【K-POP論インタビュー】4月上旬に来日。チョンハの最新曲作曲家はスゴいヒットメーカーだった(2)
【おじさんのためのK-POP論】第7回は、韓国の作曲家ユニット「ブラックアイド・ピルスン」のインタビュー続編を。4月5日、6日に来日するチョンハの「すでに12時」ほかTWICEの「TT」「CHEER UP」、APINKの「イルド オプソ」などを手がけたヒットメーカー。
前回、チョンハの「すでに12時」についてはセクシーさを表現したかったという点、イントロ部分に気を払った点などを話してくれた。第2回はこの楽曲について引き続き話を聞きつつ、チョンハ個人のキャラクターや上記の他アーティスト提供曲についても聞いた。
前編:【K-POP論インタビュー】4月上旬に来日。チョンハの最新曲作曲家はスゴいヒットメーカーだった(1)
ブラックアイド・ピルスン 同い年の友人による作曲家ユニット。2014年よりこのユニット名で活動。SISTARの「TOUCH MY BODY」で一気に存在を知られた。2017年に「ハイアップエンターテインメント」を設立し、アーティストのマネジメント業務にも進出した。グループ名の由来は「ブラックアイド・ピース」から。ピルスンは韓国語で「必勝」。
左 ラド:過去にはボーカリストとしての活動時期も。ソロの作曲家として、シンサドンホレンイ氏とともにAPINKの「MY MY」なども手がけた。
右 チェ・ギュソン:同じく、シンサドンホレンイ氏とともにT-ARAの「Bo Peep Bo Peep」 、「Roly-Poly」 、「Lovey-Dovey」などを作曲。
(この日はチェ・ギュソン氏は体調不良のため欠席。ラド氏にじっくり話を聞いた)
チョンハの「すでに12時」は、「マイナー調で勝負すべき時だった」
すでに12時。オフィシャルより
――(作曲家が楽曲ランキングを見すぎるのはもはや”職業病”という話の続きから)いっぽうで作曲家の先生が羨ましくもありますよ。僕たちは文章を書いていて、表現できる方法というのはまず内容、タイトル、写真、そしてレイアウトです。でも音楽は歌詞が音楽に乗って、歌い手のビジュアルがあって、衣装があって、ダンスがあって、ステージの演出もある。表現方法が多様で、立体的ですよね。
だからこそ、それらすべてを総合的に考える役割がプロデューサーなのではないかと思います。我々はそれぞれの曲にプロデューサーとして関わっているという意識もあります。振り付け、衣装、MVまですべて関与しているので「曲だけ作って終わり」ということはありませんね。細かいディレクションはしなくとも「MVのイメージはこうで」とか、「衣装のコンセプト」などは話をしたりします。
――今回の「すでに12時」は落ち着いたトーンの衣装が多かったですよね。
曲によって大きく変わります。私達が考える最優先事項は、「まずは楽曲」というところです。そこから出発して、繋がっていくイメージ、映像を考えていく。この歌を聴いた時に、ダークなイメージでもあるから、衣装は黒を基調としたトーンで、赤などを織り交ぜてほしいというリクエストを出しました。「Roller Coaster」のときは、明るいイメージの曲ですから、トロピカルな色調でお願いをしました。
――チョンハ自身のデビュー後からの音楽の流れがあるいっぽうで、ヒットチャートでのトレンドもあるでしょう。韓国国内で見る場合、パワーのある男性グループが多数存在する。さらに女性グループでは明るい曲のほうが一般的に受け入れられそうです。この点のバランスはどう取られていますか?
