【K-POP論インタビュー】4月上旬に来日。チョンハの最新曲作曲家はスゴいヒットメーカーだった(1)
インタビューは、逆質問から始まった。
「不思議な気分です。どんな理由で日本からわざわざ、韓国の作曲家である我々のところまで?」
ソウルの地で、再びK-POPの作曲家に会ってきた。弘大入口駅近くのハイアップエンターテイメント事務所で会った作曲家グループ「ブラックアイド・ピルスン」のラド氏はそう切り出した。
来日するグループを研究材料として取り上げ、徹底的に楽しもう。そしておじさんならではの楽しみを発掘していこうという「おじさんのためのK-POP論」。
思えば年が明けて、彼らの手がけた曲を日本で披露するアーティストが多い。
3月下旬からドームツアーを行うTWICEは「TT」「Like OOH-AHH」「CHEER UP」など。2月に来日したAPINKは「イル ド オプソ(I'm so sick)」「%%(ウンウン)」、そして4月5日と6日に都内でファンミーティングを行うチョンハは最新曲「すでに12時(ポルソ ヨルトゥシ)」と「Roller Coaster」。
作曲家(グループ)が、複数アーティストに提供した楽曲を巡っていく。そうやることによって、他グループへの興味にもつながり、ガールズグループ全体が活性化していくのではないか。筆者自身が描いていた構想でもある。「あ、このグループのあの曲と、同じ作曲家がつくってるんだ」という気づきを増やしていこうという考えだ。彼に会った狙いはそこにあった。
今回、本論のメインテーマを4月5日、6日に来日するチョンハの「すでに12時」に定めた。この曲を引っ提げ、日本で2度めのファンミーティングLET’S CHUNGHA FES IN JAPAN SECOND STORYを新宿で行う。
本論らしく、ちょっと大人っぽいものを見ていこう。彼女は本論第1回を記した記念すべきアーティストでもある。
2018年の冬、韓国の音楽番組で1位を獲得したこの楽曲、じつのところおじさんにとって読解が少し難しくもある。決して明るくない。セクシー路線だ。第1回原稿でも書いたが、日本での昨年10月のイベントの際は女性の比率が多かった。これは韓国でも同じで、さる3月2日に行われた韓国ファンミーティングでも女性が目立ち、満員になったという。
だからこそ、作曲家本人に解いてもらおう。「ブラックアイド・ピルスン」の手がけたTWICEやAPINKなどの他の楽曲の話を絡めつつ。
ブラックアイドピルスン
ラド:過去にはボーカリストとしての活動時期も。ソロの作曲家として、シンサドンホレンイ氏とともにAPINKの「MY MY」なども手がけた。
チェ・ギュソン:同じく、シンサドンホレンイ氏とともにT-ARAの「Bo Peep Bo Peep」 、「Roly-Poly」 、「Lovey-Dovey」などを作曲。
(この日はチェ・ギュソン氏は体調不良のため欠席。ラド氏にじっくり話を聞いた)
「TWICEのTTも手掛けました」。そのタイトルの由来とは……
――まずは簡単なプロフィールをお聞きします。
ブラックアイド・ピルスンは、同い年の友人ラドとチェ・ギュソンの二人で組んだ作曲グループです。2009年からユニットで活動してきましたが、この名前となったのは2014年からです。その年に手がけたSISTARの「Touch My Body」で注目をしていただきまして。一番最近書いた曲は、チョンハの「すでに12時」。そのほか、「Roller Coaster」、A-pink「イルドオプソ」「%%(ウンウン)」、Twiceはデビュー当時から仕事をしてきました。「Like OOH-AHH」、「CHEER UP」、「TT」、「LIKEY」。ホ・ガクの「 Hello」、MiSS Aの「タルン ナムジャ マルゴ ノ」なども手がけています。それ以前には、個々の活動で多くの曲を手がけてきました。
APINK「%%(ウンウン)」
――これまで、日本の媒体からインタビューを受けたことは?
ありません。重要な機会だと思っていますよ! それにしても不思議な気分です。どうやって、作曲家のインタビューまでたどり着いたのか。普通は歌手のインタビューを考えるものでしょう?
