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【コラム】「K-POP、またハマってみるか」そう思わせたチョンハの日本初ファンミーティング。

「K-POP大型新人」チョンハ。今月、日本での初ファンミーティングを行った。

久々にK-POPの公演に行ってきた。10月4日、5日に行われたチョンハの日本での最初のファンミーティングだ。アラフォーの筆者は2010年夏以降のブームにまんまと乗った。しかしここ2年ほどは少しご無沙汰していた。

チョンハは1996年生まれの22歳。本名はキム・チョンハ(金請夏)。2016年から韓国で一大ムーブメントとなったオーディション番組「PRODUCE101」に出演。全体で4位の人気を獲得し、番組から派生した期間限定グループ「I.O.I」の一員としてデビューした。そこではメインボーカルとリードダンサーという「主軸」を担うほど、実力を評価された。その後2017年にソロデビュー、という経歴を持つ。

「大物新人」だ。身長161センチの体から、甘い声質でかつパワフルな高音が突き抜けていく。見ていてスカッとする。爽快。その点がハッキリしている。

【「Roller Coaster」。2018年1月。思わず相手に惚れていく女性心理を描く曲。サビ部分は「あなたはローラーコースター」。急に現れて、逃げていくのでは、と心配する気持ちを表現した/動画は所属レーベル公式】

可愛い路線というより、カッコいい系。だからと言って、ギラついているということもない。公演では自らの希望で、客席まで降りて歌う演出があった。また終演後の控室では自ら「オンニ~(お姉さん)」とステージ通訳の方に歩み寄り、記念の写真撮影を求めてたという。楽曲はカッコいいラインが多いが、素顔は素直でかわいらしい。そういったギャップも魅力的だった。アラフォー目線から見ると、「高音おじさんキラー」といったところか。

写真はすべてMIN Entertainment japan
写真はすべてMIN Entertainment japan

アラフォー世代にはちょうどいいな。また聴いてみようか、K-POP。そう思わせた。ひとつ基準を言うなら、電車やカフェや職場の休み時間にスマホやタブレットで動画を観ていても恥ずかしくない感じ。周囲にサッと画面を見られても恥ずかしくはない。

ここからの話は、おじさんにとってのK-POP論だ。かつてハマったが、ちょっとご無沙汰しているという方のために。

「K-POPブーム」の折、自分たちは「何」を見ていたのか。

チョンハはこの日、アンコールを含め7曲を披露。間にトークやゲームも入った。日本のコンビニについて触れ、「買うものがたくさんある。タマゴサンド、いなり寿司、ラーメン、チョコレート、餅、あと飲み物もいっぱいある」という。日本でコンビニに行くと写真を撮っておき、韓国の友人が日本に行く際には「これは要チェック」と教えるらしい。

【今回のファンミーティングに向けた本人からのメッセージ/公式】

彼女のファンミーティングを見ながら、こんなことを思った。

日本のものとはちょっと違う存在感。

かといって、日本とは違いすぎないもの。

かつての「K-POPブーム」では、そういうものに惹かれてきたんだなと。

日本で最初のK-POPブーム(ガールズグループ)が始まったのが2010年夏だった。2011年には「KARA」「少女時代」が紅白歌合戦に出演した。彼女たちは確かに自分たちと似た顔をしながら、違いがあった。「腰振りダンス」に「美脚」。ほんのりとセクシー。必死に日本語を話すかわいらしさとのギャップがあった。また長年のレッスン生生活を経てデビューしていたため、歌とダンスにもインパクトがあった。いわば韓国の「完成品」がそこに現れたのだった。

また、観る側の自分たちの変化を楽しむ、という面もあった。かつてはとうてい結びつかなかった「エンタメと韓国」が繋がるという変化。女性のもの、と思っていた「韓流」がついに自分たちのところにも現れたというか。

ブームはその後、2013年頃から徐々に静かになっていった。2015、2016年の状況については韓国政府系の組織「韓国国際文化振興院」が「日本のK-POPファンは少数マニア層」と定義するほどになった。その間、たくさんのことがあった。2012年の日本の政権交代や日韓関係のことは決して無視できない事情だが、これは書き始めると思いっきり脱線するので割愛する。