それはもう、周囲の出方を探っていくという部分もありますよね。いっぽうでチョンハに関していえば、デビューから2年後に発表された「Roller Coaster」までが「明るい曲のピークだ」と見ていました。だから、「再びこういった曲を出すと、受けがよくない」と判断しました。「飽きられるだろう」と。 コンテンツ作成を任された立場からのマーケットの読みですよね。「このタイミングでこそ、チョンハはマイナー調の曲で勝負する時だ」と。今、ようやく”彼女の服を着たのだ”と思っていますよ。
――そういう背景を聞くと理解できますね。「すでに12時」についても。
デビュー当時はまだ幼かったから、セクシーな歌が出来なかったのです。彼女には、ストーリーがある歌手になってほしかった。だから最初は明るい曲をやり、数年たった今、愛を知る女性の感性を表現してほしかった。だからマイナー調の歌にしたのです。
――マイナー調、という点には”冬の季節感”も加味されていますか?
はい。季節感も重要ですよね。「すでに12時」は冬のイメージを入れました。ちなみに「Roller coaster」の時は「夏の歌なんだが、ある角度から見ると冬の歌のようにも聞こえる」というイメージを入れたいと思っていました。二重のイメージですよね。もちろん多くの曲を書く場合、最初に決めますよ。どの季節の曲かということを。クリスマスならクリスマス、と。
Roller Coaster/公式MV
――話の流れで「Roller Coaster」について、ちょっと感じていたことを。この曲はドライブしながら聞くとすごく気持ちいいですよね。
この曲のサビの部分には乱高下のイメージを入れた音が入っています。ローラーコースターに乗る感じですよ。音楽が3Dのように聞こえてほしいなと。実際に乗ると、最初に出発する時は大丈夫なのですが、少しずつ上がっていきながら、緊張していくでしょう。そしてスッーっと落ちる時、すごくドキドキする。そしてまた上がる時、一時の安堵があるんだけど、すぐにまた落ちる恐怖を思う。それが恋の流れのようなんです。
――「すでに12時」に話を戻しましょう。この曲のように女性の心理を代弁していると、えてして男性が聞くと「あ、こういう風に考えているんだ」と気づかせてくれるものでもあります。
そうそう。気がある女性が「帰ってほしくない」というと、それを嫌がる男性はいないでしょう。その心理も利用した部分がありますよね。そういったところが、男性心理も掴むのではないかと。彼女が「帰ってほしくない」というのに、「ダメだよ。帰れよ」という男子がどこにいるでしょうか?
――作曲から発表の過程にあって、難しかった部分はどこでしょう?
サビの部分で「アシウォ~ ポルソ~ ヨルトゥシ~(残念 すでに12時~)」とあるんですが、最後の「シ~(時~)」の部分ですよね。この部分をどう歌ってもらうか。この曲は歌唱力だけで表現できるものじゃないと考えているんですよ。感覚で歌わなければならない。なぜ難しいかと言うと、彼女曰く「自分は恋愛をしたことがない」からです。本当かどうか、分かりませんが! いずれにせよ、この曲は彼女にとっても表現が決して簡単な歌ではなかったと思います。恋愛をしたことがないのであれば。だからこそ彼女にはリクエストしましたよ。「恋愛をしていることを想像して歌ってほしい」と。彼女はそこをなんとか解決しましたよね。楽曲とダンスを理解して。
歌手チョンハのキャラクター「アーティスト性とふだんのギャップが魅力」
――ヨルトゥシ~ですか。注意深く聞いてみます。いっぽうさきほど、チョンハについて「実力のある歌手」という表現をされました。彼女の場合、いったいどういった点に最大の強みがあるのでしょうか。
アーティスト気質のある歌手、とでもいいましょうか。楽曲を渡し、そして振り付けを最初に伝えた時、これを理解する能力に長けていますね。ただ曲を受け取って歌う歌手ではなく、その意味を理解しようとするんです。さらに振り付けを見て、作り手の意図を考えようとする。アーティストなので。だからこそ、他のアイドル歌手とは少し差別化が出来ているのではないかと思います。
――我々が聴いていて分かるのは、彼女の声の特徴です。
もちろん、声もすごくいいですよ。彼女は少し気高い感じのルックスをしています。決して柔らかい感じではありません。そういった彼女が端正な声をしている。ギャップもまた魅力なんですよ。だからこそ、ファンの心に刺さるのだと思いますよ。そしてダンスはパワフルに踊るんですよね。すべてが彼女の成功要素です。
――素顔の彼女はどんな人なのでしょう?
