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チケット10万8000人分が完売。新プロデューサーが語る「VIVA LA ROCK 2024」

内田正樹ライター 編集者 ディレクター
(有泉智子(本人提供))

5月3日から6日まで埼玉県・さいたまスーパーアリーナにて「VIVA LA ROCK 2024」が開催される。2014年の初開催から昨年までに10回を重ねた「VIVA LA ROCK」は、もはや音楽ファンの間ではゴールデンウィーク恒例のイベントとして認知されている大型音楽フェスだ。

(『VIVA LA ROCK 2024』ロゴ。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)
(『VIVA LA ROCK 2024』ロゴ。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)

今年の出演アーティストは4日間で総勢97組。1日のキャパシティ2万7000人×4日間分、のべ10万8000人分のチケットはすでに完売している。

(『VIVA LA ROCK 2023』の模様。写真:小杉歩。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)
(『VIVA LA ROCK 2023』の模様。写真:小杉歩。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)

11回目を迎える今年からは、初回から昨年までプロデュースを務めてきた株式会社FACT代表取締役社長・鹿野淳から、新たに同社刊行の音楽誌『MUSICA』編集長・有泉智子へとプロデューサーのバトンが託された。国内の大型音楽フェスで、女性のプロデューサーが陣頭指揮を執るケースは極めてめずらしい。今年の「VIVA LA ROCK 2024」のポイント、音楽業界における女性の活躍、音楽フェスの現状への思いを有泉に聞いた。

(有泉智子(本人提供))
(有泉智子(本人提供))

有泉智子(ありいずみ・ともこ):1980年、山梨県生まれ。音楽雑誌『MUSICA』編集長/音楽ジャーナリスト。音楽誌、カルチャー誌などの編集部を経て、2007年の創刊時より『MUSICA』に携わり、2010年から同誌編集長を務めている。今年の「VIVA LA ROCK 2024」より同フェスのプロデューサーに就任。

“ロックフェス”としての鮮明なキュレーション

――「VIVA LA ROCK 2024」のチケットは3月2日から一般販売を開始し、4月の上旬には完売を迎えました。

有泉智子(以下、有泉):はい。実はさいたまスーパーアリーナは“アリーナモード”と“スタジアムモード”という、収容可能人数の異なる2種類の形態があるんですが、VIVA LA ROCKは6回目の2019年から“スタジアムモード”での開催に変更しました。つまりキャパシティを拡大して、かつ、それまでの3日間から4日間の開催へと変更したんですね。それ以降では初めて、しかも過去最速での全日完売を迎えました。

――その要因については、どう認識されていますか?

有泉:いくつか要因はあると思うんですが、やはりコロナ禍が明けたということはまず大きかったと思います。昨年の開催はコロナ禍でのライブにおける様々な制限を取り払い、歓声OK、マスクの着用もオーディエンスの自主判断という形を取りましたが、各所と協議の上でその形でできるという判断が下りたのも4月半ば頃で、コロナが5類に移行したのもゴールデンウィーク明けという状況でした。対して今年は、一般的にもコロナ禍が明けて最初のゴールデンウィークですので、そこは皆さんがイベントに出掛けるモチベーションに好影響を与えたのではないかと。昨年の夏も、各地の花火大会で過去最高の人出が記録されて話題になりましたけど、今年のVIVA LA ROCKは、そうやって再びみなさんが何も気にすることなく自由に出かけられるようになってから初めての開催なので、それがチケットの購買スピードにも影響したのではと思います。もう一つは、「VIVA LA ROCK」というフェスそのものの認知度が更に上がったこと。コロナ禍においても、2020年のオンライン開催や2021年の1万人限定という形を取りつつも、フェスとしての歩みを止めなかったことが、このフェス自体の認知度の向上や信頼の確立に繋がったのではないかと感じています。いずれにしても、これまでに出演してくれたアーティストや参加してくれたみなさんが、「VIVA LA ROCK」を信頼して育ててくださった結果だということは、強く実感しています。

(『VIVA LA ROCK 2023』の模様。写真:小杉歩。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)
(『VIVA LA ROCK 2023』の模様。写真:小杉歩。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)

――今年からプロデューサーを務めるにあたり、前任者の鹿野さんからノウハウの伝授やアドバイス、引き継ぎなどはありましたか?

