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南北回線復元でも金与正氏がやはり韓国側に突きつけた――米韓演習めぐる「希望」か「絶望」かの踏み絵

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
金与正氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 韓国・北朝鮮間の通信連絡線復元について、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長は1日発表した談話で、韓国側で高まる対話再開への期待感を皮肉るように「断絶されたものを物理的に再結合させただけ」と表明した。そのうえで韓国側に、今月予定されている米韓合同軍事演習についての判断を求め、「希望か絶望か? 選択は我々がするのではない」とボールを投げた。

◇南北首脳会談?「軽率な判断だ」

 金与正氏は談話の中で、通信連絡線の復元について「現在、南朝鮮(韓国)内外でその意味を拡大して解釈している」との見解を示した。

 南北首脳による親書交換という意思疎通のプロセスにより、通信連絡線が復元された経緯から、韓国側で「南北首脳会談につながるか」などと報じられている。だが金与正氏はこの状況を「私は、軽率な判断だと考えている」とクギを刺した。さらに通信連絡線復元に対して「断絶されたものを物理的に再結合させただけという、それ以上の意味をつけてはならない」との解釈を示したうえで「誤った憶測と根拠のない解釈は、かえって失望だけをもたらす」と述べた。

 そのうえで今月予定されている米韓合同軍事演習を取り上げ、「数日間、私は南朝鮮軍と米軍との合同軍事演習が予定通り強行される可能性があるという、気分の悪い話を聞き続けている」と批判したうえ「(演習は)信頼回復の一歩を再び踏み出したいという北南(南北)首脳の意志を深く傷つけ、北南関係の前途をさらに曇らせる、つまらない前奏曲になるだろう」とけん制した。

 談話は、最後に「わが政府と軍隊は、南朝鮮側が8月に再び敵対的な戦争練習をするのか、あるいは大きな勇断を下すのか、鋭意注視するだろう」「希望か絶望か? 選択は我々がするのではない」と締めくくっている。

◇韓国側の期待に水を差すように「条件」提示

 南北間の通信連絡線は先月27日午前10時に通話が再開された。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金総書記の両首脳が親書を通じて関係改善について意見を交わし、途絶えていた連絡線の復旧で合意したという流れがある。

 この状況を受け、韓国側では「文大統領の任期中に対面の南北首脳会談も推進している」「早ければ8月に中朝国境が再び開かれ、その後、南北対話が本格的に始まるかもしれない」など、南北関係の急速な好転を期待するような報道が数多くみられた。

 韓国側で高まるこうした期待に水を差すように、金与正氏は今回、「融和ムードが続くための条件」を示したわけだ。金与正氏の談話は、過激な表現で韓国側を非難することが多いが、今回は南北首脳が主導する関係改善ムードである点を考慮してか、こうした表現は控えられている。

 朝鮮半島での防衛態勢維持には定例的な合同軍事演習が不可欠だと米韓両軍は判断しており、米韓は規模を縮小してでも実施する構えだ。今回の談話の意図を受ける形で、韓国側が米側に演習中止を持ち掛け、北朝鮮側が望むような結果が得られれば、南北関係の改善ムードはさらに高まるだろう。だが、韓国側の働きかけにもかかわらず、演習が実施されれば、北朝鮮は態度を一転させる可能性が高い。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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