本当に謙虚。そして人柄が良い。ステージにいる時の彼女、オフモードの彼女は完全に違う人格です。オンのときはカリスマ、プロ。オフのときはスリッパを履いて動き回り、チキンを愛する完全な子ども。人間味を感じさせるアーティストとも言えます。
作曲家としてのカラーは「変化・多様性・時代性」。TTは”演歌的”?
――別の曲についてお聞きします。まず先生が最初に注目されたSISTARの「Touch my body」。よーく聴いてましたよ。まさか作った方にお会いできるとは。この曲にはどんな印象が?
ユニット名を変えて、最初の曲です。当時は我々の存在が世に知られる曲が必要でした。個々人ではお互いにヒット曲があるんですが、二人でつくったヒット曲がなかった。ユニットを組むシナジー効果を示さないといけなかったんです。ただ当時は、少女時代はSMだから機会を得にくかった。2NE1はYGだから同様に。ワンダーガールスはJYPだった。そういったなかでSISTARというグループが存在しました。曲を書いてみたいな、と望んでいたところ、うまく相手側の社長と打ち合わせをする機会があって。楽曲を提供することになったのですが……あの曲が発表になるまでに5曲ほどこちらから曲を渡しておきながら、すべてキャンセルしたんです。自分たちの出来に満足できなくて。だからこの曲は”6曲目”だったということです。それほどにチャンスに賭けていたんですよ。この曲からブラックアイドピルスンが認知されていきましたね。
Touch My Body。オフィシャルより
――SISTAR。とても印象的なグループでした。あそこまでセクシーというのは、突き抜けてて実に清々しかったです。ある意味でK-POPらしかった。
もともと、ブラックアイド・ピルスンのパートナーのギュソンはT-ARAの「Bo Peep Bo Peep」などを手がけていて、かわいらしい曲の専門家だったんです。僕の方はボーイズグループ「トラブルメーカー」に提供したような、リズミカルな曲に強かった。お互いにストロングポイントがあるわけです。だからこそ、新しいもの、セクシーで可愛くて、カッコいい音楽をやろうと。そこから先は、二人の個性を足していって多様な音楽性を表現していくという点も重要視しています。TWICEのみをやるのではなく、SITARをやり、APINKをやり、チョンハをやる。カメレオンのように多様なものをつくる。これが我々の特性のひとつです。
――TWICEのTTは、日本でも本当によく知られています。作曲の背景は?
「CHEER UP」が、POP的な要素が大きい楽曲だったとしたら、「TT」は韓国的な感性を折り込みたかった。つまりK-POP的要素です。ある意味では日本の……独特のバラードがありますよね? なんでしたっけ?
――演歌。
そうです。演歌には少し恨みつらみを歌うようなところがあるでしょう? 韓国ではバラードにそういった要素を込めることが多い。マイナスの感情を歌にしたいと考える点は、韓国も日本も似ていると思うんです。いずれにせよTTでは何を表現したかったかというと、「若干悲しいんだけど、スッキリする曲」です。だからタイトルも”TT”で。
――じつは、女の子の抑圧された気持ちを歌ったものですよね。
はい。とはいえ、悲しすぎるのもよくないですから、かわいく。えーんえーんと泣いているような。
TT オフィシャルより
――振り付けもディレクションを?
