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カニの女王様が教える「オンライン商談」を成功に導く7つの秘訣(1/4)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは、株式会社ピグマリオン代表取締役社長の柏恵子(かしわ けいこ)さんです。柏さんは水産を扱う商社に入社後、2年目にタラバガニを30億円、3年目には50億円売り、「タラバガニの女王」と呼ばれました。現在は、人材育成コンサルタント・研修講師として、営業力強化の研修やワークショップを企業向けに実施しています。2回目の登壇となる今回は、コロナ禍で増えた「オンライン商談」を成功に導く秘訣を伺いました。

<ポイント>

・オンラインと対面の営業の違いとは?

・時代は「横軸商談」から「縦軸商談」へ

・営業は「足で稼ぐ」から「一発で仕留める」に変化している

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■コロナで営業スタイルは大きく変わった

倉重:今回は2回目の登場となるカニの女王、柏惠子さんにお越しいただいています。どうもよろしくお願いします。詳しくは前回の対談を参照してほしいのですが、改めて自己紹介いただけると大変助かります。

【前回対談はこちら】

柏:株式会社ピグマリオンの代表の柏惠子と申します。人材育成コンサルタントであり、研修講師です。元々は商社ウーマンで、入社2年目にタラバガニを30億、 3年目に50億売り、そのまま16年間トップを独走。付いたあだ名が「タラバガニの女王様」でした。

倉重:電話営業でそれだけ売ったのですよね。

柏:ほとんど電話です。早朝6時出社で15時まで電話をし続けて、タラバガニを30億売ってしまうという、とんでもない営業でした。44歳の時に仕事中の事故でキャリアが崩壊。『7つの習慣』で有名なフランクリン・コヴィーという、アメリカのコンサルティング会社に転職しました。

倉重:そちらでも営業は世界レベルだったのですよね?

柏:そこは『7つの習慣』という研修を売っていました。いちばん売っていた時で、世界販売ランキング7位です。ただ、12年間いたうちの半分はスランプでした。

倉重:転職して全然売れない時期もありましたか?

柏:まったく売れなかったです。直前のウーマン時代の売上が30億だったのに、最初の年は135万円しか売れませんでした。今営業研修をさせていただいていますが、その時の失敗経験は大変役に立っています。

倉重:ありがとうございます。「カニの女王」から世界7位の営業になった話は、前回の対談の「カニの女王様が教える営業の極意」でお読み頂ければと思います。(前回対談)

■オンライン商談力を高めるためには

倉重:今日お聞きしたいのは、「コロナの中で営業の在り方」です。昭和の時代は、とにかく数多く会いに行ったり、飛び込み営業をしたりしていました。そのスタイルと、オンライン時代の営業の特質性や意識すべきことには、やはり違いがあると思います。そのへんを深堀りしていければと思います。

柏:コロナの中で営業スタイルは、大きく変わりました。一般の営業職の方もそうですが、倉重さんのような士業の方も、商談が全部オンラインになったと思います。そこで結果を出すには、対面とは違うノウハウが必要になってきます。お困りの方も多いと思いますので、今日はそのあたりを解き明かしていけると良いですね。

私も、コロナ禍によって対面で研修する事が難しくなり、2020年の5月からすべてオンラインに切り替えました。2020年の5月から2021年の5月まで、130本の研修をしたのですが、そのうちの110本が製薬会社さん向けだったのです。年間受講者人数が延べ2,500人でした。一気に製薬会社さんの事情通になり、2021年7月に『突破せよ! 新時代を生き抜くMRの掟』という本を医薬経済社さんから出版しました。製薬会社の営業職であるMR(医薬情報担当者)向けの書籍です。MR職の方たちが、時代の転換で苦戦されている状態を解き明かしていく営業の本です。多くの部分は、一般の営業の方やオンラインで成果を求められるビジネスパーソンの必須スキルと共通しています。今日はこの本の中から「オンライン商談を成功させる7つの秘訣」についてお話しますね。

倉重:素晴らしいです。ぜひお願いします。ご覧いただいている営業職の皆さんのオンライン商談力を高めるということを目標にしたいと思います。

■オンライン商談は一発で仕留める心意気で

倉重:早速ですが、オンライン営業と対面営業との違いで、意識したほうがいいのはどんなところでしょうか。

柏:最初は「どのような考え方でオンライン商談に臨むか」という事です。これまでは、「何回も会えば、お客様との人間関係は深まって、関係性ができていくのではないか」と多くの営業は考えて行動してきました。

倉重:何回も会う内に相手との距離が縮まるということですね。

柏:「営業は足で稼げ」と言いますよね? そのような昭和の営業の手法を捨てていかないと難しいのです。対面の商談からオンライン商談への切り替えのマインドセット、頭の切り替えが必要です。「人間関係は会って構築できる」という前提でいると、行動も失敗してしまいます。

倉重:昭和的な営業スタイルで、とにかく回数多く会いに行って、御用聞きをすることではないということですね。

柏:多くの営業がこれまで信じて来た効果のことを「ザイアンス効果」といいます。

倉重:どのような効果ですか?

