も高温化の体感には重要と指摘している。
越境する気候変動の影響
中国の都市化は急速に進んでいるが、2016年のデータでは中国総人口13億8271万人のうち、都市部に居住する人口は7億9298万人(人口による都市化率57.35%、日本の都市化率66%)だ。特に、北京(86.5%)、上海(87.6%)、天津(82.93%)、珠江デルタ(84.85%)などの都市化が激しい(※7)。
中国の都市化を示した地図(2015年)。東北部の農作地に都市化のクラスターが集中しているのがわかる。Via:Xingliang Guan, et al., "Assessment on the urbanization strategy in China: Achievements, challenges and reflections." Habitat International,, 2018
都市部はいわゆるヒートアイランド現象(都市キャノピー・モデル)により高温化する(※8)。二酸化炭素排出抑制の妨げになる都市化は、結果的に気候変動や温暖化、熱波の原因にもなるというわけだが(※9)、中国の高温化は日本にどのような影響を与えるのだろうか。
中国でのPM2.5はここ数年で減少傾向にあり、日本への影響も漸減してきている(※10)。中国4都市のPM2.5値は年平均9.9%ずつ減少し、二酸化炭素濃度も同じように減少しているようだ。
ただ、これは東アジアの国々が温暖化や気候変動などについて、EUのようにコンセンサスを共有しつつ協力し合って問題解決した結果ではない。中国で大気汚染が深刻になれば、PM2.5だけでなく日本で酸性雨が降ることにもつながる。
2013年の7〜8月(a〜f、dは8月10日)の風向き(黒い矢印)と中国の気温(下のバー)。太い青線は西太平洋亜熱帯高気圧(Western Pacific Subtropical High、夏の太平洋高気圧)、緑の四角は長江デルタ(Yangtze River Delta)。Via:Jun Wang, et al., "Urban warming in the 2013 summer heat wave in eastern China." Climate Dynamics, 2017
夏季の偏西風は中国大陸や南シナ海から日本列島へ吹いてくる。中国の農作地を熱波が襲い、数億人規模で被害が出れば、日本への影響は大きいだろう。
そうした地域に居住できない住人が増えれば未知数の影響が出てくるはずだ。東アジアの各国は協調して気候変動と温暖化の問題解決に向かうべきだし、そのリーダーシップは日本がとるべきだろう。
※1:Suchul Kang, et al., "North China Plain threatened by deadly heatwaves due to climate change and irrigation." nature COMMUNICATIONS, Doi: 10.1038/s41467-018-05252-y, 2018
※2:Eun-Soon Im, et al., "Deadly heat waves projected in the densely populated agricultural regions of South Asia." Science Advances, Vol.3, No.8, 2017
※3-1:Zhao Hui Lin, et al., "Quantifying the attribution of model bias in simulating summer hot days in China with IAP AGCM 4.1." Atmospheric and Oceanic Science Letters, Vol.9, Issue6, 2016
※3-2:Yang Chen, et al., "An Inter-comparison of Three Heat Wave Types in China during 1961-2010: Observed Basic Features and Linear Trends." Scientific Reports, doi: 10.1038/srep45619, 2017
※4:Jun Wang, et al., "Urban warming in the 2013 summer heat wave in eastern China." Climate Dynamics, Vol.48, Issue9-10, 3015-3033, 2017
※5:Zingcai Liu, et al., "Spatially distinct effects of preceding precipitation on heat stress over eastern China." Environmental Research Letters, Vol.12, No.11, 2017
※6:Xingliang Guan, et al., "Assessment on the urbanization strategy in China: Achievements, challenges and reflections." Habitat International, Vol.71, 97-109, 2018
※7:Qingling You, et al., "A comparison of heat wave climatologies and trends in China based on multiple definitions." Climate Dynamics, Vol.48, Issue11-12, 3975-3989, 2017
※8:「『打ち水』議論で重要なのは『保水力』である」ヤフーニュース:2018/07/26
※9:Chenyang Shuai, et al., "Identifying the key impact factors of carbon emission in China: Results from a largely expanded pool of potential impact factors." Journal of Cleaner Production, Vol.175, 612-623, 2018
※10:鵜野伊津志ら、「PM2.5越境問題は終焉に向かっているのか?」、大気環境学会誌、第52巻、第6号、2017