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緊急安全確保の具体的方法 洪水編

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
緊急安全確保の方法 緊急浮き具の作り方(画像制作:Yahoo!JAPAN)

 8月3日(水)18時15分、山形県飯豊町に「緊急安全確保」の情報が発令されました。警戒レベル5 命を守る行動を。洪水の時にはどのようにして命を守ればいいでしょうか。

命を守る行動 垂直避難でも逃げ切れなければ

図1 洪水からの避難の段階。上:早めの避難、中:道路冠水時の垂直避難、下:水面で呼吸確保
図1 洪水からの避難の段階。上:早めの避難、中:道路冠水時の垂直避難、下:水面で呼吸確保

 洪水で緊急安全確保が必要な状況は、図1のうちの中と下です。中ではすでに道路冠水が始まっています。このような時には避難所に向かわずに、自宅などの2階以上の高い所に向かって垂直避難します。

 しかしながら下のようにその2階すら水面の下にもぐることもあり得ます。そうしたら、水面に浮いて、呼吸を確保します。これが洪水時の「命を守る行動」です。この時、自分の命を託すことになるのが緊急浮き具です。

緊急浮き具

 緊急浮き具にはリュックサックの中に着替えやタオルをたくさん入れる方法と厚手のジャケットをそのまま着る方法とがあります。この2つを組み合わせるとさらに水に浮くことができます。図2に作り方を示します。

図2 緊急浮き具の作り方(筆者撮影)
図2 緊急浮き具の作り方(筆者撮影)

リュックサック1個で命を守る

 カバー写真に掲載の通り、前方にかついで、背浮きになり、両手でしっかりとリュックサックを抱いてください。たいへん安定した状態で長時間浮き続けることができます。これで呼吸を確保して、救助を待っていてください。

 動画1はリュックサック1個で浮いて救助を待つ方法を示しています。少々の洪水の流れの中であれば、安定して背浮きをすることができます。陸上からロープで助けを受けることができます。

動画1 リュックサック1個で浮いて救助を待つ方法(筆者撮影、1分09秒)

厚手のジャケットで命を守る

 図3のように脚を少し曲げて、背浮きの状態で呼吸の確保を行います。例では靴を履いていませんが、靴は履いてください。靴の浮力も使えばさらに安定して浮くことができます。この姿勢で、救助を待っていてください。

図3 緊急浮き具 厚手のジャケットを利用した浮き方(筆者撮影)
図3 緊急浮き具 厚手のジャケットを利用した浮き方(筆者撮影)

救命胴衣(ライフジャケット)で命を守る

 救命胴衣が家に準備されていれば、最後はこれを着用して浮いて流されます。動画2は救命胴衣で浮いて救助を待つ方法を示しています。かなり荒い流れの中でも呼吸を続けることができます。笛がついていますので、吹くことによって周りの人に自分の存在を知らせることができます。携帯電話がポケットにあれば、取り出して119番などに通報して救助を要請します。救命胴衣で浮いていれば、できることです。

動画2 救命胴衣で呼吸を確保し救助を待つ(筆者撮影)

まとめ

 緊急浮き具は、浸水する前から準備して、避難途中や水が迫ってきた時に、身に着けてください。そして、命を守ってください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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