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インドのZOZOTOWN「Myntra」アプリに見る、ファッションECでのAI活用のポイント

滝沢頼子インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント
Myntra公式Facebookより

インドのファッションEC「Myntra(ミントラ)」が、AIを活用した機能を2023年5月に2つ立て続けにリリースした。

インド在住の筆者が実際に使い、またインドのユーザにインタビューをして見えてきたことを解説する。

Myntra(ミントラ)とは?

Myntraは2007年に設立された、バンガロールに本社がある企業で、インド最大のファッションEC(ネットショップ)を運営している。

Myntraアプリのホーム画面(筆者スクリーンショットより)
Myntraアプリのホーム画面(筆者スクリーンショットより)

現在、Myntra上では6,000以上のインドおよび国際的なファッション/ライフスタイルブランドの商品が販売されている。

日本でいうところの「ZOZOTOWN」のような位置付けと言って良いだろう。

以下では、2つのAI機能とユーザインタビューの結果を踏まえて得られる示唆を紹介していく。

AI機能①パーソナルアシスタント機能の「My Stylist」

まずはAIを活用した「パーソナルスタイルアシスタント機能」である「My Stylist」。(2023/5/18にリリース)

「My Stylist」は、一つの服のみではなく、「コーディネート」のレコメンドをしてくれる機能だ。

いくつかの切り口でコーディネートを紹介してくれる機能なのだが、そのうち筆者が面白いなと思った「過去のMyntraでの購入品起点での」コーディネート提案機能を紹介する。

これは「追加でこれを買うと、過去に買った商品と合わせてコーディネートが完成するよ」という形で商品を提示してくれる機能である。

「My Stylist」ページ(赤枠や日本語テキスト等は筆者による加工)
「My Stylist」ページ(赤枠や日本語テキスト等は筆者による加工)

左上の「ALREADY BOUGHT」と緑色のラベルがついているものが、自分が過去に買った商品で、それ以外の3マスにあるものが「買った商品に合うもの」としてレコメンドされている商品だ。

UIも直感的であり、あまり思考せず楽しく見ていけると筆者が感じた機能だが、インドのユーザへのインタビューからも、服やコーディネートの選択肢に触れる新たな切り口として、楽しく閲覧されていることがわかった。

週1-2回程度Myntraを見ているというバンガロール在住のAさん(27歳・女性)は以下のように語る。

いつも「購入履歴からのレコメンド」を見ます。特に服にあうアクセサリー、バッグや小物を見ています。
(中略)コーディネートを考えるのにも役に立ちますし。自分が持っているもので近いものがあれば、(買わずに)それを使えば良いと思っています。

Aさんを始めとして、新たに購入する服を見つけるだけではなく、ざっとコーディネートを「Look Book的に」見て、手持ちのものと合わせたコーディネートの参考にするというユーザは何人か見られた。

Bさん(23歳・女性)はこう語る。

セットになりそうなものを見るためざっと見ています。主に「閲覧した服に合うコーディネート」を見ます。そこにあるものは欲しいものである可能性が高いからです。
ここではコーディネートを学ぶこともできます。特に合うアクセサリーがわかるのも良いですね。

また、ユーザの発言や使い方からは、全面的にコーディネートや購入品の参考にするというより、好きなもの・良いと思うものをつまみ食い的に見ている様子がうかがえた。

Cさん(25歳・男性)はこう語る。

時計はあまり変えないですし、靴はオフラインで買うので、時計と靴のレコメンドは自分は要らないです。でもズボンのレコメンドは役にたっています。(中略)
全部のレコメンドが素敵というわけではありません。いくつかはいまいちですが、それでも自分にとっては参考になるので良いです。

ファッションはそもそも「正解」があるものではなく、「好みに合うかどうか」という要素が大きいものだ。

見ていく中で、全てのレコメンドを良いと感じられなくても「ある程度良さそうなものがある」ということであれば見る理由になる。

筆者は当初「精度」が気になったのだが、そもそもファッションは「絶対的基準に基づいた正しい答え」や「高い精度でのレコメンド」が求められづらい分野である。

現時点でこの機能は、ユーザ視点では楽しく見ていく上で問題がない程度の精度であり、また「コーディネート」という切り口で服を選ぶことができる点で新規性があるため、ユーザに楽しく使われる機能になっているようだ。