有泉:それが、具体的な引き継ぎ作業や儀式みたいなものはほとんどなくて(笑)。もちろん自分が判断に迷うことやわからないことがあれば都度相談してアドバイスをもらっていますが、基本的に鹿野のスタンスは「有泉が自分で考えて、自分が思うようにやればいいよ」というものなんですよね。それくらい潔く託してもらえるのは、これまで鹿野がビバラをプロデュースするのを近くで見ながら一緒に動いてきたからこそ、「俺から学べることは既に学んできただろう」という信頼をもらっているのだろうと勝手に解釈しています(笑)。幸い、運営やステージ制作のチームはずっと一緒にビバラを作り上げてきたチームで、このフェスの理念やノウハウは十分に共有されているので、彼らがいれば大丈夫だという安心感はありますね。ちなみに鹿野は鹿野で、今年10月に開催する「TOKYO ISLAND」というフェスに注力していますので、そちらもご注目いただけたらうれしいです。

――有泉さんが今年のプロデュースで意識した点は?

有泉:変わる部分と変わらない部分を明確に描き出そうと考えました。「VIVA LA ROCK」は、初回から“ロックフェス”であることを大事にしてきたフェスで、そこは変えるつもりが全くなかった。今年も、ロックフェスであることの醍醐味と自由度をしっかりと体現したいということは強く考えてました。ただ、それは必ずしもジャンルとしてのロックに拘るという意味合いではなくて。ロックの精神って何なのかというのは様々な考え方があるとは思うんですが、私自身は、既存の価値観や誰かが決めたルールに囚われることなく、自分なりの信念を持って、自由に、自分自身の道を切り開くべく表現を追求しているアーティストであるということが重要だと思っていて。

――つまり従来の「VIVA LA ROCK」であり、有泉さんが考える“ロックフェス”としてのキュレーションをより鮮明にしようと?

有泉:そうですね。なので、バンド勢はもちろんのこと、ヒップホップ以降のポップミュージックの在り方を日本で体現しているアーティストや、ネットカルチャーから登場したソロアーティストにもご出演いただき、4日間を通して、様々な音楽観がクロスオーバーする今の日本の音楽シーンをアクチュアルにプレゼンテーションするようなブッキングを意識しました。もちろん、今年の「VIVA LA ROCK」がそのすべてを体現できているとまでは思っていませんが、4日間それぞれに音楽的なカラーリングも少しずつ変えていますので、全日程のラインナップを見ていただくと「いまはこういう状況なのか」「いまはこういう動きがあるのか」ということを感じていただけるはず、と自負しています。

――4日目(5月6日)はラウドなサウンドのロックアーティストが集まっていますね。

有泉:ゴリゴリのロックバンド、パンクバンド勢が集結してますね。出演アーティスト発表をするたびに「ビバラ最終日」がトレンドに入るくらい、SNSでもすごく話題になっていました(笑)。こういう日を作ったのは、意図的です。それこそコロナ禍以降、いわゆるミクスチャーとかラウドロックと呼ばれているような、サウンド的にもノイジーで、フィジカル的にも激しい遊び方をするジャンルのバンドは、苦戦を強いられてきた現実があって。各地のイベントやフェスでも、そういうバンドが集まる日の動員が苦戦するという声もありました。実際、ビバラもそうだったんです。でも、果たして本当にそうなのか?と。「ミクスチャーロック」とか「ラウドロック」って日本独自の言葉なんですけど、逆に言えばそういう言葉が根付くくらい、この国でバンドとオーディエンスが一緒になって作ってきたカルチャーだし、素晴らしいバンドがいっぱいいます。だから、「そういうバンド達だけで構成する日をちゃんとソールドアウトさせたい」、「そうすることでこのシーンの面白さを広く知ってもらいたい」という目標は当初から持っていました。チャレンジでもありましたが、達成することができてうれしいです。アーティスト主催のフェスだとこういうラインナップの日はたくさんあるんですが、「VIVA LA ROCK」としてそれを成立させることに意味があるんじゃないかと思っていたので。

――全体のブッキングを通しての勝率や手応え、ご苦労については?