柏:ロバート・ザイアンスという人が考えた考え方で、「接触回数が多ければ多いほど人間関係が深まる、相手の好意関心が増す」という効果です。

出典 医薬経済社 「突破せよ!新時代を生き抜くMRの掟」柏惠子著イラスト:安良岡和美
出典 医薬経済社 「突破せよ!新時代を生き抜くMRの掟」柏惠子著イラスト:安良岡和美

柏:ひと昔前の営業の方は、たくさん会うことが正義でした。「60分で1回会うよりも、20分で3回会ったほうが、ザイアンス効果が発動する」という教えを忠実に実行してきたのです。とくに製薬業界では、「顧客である先生にできるだけ接触しなさい」ということを徹底してきました。他の業界ではあまりみない成果指標ですが、製販分離の製薬業界では営業(MR)が先生に対して価格交渉権を持ちません。売上を成果指標にできないので、接触回数が、営業の評価項目として長年入っていました。ここへ来てだいぶ変わってきているようですが、つい2年ぐらい前まで、ほとんどの製薬会社さんでは「会った回数が処方量につながるから、接触しろ」と訪問件数のアップを促しているような状態でした。

倉重:手段と目的が入れ替わっている感じがします。

柏:本来は正しい情報が先生に伝わることがゴールだったのですが。その考え方のままで、コロナ禍に巻き込まれ、多くの製薬会社の営業は先生に直接会うことができなくなってしまいました。

倉重:コロナですから、病院は感染症も心配ですよね。

柏:なので、もう接触はできません。製薬業界は極端な事例に感じるかも知れませんが、多くの営業職やビジネスパーソンたちも、これまでは「とにかく会おう」というスタイルでいた事も事実です。

倉重:その前提が変わると、必要なスキルも違ってきますよね?

柏:「会えば良い」という安易な商談など、オンラインには存在しません。倉重さんのおっしゃるように必要なスキルが変わってきたのです。1度の商談で要点を議論して、ぱっとクロージングするスキルが、オンラインでは必要になってきます。

倉重:ごあいさつに行って、話を持ち帰って検討し、もう一回来社して提案するなど、やっている場合ではないということですね。

柏:「初回はお顔合わせ」だと思っている営業がよくいます。オンラインになって、実は1回の商談の価値やスピードも上がっています。お客様もよりゴール意識、目的を持って商談に臨んでいます。ここに気づくのが、最初の大切なポイントです。

これまでの営業スタイルが、図のように横に進んでいく横軸営業であるとすれば、これからは、時間も節約して一気にクロージングする縦型にならないと、営業職としては、少し厳しいと考えています。

倉重:横軸商談は、時間の経過とともに、人間関係が深まっていくのですね。

柏:そうです。例えば1回目のご商談、2回目の商談と、だんだん信頼関係が深まっていき、「5回目ぐらいで大きなご商談がまとまるといいな」というのが、今までの営業の考え方だとします。オンライン商談では、目的意識や必要情報の即時共有など、すべてがスピードアップしているので、一度で話をまとめていく意識が重要です。言い方は悪いですが、「一度で仕留めていく」ような感覚です。お客様と新しい価値をその場で見いだしていくのが、今後の営業のスタイルで大切なことだと考えています。

倉重:一発で仕留めるのですね。

柏:「足で稼ぐ」から「一発で仕留める」に変化しています。一度でクロージング(商談をまとめる)する心意気で臨む必要があるのです。

倉重:確かに「無駄なことはやらなくていい」という価値観が増えたかもしれません。

柏:本当にスピード感が以前より増していますよね。

倉重:対面でも「何のために会いますか」という目的から考えるように変化していますよね?

柏:はい、私のお客様もゴール設定をして下さいます。

倉重:対面であればなおさら、「これは何のためにやるのか」ということを、すごく考えているような気がします。

柏:対面の時でも、倉重さんがおっしゃったように、「今日は何のために会うのか」という目的を考えると思います。オンラインになって、よりその内容が濃くなり、1回の商談の価値が上がりました。最初は会議の時間を60分取っていたのに、45分に減らした会社もあります。お客様のほうも営業に対して「ごめん、15分で準備して次の商談や会議に行きたいから、時間は45分でお願いします」というお願いするようになってきました。時間は短くなり、密度は濃くなってきています。こんなサイクルで高速で営業現場が変化しています。

倉重:確かにリアル商談より時間は短くなるかもしれません。

柏:その傾向があるので、ビジネスパーソンの皆さん、特に営業の皆さんには、ぜひオンライン商談のスキルを身に付けていただきたいと思っています。

倉重:オンライン用の営業スキルセットが必要というわけですね。

(第2回はこちら)

対談協力:柏 恵子(かしわ けいこ)

人材育成コンサルタント・研修講師

株式会社ピグマリオン代表取締役社長

明治大学専門職大学院 グローバルビジネス研究科 経営学修士(MBA)

食品メーカー水産部門での16年間の商社ウーマン時代を経て、2005年米国コンサルティング会社、フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社入社。シニアコンサルタントとして12年間、2000人以上の経営層、人事責任者と人材育成の仕事に携わる。2017年 株式会社ピグマリオン設立。経営理念の策定・浸透のコンサルテーションおよび営業力強化の研修やワークショップを企業向けに実施。

2021年7月 医薬経済社より「突破せよ!新時代を生き抜くMRの掟」を上梓

雑誌「医薬経済」で「アフターコロナのMR像」を連載中

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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