GLAY HISASHIが語る音楽、カルチャー、ファンへの愛
GLAYが全7曲入りの最新E.P『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』を9月27日にリリースした。今作では、TERU(Vo.)、TAKURO(Gt.)、HISASHI(Gt.)がそれぞれ作詞作曲を手掛けた書き下ろし楽曲を収録。同じく収録されているTAKURO作詞、JIRO(Ba.)作曲の既出曲「THE GHOST」の80 KIDZ Remixも含めれば、メンバー全員分の楽曲が楽しめる構成となっている。
今作に収録の「Pianista」は、HISASHIがモバイルゲームアプリ『ブラッククローバーモバイル 魔法帝への道 The Opening of Fate』のテーマ曲として書き下ろした曲である。HISASHIは常にカルチャー全般にアンテナを張り、曲数こそ多くはないものの、1995年からGLAYのなかで異彩を放つキャッチーな楽曲やトリッキーな楽曲を数年ごとに発表してきた。この曲についての話題を中心に、ギタリストとしての思い、来年メジャーデビュー30周年を迎えるGLAYの現在について話を聞いた。
――HISASHIさんが作詞作曲を手掛けた「Pianista」は、アーティストのサクライケンタさんがアレンジに参加されていますね。
HISASHI:BiSきっかけでMaison book girl(※サクライケンタが制作を手掛けたアイドルグループ。BiSのコショージメグミが参加)を好きになって、それがきっかけでサクライケンタくんを知って。何か一緒にやりたいと思っていて、オンライン上ではずっと繋がっていたんだけど、『ブラッククローバー』のお話があってようやく実現しました。僕は例えばアイドルの曲を聴いて、「ここからGLAYへの繋げ方もあるよな?」と接点を考える。そういうのが好きなんです。常に正攻法ではないギミックを求めるというか。GLAYに新しい要素をぶつけて、その化学反応を確かめたいという感覚がずっとあって。
仮にGLAYの王道があるとしたら、それをちょっと横道に逸らせてほしいというか、何なら壊しに来てほしい。そこはメンバー全員が思っているはずだし、一方でそれぐらいじゃGLAYは絶対に壊れないという自信もあるから言えるんですが。僕は常に新しいことにチャレンジしてきたU2先輩にカッコよさを感じてきたので。そこは後輩のバンドでも同じですね。年齢とかキャリアに関係なく、常にカッコいいことをやっている人を見ると嬉しい反面、悔しいとも感じるし。そこはずっと「負けたくない」と思っていますね。
(GLAY「Pianista」)
――この曲、タイトルは「Pianista」なのに、ピアノの音が全く入っていませんね。
HISASHI:実はデモの時点ではもろにピアノロックだったんです。でもサクライケンタくんと一緒に制作を始めたら、マリンバとか変拍子のリズムとかすごく彼らしいアレンジがどんどん加わっていって、結局ピアノの音は無くなったんだけど、名前だけは残しとこうかなって(笑)。
――そもそも歌詞の発想はどこから?
HISASHI:曲が先にあって、歌詞は『ブラッククローバー』のテーマに寄せて書き始めました。週刊少年ジャンプ(※同作の連載媒体)特有のヒロイズムですね。サビでは元気に胸を張って生きていてほしいという思いも込めながら。ミュージックビデオには顕著に出ていますが、要は音楽を目指して失敗する人の物語です。
僕らはたまたま運がよかったけど、世間にはそんな人たちもたくさんいる。そういう人と、その周りの人を描きたかった。生きるって大変なことじゃないですか。どんな人にも壮絶な人生はあると思うし。でもみんなしっかりと生きている。その切なさのようなものも描けたらと思いました。
――個人的には、「スマホの数だけ咲いたストーリー」という歌詞が現代を端的に表現した秀逸なフレーズだと感じられました。
HISASHI:ありがとうございます。この曲の1番の歌詞は、明るいけど、実はすごく家庭が大変で、葛藤を抱えている子が主人公。でも2番ではいきなりカート・コバーンの話になって、クエンティン・タランティーノの映画ぐらい話が飛んじゃう(笑)。
――ニルヴァーナのカート・コバーンですね。カートをはじめ、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリン、ブライアン・ジョーンズといった27歳で逝去したミュージシャンたちには、何か特別な思いが?