有泉:もちろんオファーをしたものの叶わなかったアーティストもたくさんいますし、ブッキングの勝率――もちろん勝ち負けの世界ではないんですけど、敢えて勝率という言葉を使うなら、そもそもどんなフェスでも、ブッキングの勝率10割なんていうことはまず有り得ないと思います。だから当然、ブッキングをしていく過程で、当初思い描いていたプランを少しずつ修正しながら進めていったんですけど、最終的に、ちゃんと満点だと思えるラインナップになったと自負しています。苦労は……たくさんありました(笑)。やっぱり、プロデューサーが代替わりすることでのプレッシャーもありましたし。ただ大事にしていたのは、結果的に出演が叶うにしろそうでないにしろ、オファーの際には必ず「なぜ出ていただきたいか」という自分の想いをちゃんとお伝えすること、ですかね。お相手それぞれとしっかりコミュニケーションを取りながら、ブッキングを進めていくこと。フェスってビジネスではあるし、商業的に成立させることはすごく重要なことではあるんですけど、でも同時に、それだけだとダメだと思っていて。少なくとも我々は「VIVA LA ROCK」を単なるビジネスとして捉えてやっていない。だからこそ想いや意図はできる限り伝えたいと思っています。プロダクションからしたら面倒なことを言ってくるフェスだなと思われている部分もあると思うんですが(笑)、きっとそれが、私が「VIVA LA ROCK」をプロデュースする意味に繋がってくるんじゃないかなと思っています。

オンライン配信の意図

――有泉さんは御社(※株式会社FACT)で刊行されている音楽雑誌「MUSICA」の編集長でもあられます。近年は鹿野さんがプロデューサーでしたし、「MUSICA」というメディアと「VIVA LA ROCK」というフェスはそれぞれ独立したコンテンツという考え方でしたが、そこに変化は生じましたか?

有泉:今まで通りです。もちろん、どうしたって私の趣向や取材を通して生まれた関係性は「VIVA LA ROCK」にも反映されていくものだと思うんですが、「VIVA LA ROCK」と「MUSICA」をバーターのようなものにするつもりは一切ありません。そうなってしまうのは、健全じゃないと思うんですよ。イベントはイベント、メディアはメディアで、視点も思想も異なるし、プレゼンテーションの仕方も異なります。たとえば分かりやすいところで言えば、「MUSICA」の誌面で大きく取り上げているアーティストが、必ずしもアリーナ以上の規模でのライブに慣れているわけでもありませんし。そこは、「MUSICA」が比較的、オルタナティブな色が強い編集方針を取っているということも関係しているとは思うんですけどね。フェスにはフェスの強みと良さが、メディアにはメディアの強みと良さがあると思っているので、今後もそれぞれの独立性は担保していきたいと思っています。

――コロナ禍に生まれたオンライン配信のノウハウを駆使した「ビバラ!オンライン2024」も実施されます。

有泉:今年もオンライン配信を求めていただく声が多かったので、実施を決断しました。やっぱりライブってモニター越しでは伝わらないことがたくさんあるので、出来れば現地に来て、生で体感してほしいという思いは強くありますが、コロナ禍に生まれた一つの楽しみ方として配信を求める声もありますし、何かしらの事情で現地まで来ることができない方々にも楽しんでいただく方法として、「ビバラ!オンライン2024」を位置づけていますね。ただ、コロナ禍が明けたこともあり、シーン全体としては、高い知名度を誇るビッグアーティストのワンマンを除いて、オンライン配信のライブビジネスは厳しい傾向にあります。これまでの「ビバラ!オンライン」は何とかリクープが出来ていますが、正直、配信インフラの費用や、レーベルに対する専属解放料の支払いなどの経費も相当かかっています。今年も散々悩んだ結果、実施することにしたのですが、来年以降も行うかどうかは、また改めて検討、判断するつもりです。

