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カニの女王様が教える「オンライン商談」を成功に導く7つの秘訣(2/4)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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新型コロナウイルス感染症の影響により、オンライン商談の機会が増えてきています。これまでリアルでの接触をとくに重視していた営業担当者は、対面のときよりもオンライン商談は難しいと感じているようです。オンライン商談を有利に進めるには、どんなところに気を付ければいいのでしょうか? 前回に引き続き、柏恵子さんに「オンライン商談を成功に導く7つの秘訣」を聞きました。

<ポイント>

・「もうかる声」を手に入れる

・Zoomは「映え」と「盛り」が命

・オンライン商談では「120%の顔芸」をする

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■見た目と声のインパクトが逆転

柏:ここから、いよいよオンライン商談を成功させるスキルの話に入っていきます。まずは前提条件についてお話します。倉重さん、「アルバート・メラビアンの法則」について、お聞きになったことはありますか?

倉重:「見た目と声と内容」というものですね。柏さんの本で読みました。

柏:ありがとうございます、この図表です。

柏:アルバート・メラビアンという人が、ビジュアル、見た目やしぐさ、表情、視覚が相手にどのような影響を与えるかを調べたものです。この図では、視覚情報が55%の影響を与えるという結果になっています。声の質やトーン・速さ・口調で38%。言葉・内容が与える影響は実際には7%だけなのです。

倉重:話の中身が7%とは! 

柏:はい、すこし寂しい数字ですね。そして、オンラインになると、この見た目と声の比率が入れ替わっていると体感しています。視覚情報と聴覚情報のインパクトの比率の逆転が起こっているのです。でも人によっては、お客様との対話中、常にパワーポイントなどの画面を出しっ放しにしてしまう人などもいます。

倉重:自分から、わざわざ視覚情報を減らしてどうするんだと。

柏:営業職だけでなく、専門家として説明が多くなる士業の先生方なども、パワーポイントを終始出しっぱなしにしていることは多いのではないでしょうか?

オンライン商談ではどうしても視覚情報が少なくなります。それに対抗するためには、これまで以上に気を使って、重要度を増した「声」を鍛えていくか、もしくは視覚情報を増幅していくしかありません。ここからは、オンライン商談の7つの秘訣についてお話します。

■秘訣その① オンライン商談は「映え」と「盛り」が大切

柏:まずは、少なくなりがちな視覚情報を増幅するために、オンライン商談はやはり「映え」と「盛り」が大事です。

倉重:私も、オンラインの時は、ライトをつけて、Zoomの美肌効果を利用しています。

柏:それを是非みなさんにもやっていただきたいです。Zoomには必ず顔面補正があるので、男性にも「2割ぐらいは補正してください」とお願いしています。

倉重:インスタと一緒ですね。

柏:どのようにして自分を盛るかです。

倉重:柏さんはジャケットの色にまでこだわっているそうですね。

柏:私は研修の時に白ジャケットを愛用しており、全部で7着持っていました。しかし、Zoomの背景では、白ジャケットだと自分が消えてしまうのです。背景を濃くすれば良いのですが、全体の印象を明るくするために、背景は白っぽいものを選んでいました。

倉重:バーチャル背景と同化してしまうということですね。

柏:なので、戦略的にピンクや黄色や赤やオレンジなど、ぱっと見て盛れそうな色を選んでいます。

倉重:声とビジュアルに投資せよということですね。

柏:そうです。左の画像2つが白ジャケット、右の2つがカラージャケットです。「人に与えるインパクト」という点で見ると、いかがですか? 左側の下の段は、白背景の白ジャケットで同化してしまっています。この状態で動いて、話してもあまり印象に残りません。短いオンライン商談の間に相手にインパクトを与えたり、視線を引き付けたりすることを考えると、この少しの違いが結果に大きく影響します。

柏:映えや盛りなどで自分を戦略的にどう見せるのか。カメラの位置をどのようにするかということに、徹底的にこだわるべきです。私は真正面で画面を見てしゃべってしまうと少々猛々しく見えてしまうことがあるので、少し伏し目がちになるように、カメラは少し落としています。

倉重:目線まで意識しているのですか。

柏:必ず意識して設定しています。下の段の2つの写真では、私がパワーポイントの上に乗っていますが、これはZoomのバーチャル背景としてのパワーポイントという機能を使っています。画面を出したまま話が長くなる時は、最初からこの機能を使います。難しくないので、ぜひ皆さんにも挑戦して頂きたいです。

■秘訣その②オンライン商談では、顔芸120%

柏:映えと盛りで視覚情報を増幅させたら、リアクションも「120%UP」を意識して下さい。性格によっては、「恥ずかしい」と思われるかも知れません。顔だけで感情を表現する役者さんの「顔芸」のようなイメージです。テレビショッピングの「ジャパネットたかた」のテレビCMはすごい迫力ですが、あのイメージです。

