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103万円の壁、学生アルバイトを奨励する扶養控除の見直しへの素朴な疑問

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(写真:つのだよしお/アフロ)

103万円の壁の問題は複雑で、整理した議論をする必要がある。

まずは本人の基礎控除と給与所得控除の合計額103万円を引上げるということ。

次に、子供(学生)がアルバイトを行っている場合に、子供(学生)の収入が103万円を超えると親の扶養控除がなくなるので、世帯の手取り額が減少する壁への対応である。

これは基礎控除の引上げではなく、現在サラリーマン家庭の場合103万円となっている税法上の扶養親族の定義の見直しである。学生の方は、勤労学生控除を使っていることが多く、その場合学生自身の所得税は130万円まではかからない。これらの問題を、切り分けて考える必要がある。

国民民主党は103万円の基礎控除等を178万円までの引上げを求めているが、大きな打撃を受ける地方自治体の強力な反発にあっており、引き上げ幅は大幅に縮小されるだろう。インフレ調整分を行うことは必要だ。

問題は、扶養控除の方だ。筆者の素朴な疑問、問題意識は以下の通りだ。

そもそも扶養控除は、本人(学生)は基礎控除や給与所得控除、さらには勤労学生控除の範囲内(収入130万円)で課税されない。加えて父親も、子供が130万円まで収入があっても、「扶養親族」を抱えているという理由で扶養控除が適用され課税されない。税制の専門家の世界では「二重控除」「控除の二重取り」ではないかと問題にされてきた。このことをどう考えるのか。

それより筆者が大きな問題と考えるのは、学生の本分は勉強することではないか、という点だ。学生がアルバイトを行いやすくするような税制(政策)は、本当に日本の将来のためになるのだろうかという素朴な疑問である。減収額に相当する財源を、真の苦学生のへの返済の不要な給付型奨学金制度の拡充にまわし、彼らの勉学を支えることが、政策としては筋ではないだろうか。

国民民主党はキャスティングボードを握っているが、その主張は、財源問題を放棄した無責任な対応だ。

現在の所得税制には、退職金税制など時代遅れになった税制や、金融所得の多く帰属する高所得に有利になっている「1億円の壁」問題などがあるので、この機会にそれらの見直しと合わせて、所得税改革として議論をすべきだ。基礎控除の見直しだけ切り取って目先の議論だけしても、意義は薄い。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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