――要は調べまくった結果、ということです。2010年のKARAの日本デビューを皮切りに、韓国ガールズグループのブームが起きました。当時、私のところに友人たちから様々な問い合わせが来て。”スンヨンってどんな人?”、”少女時代のこの歌の、このフレーズはどんな意味?”などなど。すべてネットで調べました。調べまくるなかで、RAINBOWの「A」という曲を知りました。めっちゃくちゃいい歌だな、と調べていると、KARAの「ミスター」と同じ作曲家(SWEETUNE)だという。同じ作曲家が提供した別のグループにはスッと興味が持てるんですよ。個人的にはKARAからRAINBOWへ、T-ARAからAPINK(タイトル曲の多くをシンサドンホレンイが手がけてきた)へと関心が広がっていった。これは全体の活性化にすごくいいんじゃないかと。でも日本の媒体に作曲家インタビュー企画がなかなか通らなくて……。ここ「Yahoo! ニュース個人」は自由です。今日の本題はチョンハの「すでに12時」ですが、この点にもトライしてみましょう。長くなりました!
あはは! 逆質問になりましたね。韓国からは、日本でどうK-POPが見られているか分からない部分も多いのです。いずれにせよ、今回のインタビューはとても重要な機会ですよね。僕たち、TWICEの「TT」もやっていますから。話をしていきましょう。
TWICE「TT」
――さきほどのラインナップを聞くと……TWICEのTTとAPINKの%%(ウンウン/2018年1月)。タイトルの付け方がちょっと似ているなぁ。流行りなのかな、と思ったら同じ作曲家の先生のものでした。
TTのタイトルは、アウディの「TT」という車種からきているんですよ。作詞家が凹んだ時に、たまたまソウルの街を走るこれを見ていて、「自分の気持を表している」と感じたというんです。「悲しいな」と思っていたら、そこに「TT」という文字を目にした。そこで「お、今度詞を書く時に使ってみよう」と思ったと。涙ですよ。どの国でも、涙を絵文字で「TT」と表すことができるでしょう? だから「TT」という楽曲の歌詞に落とし込んでいって。%%というのは、本来は「パーセンテージ」ですよね。これをちょっと斜めにすると、ハングルで「ウンウン」と読みます。そういう記号のようなものを利用するのが、僕たちが好みだというところがありますよね。Apinkに楽曲を2曲続けて提供するにあたり(2018年7月の「イルドオプソ」に続く)、今回は新鮮な感じで、楽しい感じでやってみようということになったんです。
「すでに12時」の作曲過程「成長して、愛を知る女性の心理を描きたかった」
オフィシャルより
――チョンハの「すでに12時」についてお聞きしましょう。今回、この楽曲を手がけた背景は?
自然な流れですよね。元々はチョンハという歌手は知りませんでした。ただある時、僕の母が「私の友達の娘に歌手がいるんだけど、書ける?」と言ってきたことがありました。その時は「だめだよ。ビジネスは会社同士でやらないと」と断ったんです。そうこうしていると彼女がI.O.Iというグループでデビューした。メインボーカル、メインダンサーだった彼女を見ていると「お、すごくいいね」という話になった。後で聞くと、それがたまたま「母の友達の娘」と聞いていたチョンハだったんです。その後、運良く彼女の会社から連絡をいただき、「Roller Coaster」(2018年1月)を書いたんです。今回の「すでに12時」もその後の自然な流れですね。韓国の音楽番組でありがたくも1位が取れました。時期がピッタリはまったんですよ。僕たちも準備ができていましたから。彼女も新しいコンセプトの曲が必要な時期に、ピッタリ僕たちの楽曲がハマったんです。
――新しいコンセプト。改めてお聞きすると、どういったものでしょう。
チョンハは2016年7月に「Why don’t you know」という曲でデビューしました(アルバム「Hands on me」のタイトル曲)。他の作曲家チームの曲です。この次のアルバムを準備するにあたり、彼女には”大きな一撃”が必要だったんです。イベントの時に、なにかスッキリした感じで歌える歌も必要としているようでした。楽曲ラインナップを揃えていくなかで、ファンのみんなで歌える歌もほしいところでしょう? 聞いて、スッキリと感じ取れる歌。そのなかで私達が彼女に最初に提供した「Roller Coaster」が生まれました。この歌は成功したと思います。そして次に彼女を見ながら感じていたのは……本人にはセクシーさという魅力があるということです。しかし彼女はこの2曲のように明るい曲ばかりをやっていました。ファンの前では明るい姿を見せていましたが、我々は彼女が本当に上手く表現できるのはセクシーな曲だ、と考えていたんです。それが新しいコンセプトということです。
――「すでに12時」、確かに明るくはないです。はっきり言って、暗い。歌詞は先に受け取って曲を書かれるのですか? それとも後で?
