競争激化のインドのフードデリバリー業界、新機能・サービス続々と
インドのバンガロールに住んでいる筆者は、普段の食事によくフードデリバリーアプリを使う。
インドでフードデリバリーアプリといえば、Zomato(ゾマト)とSwiggy(スイギー)が二大巨頭だ。どちらのアプリもユニコーン企業が運営している。
インドのフードデリバリーアプリも、日本でよく使われるフードデリバリーアプリ「Uber Eats」や「出前館」と基本的な機能は変わらない。様々なレストランから食べたい料理を選択し注文すると、配送員が家まで届けてくれるというものだ。
現在、インドでのZomato(ゾマト)とSwiggy(スイギー)のシェアはほぼ半々。
両社がしのぎを削っているため、新機能・新サービスがどんどん提供されており、筆者は一ユーザとしてその進化をとても面白く感じている。
本記事では、そんな両社が近年アプリ上で提供し始めた、興味深い新機能・新サービス施策をいくつか取り上げる。
①飛行機での配達サービス「Zomato Intercity Legends」(Zomato)
「Zomato Intercity Legends」とは、他の都市のレストランの料理が飛行機でデリバリーされるサービスである。
2022年の8月にまずグルガオン(デリーに接する都市)と南デリーの一部で試験的に導入され(参考)、バンガロールでは2022年の9月から利用できるようになった(参考)。
「Zomato Intercity Legends」のページに入ると、現在提供可能な、他都市の料理が表示される。配達時間はタイミングと居住場所によるようだが、筆者が目にしたことがある範囲では「35-45分」であることが多い。
これは、一般的なフードデリバリーの配送時間と変わらない。
短時間で他都市のレストランの料理を食べることができるのは、様々な料理が冷蔵状態で飛行機でそのレストランがある都市(筆者の場合はバンガロール)の冷却倉庫に事前に運ばれているからだ。
注文が入ると配送先の都市の冷却倉庫を経て消費者の元に届けられるのである。
このサービスを利用しているインドの方数人にお話を聞いてみたところ、以下のようなことがわかった。
- 自分の都市では食べられない、ご当地ならではの「本物の」料理を求めている
- パーティーなどの特別な場合だけではなく、日常生活の中で「いつもと違うものが食べたくなった時」にも利用されている
筆者も何度か利用したが、品質の劣化なども感じられない、どれも美味しい料理であった。
また「飛行機で他都市から運ばれてきた地元料理を注文し、食べる」というのは、なんだかわくわくする体験だ。普段の食事に特別感を与えることができる、ユニークなサービスだと言えるだろう。
詳細は以下の記事を参照されたい。
インドのフードデリバリー大手「Zomato」の挑戦:飛行機でディナー配達(滝沢頼子) - エキスパート - Yahoo!ニュース
②ARメニュー(Zomato)
Zomatoは一部メニューをARで見られる機能を実装している。
企業からの公式の発表は見当たらなかったが、2023年後半からリリースされている機能のようだ。
平面にカメラを向けると、料理がスマホ画面に出現。上下左右に動かすことで、料理がどのようであるかを、写真で見るよりもリアルに知ることができる。
この機能があるだけでは、Zomatoの利用頻度が増えるわけではないように思われる。
ただ、料理の雰囲気がわからなくて選びづらいなど、困った時の選択の助けになりそうだ。特に料理の大きさを知りたい時にはいいかもしれない。
③ヘルシーなメニューの提案(Zomato)
Zomatoはユーザの「健康的な」食事を支援するため、ナンをカートに入れると、代わりにロティ(ナンより薄くカロリーが低いパンのようなもの)を提案する機能を2024年5月にローンチした。
これはZomatoのCEOのDeepinder Goyal氏がX(旧Twitter)で発表したもので、彼によると「今のところ7%の利用率(attach rate)」とのことだ(参考)。
ただし、事前や追加のレコメンドならともかく、「自分(ユーザ)が一度選択したものに対して代替の選択肢を提示される」という体験は少し違和感があるのではないだろうか。
Deepinder Goyal氏は「今後はナンだけではなく、例えばデザートなどの別料理/カテゴリでも同じような提案機能を実装する」としているが、彼のX(旧Twitter)でのポストには賛否両論のリプライがついている。
④電車の車内への料理の配達サービス「Food On Train」(Swiggy)
Swiggyは、インド鉄道のIRCTCと提携し、2024年3月から「Food On Train」を開始した(参考)。
これは、列車の予約番号を入力し食べ物を注文すると、指定した駅の列車内の自分の座席で注文した料理を受け取ることができるというサービスである。
これにより、長時間の列車旅行中でも多様な食事を楽しむことができるというわけだ。
このサービスはまず、バンガロール、ブバネーシュワル、ヴィシャカパトナム、ビジャヤワーダの4つの都市で提供され、今後、さらに50以上の駅に拡大予定である。
⑤追加料金での優先配達(ZomatoとSwiggy)
Zomatoは、2024年4月にバンガロールとムンバイで追加料金での優先配達を試験的に実施(参考)。
開始直後に筆者のアプリを見てみたところ、追加料金29ルピー(約55円)で「最大」5分短縮、と魅力を感じづらいものだった。
2024年6月現在では、「追加料金19ルピーで優先配達」となっているものの、短縮される目安時間は示されていない。
ややメリットがわかりづらいようにも思えるオプションだが、なにはともあれ現在は試行錯誤期間だと思われる。今後の進化にも期待したい。
また、ライバルのSwiggyも配達スピードに関するオプションを開始している。
しかしこれは「最大で15分遅くなるが、4ルピー(約7.5円)安くなる」という、「優先配達」とは逆の方向のオプションだ。
「他の注文と一緒に配送するので環境にも優しい」旨も訴求されており、急いでいない場合はこちらの選択意向が高まりやすいオプション設計に思える。
※ローンチ当初は割引なしの環境訴求のみだったが、2024年4月頃から割引を開始したようだ
本記事では、ZomatoとSwiggyが近年アプリ上で提供し始めた機能・サービスを5つ紹介した。
魅力的なもの、面白いと感じるものもある一方、サービスとしての価値や収益性との関係が不明確な機能・サービスもあると感じる。
しかしながら、これらの施策は両社の試行錯誤の一環であり、今後さらに改善が続けられるだろう。ユーザからのフィードバックを取り入れ、より良いサービスを提供するために進化し続けることが期待される。
今後もZomatoとSwiggyの新たな挑戦と、その成果に注目していきたい。