そして復活の兆しが見えたのが2017年。その流れのなかで、22歳のチョンハが日本に現れた。

「空白」が生まれた理由。韓国側の事情の変化「世代交代」

そんなこんなで、しばらくご無沙汰、というおじさん層も多いだろう。

それもそのはずで、韓国国内の業界事情にも変化が起きていた。2015年、2016年に韓国では一気にガールズグループの世代交代が始まった。09年ごろにデビューしたグループ(つまり2013年頃までに日本進出したグループ)が軒並み解散、事実上の解散、メンバー離脱という状況になったのだ。

韓国の芸能界に存在する「事務所と歌手の契約期間最大7年ルール」のためだ。2015、16年に更新時期に入ったため、こういった事態になった。

この7年ルールは、続く世代にも大きな影響を与える。事務所側は7年スパンで結果を見分けようとするから、かなり若い年齢層のグループが多く出てきたのだ。メンバーに10代後半、あるいはミドルティーンも含まれるグループが大半だ。

また、前世代のグループは「日本進出」はまったく頭に置いていない時代にデビューしたが、2015年以降のグループは違う。かなり若い世代が日本市場を意識したかのような可愛らしいコンセプトの楽曲を発表するケースが増えてきた。もちろんメンバー本人にとって年齢相応の楽曲ということもあるが。

加えて、この頃に始まったオーディション番組の存在も流れを加速した。チョンハにとってもデビューのきっかけとなったものだ。日本の影響もあるとされる。

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そこまでは韓国で長いレッスン生生活を経た「完成品」がデビューしていたが、オーディション番組では日本のような「一緒に育てる」というかたちが出てきたのだ。

つまり、「日本と少し違うもの」を楽しんでいたのが、徐々に差がなくなろうともしているのだ。全般的にかわいらしくなっている。韓国側の業界の事情だけが原因ではない。こちらも2010年から、確かに歳を重ねている。すると「メンバーの年齢が若すぎて、ちょっと没頭しづらい」という心理が出てきても当然だ。

「次世代」が少し年齢を重ね、多彩な表現の世界に

しかし、2018年に日本に現れた22歳のチョンハは、ちょっとセクシーだ。そして日本にはいなさそうな存在感がある。「アイドル」と括るには歌唱時の高音の伸びは半端なく、圧倒される水準にある。かなりのトレーニングを積んできたんだろうなとも思わせる。

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かくいう筆者自身も2015~16年の韓国でのオーディション番組の事情はよく知らない。彼女の過去の動画を振り返るに、グループでのデビュー当時には確かに「かわいい」コンセプトの楽曲に取り組んでいる。

つまりは、この日のチョンハは、2015年以降に現れた世代が少し年齢を重ね、多彩な表現を身に着けていく時代の訪れを感じさせたのだ。ここからまた、アラフォー男性世代にもよい時代が来るのではないか。そんなことを思った。

この日の会場には、圧倒的に若い女性ファンが多く、一部男性のアラフォー世代と思しきファンもいた。チョンハは本来「女性が憧れる女性」というイメージも強いらしい。それでも、かわいらしすぎず、ギラつき過ぎず、確かな歌唱力もあり、それでいてかわいく、ちょっと日本にはいなさそうな存在のチョンハをもっと観てみたいと思った。

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結局日本のおじさんがK-POPを楽しむ理由というのは「日本とちょっと遠い世界を楽しみ」、そして「日本にちょっと近づこうとする彼女たちを見て楽しみ」こと。そうやって「日常生活を彩る」ということにある。音源や動画に触れ、「ちょっと遠い世界」を覗く。すると時折、彼女たちが日本に現れる。それが嬉しい。少し愛情が深まれば逆に近くにある彼女たちの国にも行ける。

この日、久々に行ったライブ現場の雰囲気もやっぱり楽しかった。普段はなかなか接点も持ちにくい、日本の若い女性ファンたちと同じものを観て、素晴らしいと思える、そういう空間も楽しいものだ。2010年夏移行の最初のブームの頃も、そうやって観ていたな、という感覚も思い出したりもして。

男性グループよりも市場の小さい女性グループ(チョンハはソロだが)は、同性に共感を得られてこそ市場で生き残れる側面があるという。そう考えると、「彼女らは彼女たちのもの」だ。おじさんはそこに加えてもらっている。彼女らに合わせた様々なコンセプトがあって当然だ。ただ一つ、願いを言うならば。「日本とちょっと違うものであり続けて欲しい」ということだ。

(写真はすべて「MIN Entertainment japan」提供の当日のファンミーティングの模様です)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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