他の方がされたんですが、少しだけオーダーは出しましたよ。手の下で涙を作って欲しい、というふうに。
――TTには、時代性も現れていますよね。その時代の10代女子の分かってもらえない恋愛感情の悲しみ。それをかわいく表現する。絵文字のTTという新しいアイコン、文化を採り入れて。
もちろん、時代性というもの意識をしています。MISS Aの「タルンナムジャ マルゴ ノ」のサビ部分では、直線的な恋愛表現を入れています。これは最近の韓国の女性が見せはじめている姿です。さらに「CHEER UP」では、韓国の最近のトレンドでもある”男女が対等な立場で付き合おう”というという考えも表現しています。だから歌詞には「女の子が簡単に心をあげちゃダメ」という内容もある。そして「すでに12時」では、「帰らせたくない」ということを堂々と主張できる女性が魅力的だと。そういった時代性を表現していきたいとも考えていますね。
CHEER UP オフィシャルより
――TTの場合は「私はもう大人だと思っているのに(イミ ナ タ コッタゴ センカクハヌンデ)」といった下りが出てきますよね。
そうです。もう大人なのに、年上の男性たるあなたはなぜ分かってくれないの? という悲しみですよね。それを“TT”と表現する。
――この曲は、日本でも相当な反応ですよ。紅白歌合戦にも出場した、彼女たちの代表曲として認知されているでしょう。
当初は、そんなに人気を得るとは考えていませんでした。曲を作っていく過程で、私達も彼女たちもとても忙しく、バタバタした状況だったということもあります。じつのところ、「どういう結果になるだろう」とじっくり考える余裕は、ありませんでした。それが大好評をいただいて。とても驚いたというところです。
――APINKの「イルドオプソ」も大きなインパクトでした。グループにとってのセクシー路線が始まったな、と。
もともと、相方のキュソンがMyMY、HUSHを作った縁がありまして。いっぽう、彼女たちはひたすらに可愛いことばかりをやっていられない時期、年齢になってきた。そこで変化をつけたのが「イルド オプソ」でしたね。嬉しいことに、アーティストの多くが私達に難しいリクエストを出してくださるんですよ。「変化したい」という時にやってくる。APINKもメンバーが直接私達を訪ねてきてくれて、「変化したいんです」「可愛いコンセプト以外のこともやってみたい」という話をしてくれましたよ。
イルド オプソ オフィシャルより
――話は尽きませんが、そろそろ締めを。最後に日本のK-POPファンへのメッセージをお願いします。
日本で多くの方がK-POPを楽しんでくださっていることに本当に感謝しています。なぜなら僕自身がJ-POPに親しんで育ったからです。ケミストリーが本当にずっと大好きで。そして安室奈美恵も好き。日本のバラードも大好きで。中島美嘉の「雪の華」などです。そうやって育ってきたのに、逆に日本の皆様がK-POPを楽しんでくださるので、光栄に思っています!
「すでに12時」の話を聞いていくうちに、気がつけば本人たち作曲の「Roller Coaster」の話にもなっていく。あるいは、他のアーティストへの提供曲の話も。ブラックアイド・ピルスン氏との語らいの時間は、「曲と曲の間にあるストーリー」を新たに知る時間でもあった。「すでに12時」については率直なところ「もう少し明るくてもいいんじゃないか?」という個人的な思いもあったが、プロデュースする側の「いまがマイナー調で勝負する時」という考えを聞き、この曲の意味を知った。セクシーさを表現できることこそが、彼女の個性。ぜひ4月に来日する彼女の姿を眺め、また新たなことを感じてみよう。
チョンハ
1996年2月9日生まれの23歳。2016年から韓国で一大ムーブメントとなったオーディション番組「PRODUCE101」に出演。全体で4位の人気を獲得し、番組から派生した期間限定グループ「I.O.I」の一員としてデビューした。そこではメインボーカルとリードダンサーという「主軸」を担うほど、実力を評価された。その後2017年にソロデビュー。4月5日、6日に日本で2度めのファンミーティングLET’S CHUNGHA FES IN JAPAN SECOND STORYを新宿で行う。