――また、5月5日には札幌・仙台・熊本・松山のライブハウスにて本フェス初のライブ・ビューイング・イベント「FESTIVAL VIEWING 〜VIVA LA ROCK 2024〜」も開催します。

有泉:こちらは、ひとつは地理的な距離が遠い、さいたまスーパーアリーナまで来るハードルが高い地域の方にビバラを知っていただくきっかけになればということと、各地のライブハウスの活性化に少しでも繋がる可能性があるのであればやってみたいということ、そのふたつの理由から挑戦することにしました。大きなモニターとライブハウスならではの爆音のなかで楽しんでいただき、まだライブハウスやフェスを訪れたことがない方々に、気軽に足を運んでいただける入り口になればと考えています。今回の実施を機に全国4箇所のライブハウスに整備するライブ・ビューイング用のインフラは、今後、別のイベントへの流用が可能ですので、大いに活用してもらえればという思いも込めています。

異例の女性フェスプロデューサー

――有泉さんはライター/編集者としても名の通った方ですが、思えば国内有数の大型フェスにおいて女性がプロデューサーを務めるケースは意外とめずらしいと思います。それについてのリアクションは何か感じられましたか?

有泉:「女性でめずらしいね」みたいなリアクションは、特にありませんでしたね。皆さん、私が女性であるということ自体があまりピンときていないのかも?というぐらい(笑)。私は大学を卒業後から音楽/出版業界で働いてきましたし、「MUSICA」の編集長も2010年の秋から務めていますので、業界内としても自然な受け取り方だったのかもしれませんが。

(有泉智子(本人提供))
(有泉智子(本人提供))

――個人的には、音楽/出版業界は以前から女性が多く活躍されている印象を感じていますが、ご自身の体感としてはいかがですか?

有泉:数ある業種のなかでは、以前から比較的男女の別なく活躍し易い業界ではないかと感じていますが、ひと昔前は、様々な場面において、「もし自分が男性だったらこんなことは言われないんだろうなあ」とネガティブな意味で感じざるを得ない経験もしました。またそれとは別に、そもそもアーティストと一緒に仕事をする側も、アーティストを取材する側も、自分のことを優先して自分のスケジュールを切れる仕事ではありませんし、時代の流れも含めて認識も就労環境もかなり改善されたとはいえ、やはり大抵は激務ですから。その意味において、女性のほうがワーク・ライフ・バランスを取りにくい状況はあるのかな、と。役職付きの人はまだ圧倒的に男性が多いと思います。

――それは同業者の一人としても感じます。

有泉:弊社は小規模ですし、私自身が仕事に人生のリソースを全投入するタイプなので、特に大きな問題に直面することなく働き続けてきたわけですけど、例えば出産を迎える女性はどうしてもキャリアが一時的に途切れざるを得ない場合もある。ちょっと極端な話かもしれないけど、ミック・ジャガーは73歳になってから第8子を授かりましたが、女性が自分で産もうと思った場合、そうはいきませんから。もちろんすべての男性がミック・ジャガーのようにはいきませんけど、ただ、そういったことの難しさは、やはり男性よりも女性のほうが抱えていると思いますね。業界全体として、より女性が働きやすい環境が整備される方向に向かうべきだと思いますし、自分がこういう立場になることで、この業界をめざす女性に「自分もできるんだ」と思ってもらえたらいいなと思いますね。

国内音楽フェスの現状

――1997年の「FUJI ROCK FESTIVAL」第1回開催を皮切りに、同じく洋楽邦楽混合フェスとして「SUMMER SONIC」、邦楽中心のフェスとして「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」、「ARABAKI ROCK FEST.」が生まれ、今日、全国で大小様々な規模の音楽フェスが開催されています。個人的には、2010年代中盤に日本のフェス文化が開催数や集客面でピークを迎えた印象を感じ、その後は、何度か「これからシュリンクに向かう」といった声を耳にしてきた記憶があるのですが、ビジネス市場としてのフェスの現状については、どう感じていらっしゃいますか?

