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問題は「103万の壁」より「貧困の罠」、根本的な対策は給付付き税額控除で

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(写真:つのだよしお/アフロ)

国民民主党が「103万円の壁を壊して手取りを増やす」と公約し、若者の支持を得て躍進した。具体的な内容をどうするのか、自公と国民民主党の政策協議が始まっている。

若者の支持拡大の背景には、アベノミクスによる中間層の二極化と、高齢者に偏よる社会保障を支えるシルバー民主主義への反発がある。これまでのわが国の社会保障政策への大きなチャレンジと受け止めることが必要だ。

そこで、103万円の壁問題は、目先の大学生アルバイトの就労調整といった問題だけでなく、社会保険料負担も考慮し、より踏み込んだ検討が必要だと考える。

欧州諸国では、失業手当が高水準なことから、働き始め所得を得ても、税と社会保険料負担が生じ、手取りが減ってしまうポバティ―トラップ(貧困の罠)が大きな問題となっていた。このモラルハザードをなくし、勤労をして所得を得ることで将来の安心を得るワークフェア思想に基づき導入されたのが、給付付き税額控除という制度だ。

英国ではユニバーサルクレジットという名称で行われているが、減税部分も含め給付一本として雇用年金省により運営されている。中低所得者に対象を限定し、家族単位の手取り所得の多寡に応じて給付額が決まり、実質的に税や社会保険料負担が軽減される制度で、多くの欧州諸国で導入され、失業の軽減や貧困対策として役立っている。給付後の所得をスムージングするので、106万円や130万円の社会保険料の壁対策にもなる。

国民民主党は、この給付付き税額控除を「日本型ベーシック・インカム(仮称)」創設として以前から選挙で公約しており、彼らは内容を熟知している。

わが国が目指すべき社会は、「より多くの人が勤労する。所得が生じれば税・社会保険料を負担する」という大原則の下で、中的所得者には所得に応じて負担軽減・スムージングをして「壁」をなくすことではないか。国民民主党の主張する所得控除の75万円の引上げは、7-8兆円の減収をもたらす上、適用税率の高い高所得者ほど恩恵が多くなる。単なる財政ポピュリズムの政策ではなく、大きなビジョンを描いての政策協議を期待したい

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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