同時ですよね。曲を作りながら書くというスタイルです。
――この楽曲で表現したかった部分とは?
タイトルの「すでに12時」は韓国でよくある風景から生まれています。韓国では以前から夜にお酒を飲んだり、食事をしたりする文化が盛んでしょう? そのなかで、なんとなく「12時には家に帰らないと」という感覚が一般的にあります。時計を見て「あ、すでに12時だね」「終電が終わる」と。およそ「終電の時間は12時」なんですよ。口癖のように皆が話して。そこに我々が愛のストーリーを注入したのです。歌詞をご覧になると「家に帰るのは嫌なんだけど、もう12時だ」「残念だわ すでに12時ね なによ もう12時なのね」と出てくるでしょう。好きな男性を帰したくない、という感情です。
ARIRANG K-POPより
――この楽曲のなかでのふたりの関係はそれほど悪くないように感じます。「私達ふたりだけが感じられる妙な感じ すごく すごくいい」というフレーズもあります。マシになった、というか。2018年1月のRoller Coasterの時は「逃げられるのが怖い」という状態でしたよね。「あなたはまるでRoller Coaster」と歌っていたんですが。
そうそう。そうなんですよ。デビュー曲の「Why don't you know」ではサビ部分では、完全な片思いから「サランイ アニラゴ マルルハネヨ(愛じゃないっていうのね)」と歌っていますよね。まだ愛を知らない状態です。Roller Coasterでは、恋に落ちて、ドキッとする感情は分かっている。「怖いから、どうか私の手を取って」と歌っている。そして、今回の「すでに12時」では愛を知っているんですよ。少し成熟したから、帰したくないと考えるんです。そういった曲をまたいでのストーリー的な部分があるんですよ。
Roller Coaster。オフィシャルより
――音楽的に気をつけたポイントは?
最初のイントロですよ。そこで記憶に残らなければならない。我々の手がけたどの楽曲でも考えるところです。私たちの楽曲の特徴の一つと言えますね。この「すでに12時」では、楽器でアラブのイメージを表現しています。僕にとってはアラブのイメージがセクシーだったんですよね。一度これをK-POPのなかでも表現してみたいという願望が前からありまして。TWICEでも同じです。「CHEER UP」では冒頭にインパクトのあるフレーズを意識的に入れました。
――どれくらい時間をかけて作曲しました?
曲によって違うんですが、チョンハに関して言うと、「Roller Coaster」はかなり修正に時間をかけましたね。曲を書くこと自体に2週間に終わったんですが、修正に2ヶ月かかり。「すでに12時」は1ヶ月の中で進行しましたね。レコーディングを含めて。一度彼女とは仕事をしたので、スムーズに終わったという部分があります。
――楽曲はやがて完成し、世に出ていきます。公式MVが発表になり、歌番組に出たりして。その時の感覚とは?
その時からが、本当のスタートなんですよ。一日中、チャートの順位ばかりを見ています。とてもつらい気持ちにもなります。本当は順位ばかりを見ていてもダメなわけです。伝わるべき人に伝わるのかを考えなければならない。とはいえ、作曲家というのは結果、数字で評価されるわけですから。もはや順位を見るのは職業病ですよね。やめようとしてもやめられない。明け方に見てしまったりするものなのですよ。
KBSオフィシャルアカウントより
――”たとえ1位にならなくても、ファンは評価してくれた”という考え方もできますが。
1位になっても実感の沸かない曲があり、1位にならなくても、全国民が知ってくれそうな歌もある。結局はショーとしてどうあるのか。多くの方が楽しんでくださることが大切だと思います。そこのところを本当は重視したいですよね。
――RAINBOWの「A」のような曲もあります。
そうです!
(続く。「すでに12時」の話は深まり、そして別アーティストに提供した曲の話も!)
【K-POP論インタビュー】4月上旬に来日。チョンハの最新曲作曲家はスゴいヒットメーカーだった(2)
チョンハ
1996年2月9日生まれの23歳。2016年から韓国で一大ムーブメントとなったオーディション番組「PRODUCE101」に出演。全体で4位の人気を獲得し、番組から派生した期間限定グループ「I.O.I」の一員としてデビューした。そこではメインボーカルとリードダンサーという「主軸」を担うほど、実力を評価された。その後2017年にソロデビュー。4月5日、6日に日本で2度めのファンミーティングLET’S CHUNGHA FES IN JAPAN SECOND STORYを新宿で行う。