有泉:私も、「もうここがピークなのでは?」と思った時期はありました。フェスが全てなくなるとは思いませんでしたが、少なくともピーク時の数やビジネス規模はもう続かないだろうと思っていました。そもそもこんなに小さな国でこれほどまでに多くのフェスが成立している国って、世界を見渡しても日本ぐらいだと思うんです。これは、それだけ音楽ファンの熱量が高いという証でもあって、それ自体はとても良いことなのですが、それでも率直に増え過ぎなのではないかと感じることもありました。数が増えればそれだけ、それぞれのフェスが差別化を図ることも難しくなってくるし、いま現在もフェスがビシネスとして活況を呈したままで今後も安泰だとは全く思っていません。ありがたいことに今年は全日ソールドアウトしましたけど、楽観視は全くしてないですね。むしろ、だからこそ頑張らなきゃなという感じです。私自身、数年前までは自分がフェスのプロデューサーになる未来なんて想像もしていなかったし、こうやってブッキングに奔走したり、矢面に立ってステートメントを出すような役目は、正直、自分の人間性としてはあまり向いていないと思っているんですけど……。

――でも、引き受けられた。

有泉:その理由の一つもコロナ禍でした。コロナ禍に入り、ライブがなくなった際のシリアスな危機感や渇望感のなかで、フェスというワンマンライブとは全く異なる体験のリアルな魅力や特性と改めて向き合いましたし、それを求めるアーティスト達の声や、音楽ファンの想いに直面する機会がとても多かった。コロナ禍のVIVA LA ROCKが上手くいったのは、アーティストやスタッフの方々、そして何よりも、参加してくださった音楽ファンの協力のおかげなんですよね。みんながフェスという現場を大切に思い、大切に思うからこそ、多くの制限や厳しいルールを守りながら楽しんでくれた。多種多様なアーティストとの出会いの場となるフェスという場を守り続けることの大切さを痛感したことは、自分がこのフェスを継ごうと思った理由として、とても大きかったですね。

――ほかにも要因はありましたか?

有泉:2022年くらいからシーンで頭角を現してきたアーティスト、特にバンドは、2020年から2021年の結成が結構多くて。つまり、コロナ禍の最中にバンドを組んだ。要は10代から20代前後の皆さんが、コロナ禍だからと言ってみんながみんなDTMを始めたわけでもなく、ライブハウスも閉ざされ、ライブも出来なかったけど、わざわざ人と集まって物を作るという、ある意味すごく面倒でプリミティブな選択をした。

――興味深い動きですね。

有泉:ね、すごく素敵なことですよね。そのことも、このフェスをしっかりと未来に向けて繋いでいきたいという気持ちの後押しになりました。その意味でも、これから音楽ファンになるような若い方々に「このフェス、面白いな」、「ビバラに来ると、知らなかった音楽に出会えるな」と思ってもらえるよう、常にアップデートし続けていかなければという使命感もあります。

自由と、そのための責任と、思いやりの共存

――実際、オーディエンスの一人として何度も足を運んでいますが、「VIVA LA ROCK」は、とても快適なフェス空間が約束されていると感じます。行政(埼玉県及びさいたま市)との取り組みについてはいかがでしょうか?