倉重:やはりリアクションを大きくしないと見えないですよね。

柏:よく首だけ出ている人がいますが、もったいないです。

倉重:カメラの位置もこだわるということですね。

柏:もちろんです。120%のリアクションをするなら、営業の方は手まで出ていたほうが得です。手に感情を乗せることができるからです。この方法で視覚情報の少なさを補うことができます。

倉重:確かに「オープンマインドです」ということが伝わるように、手の動きは必要ですね。

柏:オープンの時には手のひらを見せるほうがいいですし、断定する時にはやはり少し手を押さえたりするリアクションのほうが効果的なので、絶対にそのほうがいいです。そのあたり倉重さんはもう随分と工夫されていますね。倉重さんは事務所のバーチャル背景を使われるなどの対応も、他の方に比べて早かったですね。

倉重:最初から1年間ずっとそうしています。

柏:オンラインへの対応は、皆さん試行錯誤をしながらなので、素早い対応は、かなりのアドバンテージになりますね。

出典 医薬経済社 「突破せよ!新時代を生き抜くMRの掟」柏惠子著イラスト:安良岡和美
出典 医薬経済社 「突破せよ!新時代を生き抜くMRの掟」柏惠子著イラスト:安良岡和美

■秘訣その③ オンライン商談は声が命

柏:視覚情報が少なくなった為に、自動的に重要度を増してしまったのが、声です。声を鍛える必要があります。アルバート・メラビアンの法則の聴覚情報と視覚情報のインパクトの比率が逆転しているとすれば、オンライン商談は声が命になります。お客様の都合で画面がオフになってしまうと、声の比率は更に重要度を増していきます。

倉重:「もうかる声を手に入れろ」と書籍に書いてありました。

柏:営業職としては、お客様の心を動かせる「もうかる声」を手に入れなければ、もったいないということです。営業職に限らず、ビジネスパーソンにとって、オンラインでの面談のインパクトはとても大きくなります。声の部分を強化することで、成果も大きくなっていくと思います。

倉重:ボイトレをしたり、外郎売(ういろううり)を読んでみたりするのですね。

柏:書籍をきっちりお読み頂きありがとうございます。書籍には、トレーニング方法などを色々書いていますので、ご興味のある方はお読み頂ければと思います。

オンラインになってパワーポイントで画面共有ができるようになり、説明も楽になっています。多くの営業は何をするかというと、プレゼンの練習を始めるのです。

倉重:「上手にプレゼンができれば売れるのではないか」と思いますよね。

柏:そう考える傾向がすごく強くなっています。コロナで訪問件数が減ってしまってなんとか売上を伸ばしたい駄目営業は、「今、プレゼンを一生懸命練習しています」と言うのです。

倉重:うまく説明できたら契約が取れるわけではないのですよね。まずは朝に風呂で1曲歌えということですね。

柏:はい、私はお風呂で1曲歌って、声を鍛えてから、一日をスタートすることを日課にしています。営業として当り前のことですが、成果を大きくするためには、立板に水で自社製品やサービスについてうまく説明するよりも、お客様の話をきちんと聞くことが大切です。

これほど相手に伝える内容よりも「声」が大事だというのに、パソコンが1人1台ないという会社はまだまだ多いです。

倉重:それは結構あります。上司といっしょに会議に出てもいいけれども、1人1台でやってくれと言いたいです。

柏:本当にそのとおりです。会議室からの参加など止むを得ない場合もありますが、その状況ではないのに、2人で一台使っているというのは、私の周りでも「あるある」なのです。当然イヤホンですと、音声は共有できませんから、会議用のマイクを使用していないとPCから音声を拾うことになります。そうすると正面の方以外の声はよく聞こえてきません。声が本当に大事になってきていると認識しておいた方が、結果につながると思います。

■秘訣その④オンライン商談はインタラクティブさで勝負

柏:オンラインで営業する時のお勧めは、インタラクティブ(双方向)な場を作ることです。やはりオンラインだとどうしても一方的になりがちです。

倉重:しゃべり過ぎるなということですね?

