自爆機能付きクラスター弾でも不発弾の問題は解決しない
7月7日、アメリカはウクライナへのクラスター弾の供与を発表しました。2009年にアメリカが他国へのクラスター弾の輸出を停止して14年、遂に自主規制政策が撤回されることになりました。ただし一時的な措置と説明されています。
- Biden Administration Announces Additional Security Assistance for Ukraine ※米国防総省の正式発表
- アメリカがクラスター弾をウクライナに供与する方針、自主規制政策の大転換 ※正式発表直前の解説記事
ウクライナに供与されるクラスター弾は155mm榴弾砲のDPICM(対人・対装甲クラスター子弾)と発表されています。M864砲弾ないしM483A1砲弾が該当します。なお国防総省のパトリック・ライダー報道官は「不発率2.35パーセント未満のDPICMを引き渡す」としており、これは使用から一定時間後に自爆する機能を持つ信管が装着されたモデルを指すものと思われます。しかし…
自爆機能でクラスター弾の問題は解決できない:赤十字国際委員会
赤十字国際委員会(ICRC)が指摘するように、自爆機能が付いていようと不発率2.35パーセント未満という数字は額面通りには受け取ることは出来ません。弾薬の不発率は使用条件で大きく変動します。柔らかい泥濘など着弾地点の土壌の状態によっては不発率は跳ね上がりますし、草木に当たっても不発率は上がりますし、極端な低い弾道で発射しても不発率は高くなります。試験数値の理想状態での不発率2.35パーセントという数字は、実戦ではとても達成できないものとなるでしょう。
なおアメリカ軍は20年前の2003年を最後にクラスター弾の運用を停止し※、「2018年を目標に不発率1%未満の子弾を実用化して運用を再開する」という目標を掲げていましたが、自爆機能を付けても動作が保証されず不発率1%未満を達成することは技術的に困難と判明して、2017年にクラスター弾の維持を諦めて全廃する方針となっています。
※追記訂正:アメリカ国防総省の正式発表ではアメリカ軍によるクラスター弾の最後の使用は2003年のイラク戦争となっていますが、実際には2009年12月17日にイエメン南部アビア県アル・ マジャラへのアルカイダを狙った攻撃で、TLAM-D(クラスター弾頭型トマホーク巡航ミサイル)のBLU-97子弾が使用されていました。参考:Cluster Munition Coalition U.S.
今回の155mmクラスター砲弾のウクライナ供与は、来年の春までに通常砲弾の量産体制が整うまでの一時的な措置と説明されています。アメリカのクラスター弾の自主規制政策は完全な撤回とはならない模様です。あくまで在庫のクラスター砲弾を供与するだけで、再びアメリカがクラスター弾を大量製造する意思はありません。
ロシア製クラスター弾の不発率は30~40パーセント?
アメリカのコリン・カール政策担当国防次官は「ロシア製クラスター弾の不発率は30~40パーセントと非常に高い」と説明していますが、本当なのでしょうか? 具体的な根拠となる研究報告が提示されていないので、そのまま信じることは難しいように思います。
クラスター弾は構造としては難しいものではなく、アメリカ製もロシア製も性能に大差はありません。同じような機能と同じような条件ならば同じような不発率になる筈です。ただし極端に古い砲弾なら不発率は跳ね上がりますし、柔らかい泥濘に撃ち込んだ場合も不発率は高くなるので、条件次第で変わってきます。
実はロシア軍とウクライナ軍の双方が使っている旧ソ連製クラスター弾にも一定時間後に自爆する機能が付いています。対人クラスター子弾の9N210子弾や9N235子弾は放出後に110秒で自爆、対人・対装甲クラスター子弾の3B30子弾は放出後に130~260秒で自爆します。ごく初期のモデルには自爆機能は用意されていませんでしたが、後から自爆機能付き信管が用意されており、旧ソ連製のクラスター弾であっても不発率を下げようという努力は行われています。
しかし現実に旧ソ連製の自爆機能付きクラスター子弾は大量に不発弾を出しているので、自爆機能でクラスター弾の問題は解決できないという赤十字国際委員会の主張は既に証明されていることになります。おそらくアメリカ製の自爆機能付きクラスター子弾でも同様でしょう。
なおロシア製(旧ソ連製)のクラスター弾の不発率について報告された資料はほとんど見当たらず、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が2009年に報告した南オセチア紛争(2008年8月、ロシアとジョージアの戦争)でのクラスター弾の使用で若干の言及があるのが見つかるくらいです。ただし…
戦場となったジョージアのルイシ村へのロシア軍によるクラスター弾の攻撃について「少なくとも1つのエリアでは35パーセントの不発率を記録した」とありますが、これはごく限られた狭い範囲での計測であり、平均的な数字として採用してよいものではありません。
複数のアメリカ政府高官が言う「ロシア製クラスター弾の不発率は30~40パーセント」の根拠がもしこのHRWの報告であるなら、少し無理のある主張でしょう。それとも他に根拠が書かれた資料があるのでしょうか。
アメリカ製クラスター弾の不発率は14~23パーセント?
HRWの2003年の報告によると、アメリカ軍のMLRS(多連装ロケット発射システム)のM26ロケット弾のM77クラスター子弾の不発率は16~23パーセントとされています。155mm榴弾砲のM864砲弾ないしM483A1砲弾のM42/M46クラスター子弾の不発率は14パーセントです。
またアメリカ議会調査局(CRS)の2022年の報告書では、クラスター子弾の種類を特定せずに『製造メーカーは「不発率2~5パーセント」と謳っているが、地雷処理業者によると「不発率10~30パーセント」という報告が多い』と言及されています。製造メーカーの主張する試験での数字は、実戦での過酷な条件では実現できないことが窺えます。
「不発率2~5パーセント」を謳う機材が実戦では「不発率10~30パーセント」に跳ね上がるのであれば、不発率2.35パーセント未満と謳うアメリカのウクライナ向けクラスター弾の実戦での不発率も、おそらく同様にそのような範囲の数字に跳ね上がってしまうことになるでしょう。