有泉:期間中はけやきひろば(※さいたま新都心駅・さいたまスーパーアリーナ隣接のスペース)を使って「VIVA LA ROCK」プロデュースの「VIVA LA GARDEN」も開催しています。こちらは入場無料の屋外フリーフェスで、GARDEN STAGEでのライブの他、フード&ドリンクの提供や、子供たちが楽しめるようなゆるキャラショーや巨大ふわふわ、ティラノサウルスレースなど、様々なアトラクションをお楽しみいただけます。さいたまスーパーアリーナは埼玉県の所有で第三セクターの株式会社さいたまアリーナが指定管理者として管理・運営を行っている施設ですので、毎年、埼玉県とさいたま市にご協力をいただいております。「VIVA LA ROCK」をさいたまで始めたモチベーションのひとつに、当時まだフェスがなかった埼玉県に音楽フェスを根付かせよう、という目標がありましたので、そのためには地元の方々の理解を得ることが大切です。VIVA LA ROCKに限らず、フェスを長く続けるためには、地元とどう共生できるかが非常に重要。「VIVA LA GARDEN」を無料で行っているのもその一環です。近隣の方々に「VIVA LA ROCK」を知っていただき、楽しんでいただけたらという思いがあります。

(昨年の『VIVA LA GARDEN』の模様。写真:古溪一道。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)
(昨年の『VIVA LA GARDEN』の模様。写真:古溪一道。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)

――ほかにも具体的な取り組みの事例はありますか?

有泉:埼玉県×「VIVA LA ROCK」という形で「You’ll Never Live Alone」というプロジェクトに取り組んでいます。これは埼玉県内で行われている障がい者アートの普及啓発活動をはじめ、自殺防止活動、里親制度といった生きるための活動・取り組みとメッセージを広めるプロジェクトで、今年も昨年同様、「VIVA LA GARDEN」にて障がい者の方々が創作したアートの展示を行う予定です。実際にVIVA LA ROCKに参加していただいて、その体験をインスピレーションにして生み出された作品もあるので、ぜひ観ていただきたいですね。

――4日間、オーディエンスの皆さんにどう楽しんでいただけたらと望みますか?

有泉:「VIVA LA ROCK」は基本的に、観覧の仕方や遊び方について、運営側からオーディエンスの皆さんへの制限や禁止事項を極力設けない形で行っています。それは、このインタビューの最初に申し上げた通り、「VIVA LA ROCK」はロックフェスとしての自由を守りたいという信念のもとに運営しているフェスだからなのですが、逆に言えば、オーディエンスの皆さんを信じているからなんです。自由であることと、自分勝手であることは、違う。自由というものには責任が伴うし、自分の自由を認めてほしいのであれば、相手の自由も尊重しなければなりません。みんながそれを心に留めて、相手を思いやって行動できれば、様々な価値観を持った人が一緒に音楽を楽しめる、幸福な空間が作れるはずなんですよね。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、音楽が好きで集まる人たちの現場では、自由と、そのための責任と、誰かを思いやる心は必ず共存が可能だと私は信じているし、それをこれまでのVIVA LA ROCKに参加してくださった皆さんが証明してくれました。今後もそれを証明していきたい。この窮屈な世の中、「ロックフェスの現場くらいは、みんなが自由に楽しめるものでありたいじゃない?」と思いますしね。ぜひとも、皆さんにご協力いただけたらと願っています。

(『VIVA LA ROCK 2023』の模様。写真:小杉歩。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)
(『VIVA LA ROCK 2023』の模様。写真:小杉歩。(C)VIVA LA ROCK 2023 All Rights Reserved)

「VIVA LA ROCK 2024」

期間:5月3日(金)、4日(土)、5日(日)、6日(月)

会場:埼玉県・さいたまスーパーアリーナ

主催・制作:FACT、DISK GARAGE、e+、SoftBank

制作:さいたまスーパーアリーナ

後援:埼玉県、さいたま市、URAWA REDS

オフィシャルWEB

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ライター 編集者 ディレクター

雑誌SWITCH編集長を経てフリーランス。音楽を中心に、映画、演劇、ファッションなど様々なジャンルのインタビューやコラムを手掛けている。各種パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/ディレクション/コピーライティングも担当。不定期でメディアへの出演やイベントのMCも務める。近年の執筆媒体はYahoo!ニュース特集、音楽ナタリー、リアルサウンド、SPICE、共同通信社(文化欄)、SWITCH、文春オンラインほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』などがある。

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