柏:一方的に話すのではなく、お互いにやり取りすることが大切です。このインタラクティブさは、オンライン商談では、今まで以上により意識したほうがいいです。

倉重:例えば、どのような感じでするのですか。

柏:「語る」が一方的に話すことだとすれば、「語りかける」は、相手の様子や心の動きに気をつけながら話しかけるイメージです。オンライン研修などでも、大体は5分に1回は必ず「〇〇さん、いかがですか」というように話し掛けます。対面では4人か5人で商談をしている時でも、必ず5分に1回は「今、うなずいてくださいましたけれども、このあたりはいかがですか」と話しかけています。

この写真は、500名の対面での研修です。対面研修でも常に語りかけることを意識していましたが、それをオンラインでも実践しています。何人いても、一人の方に向かって語りかけ、その方が頷いて下さったら、また次の方に向かって語りかけています。不思議なもので一人に語りかけていると全体に波及して、飽きさせずに話を進めることができます。

倉重:「オンラインで飽きずに集中して聞けるのは5分まで」という話がありますね。

柏:ボブ・パイクさんというアメリカの研修インストラクターで、権威の方がいらっしゃいます。日本語でも本が出ています。その方がインストラクションをする時に、「研修は90分、20分、8分だ」という話をしていました。飽きずに聞けるのが8分だそうです。

Understanding    →「理解しながら話を聞ける」 90分

Retention    →「記憶しながら話を聞ける」 20分

Involvement    →「飽きないで話を聞ける」  8分

講師・インストラクターハンドブック ボブ パイク/中村文子著 日本能率協会マネジメントセンター

柏:ところが、オンラインになると、「90分、20分、8分」がさらに短くなって、「60分、15分、5分」になっているのを実感しています。倉重さんがおっしゃるように5分ぐらいでやりとりをしていただくほうが効果的かと思います。

■秘訣その⑤オンライン商談は準備で優勝

柏:5つ目の秘訣は、オンラインならではの特徴を生かしたものです。オンライン商談で対面より有利なことは、相手の情報をカンニング出来ることです。「段取り8分」などと言いますが、オンライン商談においては、「準備」で優勝も可能です。決してないがしろにしないで、しっかりして頂きたい部分です。営業で成果をあげている皆さんは、事前に相手のことを良く調べていることと思います。オンライン商談で、より準備に差がつくのは、対面よりも、手元に情報をおいて、確認しながら話せるためです。

最初にお話ししたとおり、オンラインで一商談の価値とスピードも上がってしまいました。お客さまの大切に考えているところにたどり着くまでに、今まで以上に事前にきっちりと準備をする必要があります。

私もオンライン商談の利点を生かして、画面にも、正面の壁にも「あんちょこ」(カンニングのメモ)を貼りまくって準備をします。手元のメモを見るより、PCや正面の壁に付箋を貼った方が、相手としっかり目線をあわせることができます。

倉重:相手から見ると、「いろいろ覚えてくれている」と思って頂けるかも知れません。

柏:そうなんです、私も製薬会社さん向け商談などでは、領域ごとの製剤名を「一般名」と「製剤名」で暗記するのですが、これがとにかく難しいのです。一般名は業界外の人間から見ると専門用語のように難解でして、研修中に一般名を間違えずに言うのは奇跡に近い状態です。ときどきアンケートに、「うちのMRより良く薬をわかっている」「英語の製剤名をよどみなく言うので驚いた」などと書いていただきますが、実はカンニングをしています。

この写真の背景を見て下さい。研修用のセットアップですが、壁にもびっしり資料が貼ってあります。私の場合、目線を変えずに見られるのが、パソコンのモニターの下の位置のカンニングのメモです。この写真では左のモニターの下に名刺サイズのカードが貼られています。詳しいお客様の情報は手元にメモしています。ここぞという「言葉」やお客様に取って重要な「キーワード」は、出来るだけカメラの目線移動の少ない場所に貼るのがポイントです。

柏:対面営業のときは、アイスブレークとして、できるだけ相手の共感を呼ぶようなネタをきっちり仕込んでいって、最初から会話をぽんぽんと弾ませていました。弾んだところで相手が何を大切にしているのかを明らかにするための質問をしていきます。そのために対面の時以上に徹底的に準備をします。このような考え方をすることで私自身のオンラインでの営業スタイルも1年で大きく変わりました。1年前は「画面オンが基本ですよ」「ミュートにしないほうがいいですよ」くらいの認識だったのですが、もっともっと工夫をしていかないと、とてもじゃないけど短い時間のオンライン商談で、クロージングまでたどり着けないというのが、1年やって分かってきました。

(つづく 第3回はこちら

対談協力:柏 恵子(かしわ けいこ)

人材育成コンサルタント・研修講師

株式会社ピグマリオン代表取締役社長

明治大学専門職大学院 グローバルビジネス研究科 経営学修士(MBA)

食品メーカー水産部門での16年間の商社ウーマン時代を経て、2005年米国コンサルティング会社、フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社入社。シニアコンサルタントとして12年間、2000人以上の経営層、人事責任者と人材育成の仕事に携わる。2017年 株式会社ピグマリオン設立。経営理念の策定・浸透のコンサルテーションおよび営業力強化の研修やワークショップを企業向けに実施。

2021年7月 医薬経済社より「突破せよ!新時代を生き抜くMRの掟」を上梓

雑誌「医薬経済」で「アフターコロナのMR像」を連載中

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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