クラスター弾禁止条約と対人地雷禁止条約、ロシア-ウクライナ戦争の影響
7月18日、リトアニア議会はクラスター弾禁止条約(オスロ条約)からの離脱を承認する法案を可決しました。この条約が2010年8月1日に発効されて以降、初めての離脱国となります。理由はウクライナを侵攻し差し迫るロシアの脅威に対抗するためです。
クラスター弾禁止条約とロシア-ウクライナ戦争
クラスター弾は親弾の中に多数の子弾を内蔵し散布します。広い面積を制圧できる特徴を持ちますが、不発弾の発生数が非常に多くなり戦争が終わった後も長期間に渡って解体しきれず一般市民を苦しめ続ける為に非人道的な兵器と見做され(注:つまり殺傷力が高いからという理由ではない)、使用を制限する条約が生まれました。
しかしアメリカ、ロシア、中国などの大国はオスロ条約には参加していません。それでもアメリカは半ば従った方針に転じており、クラスター弾の使用を中止し新規製造を止めています(注:ただし備蓄分がまだ残存している)。
アメリカはクラスター弾の輸出も停止した状態でしたが、2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻で状況が変わりました。砲弾不足に悩むウクライナ軍を支援するために、2023年にアメリカは備蓄として残っていたクラスター弾の供与を開始したのです。
現在確認されているアメリカからのウクライナへのクラスター弾の供与は、155mm榴弾砲用の砲弾とHIMARS用のATACMS弾道ミサイルおよびM30ロケット弾になります。M26ロケット弾や航空クラスター爆弾の供与は確認されていません。
もともとウクライナはオスロ条約に参加しておらず、開戦の初頭から旧ソ連製のウラガンやスメルチといったクラスター弾頭が常用弾である多連装ロケットを用いてきました。これはロシア軍も同じです。オスロ条約に参加していない限りは野外でのクラスター弾の使用は問題にできません、ただしクラスター弾を市街地に撃ち込んだ場合は民間人を含む広範囲への無差別攻撃と見做されて、ジュネーブ条約など国際人道法に触れる行為となります。
現実の戦場でクラスター弾は戦果を上げており、有用性が再確認されています。最前線の歩兵部隊への打撃や、後方の航空基地に駐機した戦闘機の地上撃破など、広範囲を面制圧できる利点は非常に大きいと言えます。
リトアニアはオスロ条約を離脱してクラスター弾を新規購入することになりますが、アメリカから購入したばかりのHIMARS多連装ロケットにはもう新規製造分のクラスターロケット弾の設定はありません。アメリカの古い備蓄弾薬はウクライナに回されるのでリトアニアには供与されないでしょう。
155mm榴弾砲用のクラスター砲弾はアメリカ以外の国から購入することも可能ですが、面制圧ということを考えると多連装ロケットとクラスターロケット弾の組み合わせが最も望ましいので、ポーランドが購入したばかりの韓国製「K239天橆」のようなクラスターロケット弾の設定がある多連装ロケットシステムの購入をリトアニアも考えている可能性があります。ポーランドはHIMARSとK239天橆の両方を同時に大量購入しています。
対人地雷禁止条約とロシア-ウクライナ戦争
対人地雷禁止条約(オタワ条約)は1999年3月1日に発効されました。対人地雷は埋設数が非常に多く戦争が終わった後も長期間に渡って解体しきれず一般市民を苦しめ続ける為に非人道的な兵器と見做され(注:つまり殺傷力が高いからという理由ではない)、使用を制限する条約が生まれました。注意点としては人が踏んでも起爆はしない対戦車地雷は対象外であること、対人用でも遠隔操作起爆式の物は対象外です。
ロシア-ウクライナ戦争において対人地雷禁止条約についてウクライナは参加しておりロシアは参加していません。ウクライナが解体処理しきれていなかった空中散布地雷「PFM-1」を使用した疑惑がありますが、使用していたとしても極少数な上に、本格的な埋設型の対人地雷は使用されていません。
対人地雷を使用せずに防衛戦を戦い抜いているウクライナ軍
そう、驚くべきことにウクライナ軍は埋設型の対人地雷を使用せずにロシア軍の侵攻を食い止めています。防御用の兵器である対人地雷を使用せずに強大なロシア軍の攻勢を食い止めて防衛に成功しているという事実は、この種の兵器が無くても大きな問題が無いことを示しています。
もしも対人地雷が無いことで戦線の維持が困難だと認識されていたならば、それを訴えて条約を離脱して他国からの供与を請う筈ですが、ウクライナではそのような動きがありません。
そのためなのか、対人地雷禁止条約を離脱しようとする国はまだ出ていません。リトアニアはクラスター弾禁止条約と対人地雷禁止条約の両方に参加していましたが、クラスター弾禁止条約のみ離脱を決めました。対人地雷禁止条約はそのまま維持しても構わないとしているのです。
ウクライナ軍が埋設型の対人地雷を使用せずに防衛に成功している理由について研究報告した論文はまだありませんが、幾つかの要素は考えられます。
- 対戦車地雷(TM-62対戦車地雷の備蓄が大量にある)
- ドローンによる戦場監視で味方の砲撃が指向しやすい
- 遠隔操作型の対人地雷(対人障害システム)
平地が多いウクライナの戦場では3の遠隔操作型の対人地雷は仕掛けにくい(隠せる場所が少なく見破られやすい)上に、効果的な戦果を上げた特筆すべき報告も無いので、おそらくですが1と2の要素が大きいのではないかと思われます。