HISASHI:10代の頃は少し憧れもあったのかな。僕はパンクからロックに入ったし、ロック=衝動でしたから。でもGLAYのメンバーと会って変わった。メジャーデビューすればビジネスという側面もあるし、あまりに目まぐるしくてパンクの精神で「ノー・フューチャー!」とか言ってる場合じゃなかった(笑)。
僕は昔からカウンターカルチャーやサブカルチャーが好きで。いまでもそれが自分のなかでべったりと貼り付いている。それはアンダーグラウンドなものでもあるし、アイドル文化でもある。だから今回サクライケンタくんと一緒にやったのも同じ視点ですね。からっとした清々しいロックにはどこか追い付けないような気持ちがずっとあって、それがいまの自分を形成しているような気がします。
(GLAY『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』Trailer)
――最近のカルチャーで気になるものはありますか?
HISASHI:いろいろありますけど、音楽チャートはずっと面白いですね。ナードコアといいボカロといい、日本人の耳って音楽にすごく貪欲じゃないですか。新しいものを見つけては飽きて、また新しいものを求めている。僕自身、ネットカルチャーやネットミームの様子もチェックしつつ、常に新しいものを探していたい。アイドル、アニメーション、ゲームも含めて、日本のポップカルチャー全般をずっと愛していますね。これからは、子供の頃からK-POPを聴いていた子や、英語をネイティブのように扱うアーティストがさらに増えていくと思う。昔のJ-POPや歌謡曲も大好きだけど、僕は「昔のほうが良かった」とは全く思わない。YOASOBIの「アイドル」なんてとてもよく出来ているじゃないですか。今の音楽にも良いものはたくさんあります。
――今作のギタープレイについても聞かせてください。例えば「SEVEN DAYS FANTASY」は、TAKUROさんとHISASHIさんのギターが曲のグルーヴ(=ノリ)を引っ張っています。
HISASHI:リスナーによっては、かつてのGLAYをBOØWYのみなさんが作ったビート系の後継者みたいに捉えた人もいたかと思うんですが、実はGLAYが得意な曲って、こういうシャッフル系の楽曲とか、案外とグルーヴィーなものなんですよね。で、特に僕はそこを担うのが我ながら得意で上手い、と思う(笑)。
何より、僕には「TAKUROが作るメロディに対するプロのギタリスト」という自負があるんですよ。本当に僕とTAKUROは全くタイプが異なるんですが、それが良い相乗効果を生み出しているのかもしれない。言葉でギターについてのやり取りはほとんど交わさないけど、どの曲も上手くパート分けが出来ていますから。
――コロナ禍、ライブが止まった期間も、GLAYはリモートを駆使して制作を続けていました。
HISASHI:前向きに捉えれば、一度立ち止まって後ろを振り返るための時間になりました。多分、一度止まらなかったら、今まで通りにやっていた部分も大きかったんじゃないかと思います。僕はこの数十年、普通にディスプレイに張り付いてきたけど、メンバー各々がPCを使った制作を覚えてリモート環境を構築したことも、GLAYにとってはかなりプラスになったはずです。
――11月からはツアー『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost Hunter-』を行い、来年はメジャーデビュー30周年を迎えます。最後に現時点での抱負を聞かせてください。
HISASHI:これまでの周年でも言ってきましたけど、全方位に向けて“還元”したいですね。お客さんにも、マネジメントやレーベルにも、曲たちにも。感謝を込めてひたすら丁寧にやりたい。海外のアーティストが来日公演でやるような代表曲だらけのベタなセットリストをやってもいいし。とにかく「難しく考えないこと」を第一に、楽しくやれたらと思います。
気付けばCDだ配信だと29年も日本の音楽ビジネスに携わってこられた。ここまで来たら、この先、さらに何がどんなふうに変化していくのかがむしろ楽しみだし、見届けてやろうという気持ちになっています(笑)。GLAYはマネジメントも独立独歩だし、活動を他人頼りにせず、何が起きても誰かのせいにしない。常にスタイリッシュというか、スマートな佇まいのGLAYで在りたいと思います。そして僕個人としては、常に時代に抗う気持ちをどこかに持っていたい。それが僕自身、ずっと憧れてきたバンドマン像なので。
GLAY『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』
リリース日:9月27日
収録曲:1. Buddy 2. Pianista 3. U・TA・KA・TA 4.刻は波のように 5. SEVEN DAYS FANTASY 6. THE GHOST (80KIDZ Remix) 7. Ghost of GLAY 愛のテーマ