Yahoo!ニュース

デジタル庁が成功するための2つの条件

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(提供:ideyuu1244/イメージマート)

コロナ禍で明白になったわが国のデジタル基盤の脆弱性。急遽デジタル庁の創設やマイナンバーの本格整備に向けて議論が行われ、来年の通常国会に法案が提出されることとなった。

9月1日をめどに設立されるデジタル庁は、「デジタル社会の形成に関する司令塔として、強力な総合調整機能(勧告権等)を有する組織とする」ことが閣議決定されている。

具体的には、「基本方針を策定するなどの企画立案や、国、地方公共団体、準公共部門等の情報システムの統括・監理を行うととともに、重要なシステムについては自ら整備する。これにより行政サービスを抜本的に向上させる。」こととされている。

筆者は、行政のデジタル化は必要だが、それはあくまで「基盤の整備」であって、真に必要なことは、形成されたデジタル基盤を活用して「国民目線に立ったどのような行政・政策を行うか」という点だと考える。

一例を上げると、コロナ禍で今後必要となる各種給付制度について、デジタル庁も制度設計段階から関与することである。マイナンバー制度を活用して給付の必要な者を見つけ出し迅速な執行につなげる制度の設計はデジタル庁しかできない。

マイナンバー制度は、税、社会保障、災害の3分野だが、事実上奨学金事務にも拡大されている。今後、マイナンバー制度の活用範囲を広げる各種の政策を所管官庁に促すことも「勧告権等」に入るべきだと考える。

もう一つ視点がある。、筆者は、菅官房長官(当時)の下で6月に立ち上がった「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(以下、ワーキング)にメンバーとして参加した。月一回程度の議論を経て、2020年12月11日に「報告書」と新たな「工程表」を了解し、21日の閣僚会議で正式決定された。

この議論を通じて感じたことは、「技術屋」と「政策屋」の連携の重要性だ。ワーキングメンバー6人のうち筆者以外は「技術屋」である。皆さんIT技術に造詣が深く、経験も積んだ方々だ。一方筆者は、役所出身の「政策屋」(法律屋)である。そこで実感したことは、技術論のむつかしさに加えて、国民目線でデジタル社会の形成がなぜ必要なのかということをわかりやすく説明することの必要性・重要性だ。そのためには「技術屋」と「政策屋」が一体となって議論する必要がある。

行政のデジタル化は「手段」であり、重要なことは、便利な手段を活用してどのような国民目線の「政策」を構築するのかということだ。デジタル庁は、この原点を忘れてはならない。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

森信茂樹の最近の記事