デトネーションエンジンの宇宙実証に成功、衝撃波を利用する革新的なエンジン、月や火星への往還に期待
11/14(木)、観測ロケットS-520 34号機が打ち上げられました。本記事では、将来の月や火星との往還などへの活用にも期待されている「デトネーションエンジン」をはじめ、その歴史と将来について解説していきます。
■衝撃波を利用して推進力を得る「デトネーションエンジン」
朝焼けの空を観測ロケットがはまばゆい光を放って突き進み、数十秒後には肉眼では見えないほど高い上空に達しました。今回の打ち上げは、H3やイプシロンなどの実用衛星を打ち上げるロケットとは異なり、宇宙に到達した後に様々な観測や実験を行うことを目的としています。搭載されている実験機器は、ロケットエンジンに変わる画期的な推進装置と期待されている「デトネーションエンジン」です。
デトネーションエンジンとは、火炎の速度が音速を超える爆発的な燃焼現象「爆轟」を利用しています。通常のロケットは素早く燃焼する「爆発」を利用していますが、「爆轟」になると音速を超える衝撃波を生み出します。この衝撃波を推進力とすることで、小型軽量、かつ既存のエンジンよりも低価格で安く高速飛行をさせることができるのです。
例えば皆さんのイメージしやすい例で言いますと、2020年に起きたレバノン・ベイルートの爆発事故などです。港の倉庫に保管されていた硝酸アンモニウムの500トンが爆発し、離れた物を吹き飛ばしたり、建物のガラスを割る衝撃波を起こすなどの被害がありましたが、それは正確には爆轟に分類されます。
このエンジンが実用化されれば、大きな推進力を得られるのはもちろんのこと、搭載する酸化剤を減らすことや、単一エンジンで済むための重量減少が見込まれ、従来のロケットより効率の高い宇宙往還機が期待されます。
■3年前に日本がデトネーションエンジンの宇宙実証に世界初成功
最初のコンセプトは1950年代までさかのぼります。アメリカでは、ミシガン大学の航空宇宙工学名誉教授であるアーサー・ニコルズが、実用的なデトネーションエンジンの設計開発に挑戦していることが記録に残っています。しかし、デトネーションエンジンの実現には大きな課題があり、現代でも実証はされていませんでした。それは、ばくごーの出力を均一に保ちながら、回転を持続させるという安定性が実現できなかったのです。音速を超える爆発とその衝撃波の利用では、当然エンジンを安定させることが難しかったんですね。
そして、JAXAや名古屋大学を中心とした研究グループは、安定性の課題を克服したデトネーションエンジンの開発に成功します。2021年には観測ロケットによる打ち上げにて、世界初となるデトネーションエンジンの宇宙実証にも成功しています。計測された圧力の推移などから、エンジンが安定に作動し、所定の推進力が宇宙で出力できたことを確認しました。
■今回打ち上げられた改良型は、より実用化に近づいた液体燃料エンジン
今回打ち上げられたデトネーションエンジンは、3年前の改良型となります。3年前の設計では気体を推進剤としており、より簡単な構造のエンジンを製作していました。そこで今回の改良型では、液体の推進剤で稼働するエンジンを3年かけて開発しており、エタノールと液化亜酸化窒素を使用します。構造は複雑となりますが、同じタンク体積の場合液体の方が多くの推進剤を搭載できるため、より多くの量の貨物も宇宙へ輸送することができるのです。
そして、今回の宇宙実証では、目標としていた推力=438N(ニュートン)、比推力=244secに達成したとのことです。今回の実験の成功により、ロケットで使用するエンジンの実用化に大きく近づくこととなります。
さらに、デトネーションエンジンはロケットのみならず、月や火星を行き来する宇宙船用のエンジンとしての応用も期待されているのです。日本が世界をリードしているデトネーションエンジンですが、この次世代エンジンが早期に実用化され、日本の技術が世界を引っ張っていく世界になるのを楽しみにしています。
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