コロナを期に中国で進む、テクノロジー活用による「非接触配送」
新型コロナウイルスの感染拡大の発生後、デリバリーと宅配便の「非接触配送」が中国で爆発的に増加した。
今回は、人同士の接触機会を可能な限り減らすことで、感染拡大のリスクを最小にする、中国の様々な取り組みを紹介していく。
コロナで「非接触配送」という言葉が流行
中国において「非接触配送」という言葉は、生活系サービスを広く行っているIT大手「美団(meituan)」が使い始めたことが流行の端緒だと言われている。(厳密には、当初は「無接触配送」という言葉を使用)
同社は2020年1月26日に新型コロナウイルスの緊急対策として、同社の運営するフードデリバリーサービスでドライバーと接触をせず受け取れる方法の提供を開始した。
ここでいう「非接触配送」とは、配達員が希望する利用者に対して、商品を手渡しではなく、会社の受付や団地の入口に設けた臨時の棚、または部屋の玄関前など指定された場所に置くことである。
人同士の接触の機会を減らすことで、利用者と配達員の受け渡し時の安全性を確保し、感染拡大を防ごうという試みだ。
2月に「美団」が発表した「非接触配達報告」によると、開始からの2週間で、非接触配達を利用した注文は全体の80%以上を占めたという。
導入が進む宅配ボックス・フードデリバリーボックス
新型コロナによって、宅配ボックス・フードデリバリーボックスの導入もより一層進んだ。
上海市は2月8日に、オンライン経済の発展を奨励する施策を発表し、その中で「非接触配送」を加速的に推し進めると言及。
これに対し、アリババ系列のフードデリバリー大手「餓了麼(ELE.ME)」物流部門の担当責任者は、中国全土でフードデリバリー用のボックス3000台を投入し、そのうち上海には1000台投入する予定だと述べた。(参考記事)
実際のところ、フードデリバリー用のボックスは、新型コロナ流行の前から存在はしていた。
例えばこれは上海のあるビルにあるフードデリバリーボックスである。コロナ前の2019年8月時点では既に設置されていたことを筆者は確認している。
このビルにてフードデリバリーの注文を行うと、配達員から「配達ボックスに配送して問題ないか」という旨の確認の電話が来た上で、チャットで配達ボックス解錠の暗証番号が送られてくる。
これは、フードを配達する配達員の立場からしても、メリットは大きい。
ピークタイムに、エレベーターでオフィスビルやマンションの上に上がるのは時間がかかる場合も多い。加えて、セキュリティが厳しいビルは上まで上がれないため、注文者が一階に取りに来るまで待つ必要がある。
ノルマと時間に追われる配達員にとっては、このボックスを利用することで配達効率が上昇するのだ。
上記のボックスに加えて、「餓了麼(ELE.ME)」は保温機能や自動消毒機能を搭載したフードデリバリーボックスを上海のショッピングセンターに導入している。また薬品、スーパーマーケット用品、野菜に適したボックスの研究・設計も進めているという。
デリバリープラットフォームが本腰を入れたことで、フードデリバリーボックス業界は今年、需要の爆発的な成長を迎えるのではないだろうか。
新型コロナによって「非接触配送」という言葉が流行ったが、これは全く新しいモノではなく、すでにあったサービスの「発展系」とも言えるだろう。
店舗にも受け取りロッカー
また「配送」という文脈からは少し外れるが、「事前に予約しておいてロッカーで受け取る」という形式のものも、新型コロナ以前から存在している。
例えば、若者を中心に人気のおしゃれなティーショップ「HEYTEA(喜茶)」。日本でのLINEのようなインフラアプリ「WeChat(微信)」のミニプログラム(アプリ内アプリ)から注文すると、店舗によってはロッカーでの受け取りとなる。
注文後の画面には受取ロッカー番号(ここでは「A01」)とともに「解錠ボタン」が表示されており、そのボタンを押すと該当の番号の扉が開く形式だ。
中国においては、店舗に来る前にWeChatから注文・決済を行い、店舗で受け取るということ自体はかなり一般的だ。
ただ、ファーストフード店や上述のティーショップなど、お客さんの回転が早いお店では特に、店舗内で注文したお客さんとも混ざり合う受け渡し口が混雑することが多い。
場合によっては自分の頼んだ商品を探すだけで時間かかって面倒なこともある。そして何よりも大変「密」にもなる。
店側からしても、「該当するお客さんを呼んで、商品を探して渡す」という作業が発生し続けるのはなかなか人的コストが高いと考えられる。
withコロナ時代に「密を避ける」という意味でも、人的コストを削減するという意味でもロッカーの設置は合理的な施策となることも多いだろう。
自動運転車による無人配送
新型コロナ流行下では、人と人の接触を避けるテクノロジーとして、無人配送ロボットも一部の地域で活用された。
例えば中国EC(電子商取引)大手の「京東(JD.com)」は武漢市内で、「スマートデリバリーロボット」による配送を行った。
これは、配送車に荷物を積み、配送指令を出すと、配送車が自動的に障害物を避けてルートを決め、送り先に荷物を配送してくれるというものだ。
また、IT大手の「百度(Baidu)」は同社の自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」と、運搬用の自動運転車開発の「新石器(Neolix)」が共同開発したスマート自動運転車を災害対応のために導入。新石器の発表によると、これらの自動運転車は病院に食事を届けたり、消毒液を噴射し街の消毒を行ったりしたという。
先述の「美団(meituan)」も、コロナ期間に北京にて無人車両による配送のテストを行っている。(参考記事)
このように配送や物資の運搬を行うロボットは以前より存在している。筆者も展示会などではよく目にしていた。ただ、基本的には実験段階のものが多く、日常的に多く使われているということはあまりない印象だった。
ただ新型コロナの流行により、予期せぬ形ではあるが実践的に利用される機会が増えたことで、開発する各社は機能を検証する機会を多く得られていると言えるのではないだろうか。
「コロナで一般的になった」とまではいかないが、配送ロボットや関連するテクノロジーは、今後進化のスピードが上がるかもしれない。
テクノロジー活用はコロナ対策だけでなく人件費削減にも。日本でも進むか。
翻って、日本ではどうだろうか。
フードデリバリー大手の「出前館」は、コロナが本格的に流行し始めた3月24日より、希望されるお客さまに対して、キャッシュレス決済による「非接触デリバリー」の対応を開始している。
同社のプレスリリースによると、
とのことだ。
Amazonでも、配達員が荷物を手渡しせず、在宅でもお留守でも指定された場所に商品を置く「置き配指定サービス」を実施している。(参考)
先述のフードデリバリーボックスの話と同様、「手渡しをしない」ということは配達効率の上昇に繋がるだろう。
仮に在宅であっても、インターホンを押して人が出てくるのを待つというのは、再配達を行うほどのコストではないにせよ時間が取られる行為なのだ。
「非接触配送」の取り組みは、新型コロナ対策だけでなく、人件費削減に向けた取り組みとしても価値があるだろう。
中国事例を深掘りしてみると参考になる部分もあるのではないだろうか。