AI機能②ChatGPTを活用した「MyFashionGPT」

またほぼ同時期(2023/5/24)にリリースされた、ChatGPTを使った「MyFashionGPT」。

これは、文章で欲しい服を打ち込む、もしくは例示されている文章を選ぶと、そのニーズに合う服を提示してくれるという機能である。

「MyFashionGPT」ページ(筆者スクリーンショット)
「MyFashionGPT」ページ(筆者スクリーンショット)

以下は「モルディブに行くための服を出して」と書いた時の結果である。確かに「それっぽい」ものが出てきたように思う。

「MyFashionGPT」ページ(筆者スクリーンショット)
「MyFashionGPT」ページ(筆者スクリーンショット)

ただ一方で、質問をするためにはユーザ自身がある程度ニーズを明確にして言語化する必要があるし、それを打ち込む面倒さも発生する。

そのため、服選びのシチュエーションでは使われづらいのではないかと疑問に思っていたのだが、インドのユーザにインタビューしてみた結果は、その仮説通りだった。

多くのユーザにヒアリングを行ったが、「MyFashionGPTを知っている」というユーザには出会えたものの、日常的に利用しているユーザには出会えなかった。

先述のCさん(25歳・男性)は、利用しない理由についてこう語る。

こういうテクノロジー自体は便利ですよね。また、自分は日常的に仕事でChatGPTを使うので、このようなものに慣れてはいます。でもファッションには合わないんじゃないかと思います。
(中略)
欲しいものがあるのなら直接探しにいけば良いので、必要だと思いません。

「ニーズが言語化されているのであれば、自分で探せば良い」という反応である。

また、他のユーザにおいても「MyFashionGPTを知ってはいるが、わざわざ使う理由がない」という反応が多かった。Bさん(23歳・女性)はこう語る。

この機能(MyFashionGPT)は、使ったことはないですね。My Stylistに満足していますし…。特に使う理由がないという感じです。

(「使わない理由」をあえて言語化をするのは難しいものなので)明確に述べていたユーザはいなかったのだが、筆者がユーザの画面を見せてもらいながら話を聞いている限りにおいて、

  • この機能自体に、明確な使い勝手の瑕疵やマイナスの印象があるというわけではない。
  • (筆者から依頼してその場で使ってもらうと)使ったら使ったで良い機能だと思える。
  • ただアプリには他の機能や特集ページもあり、そちらの探し方に慣れており、不満もない。その中で、日常的にMyFashionGPTを積極的に使う理由がない

というようなことだと受け取れた。

ビジュアルを見ながら感覚的に選んでいくことも多いファッションのような商材においては、「ある程度ニーズを明確にして言語化する」必要があるMyFashoinGPTはあまり相性が良くないのだと思われる。

ちなみに、2023年9月には、「ショッピングアシスタント」と銘打たれた、Chatbotの「Maya」が登場している。

こちらもMyFashionGPTと似た機能だが、ユーザからの一つのリクエストですぐに商品候補を提示するMyFashionGPTとは異なり、「Maya」に何かをお願いすると、「Maya」から追加でいくつか質問が投げかけられる

例えば「モルディブに行くための服を出して」と聞いてみると、性別と「パーティー用かカジュアルか」を聞かれた上で提案がされた。

「Maya」ページ(筆者スクリーンショット)
「Maya」ページ(筆者スクリーンショット)

一つのリクエストから候補を出すMyFashionGPTに比べるとより自分の好みに近いものが出てくる可能性が高まったように感じるが、これも最初のリクエストの言語化がユーザ側に委ねられているという点ではMyFashionGPTと変わらない

ユーザインタビューから得られた示唆

Myntraを利用しているインド人ユーザに「My Stylist」と「MyFashionGPT」の使い方をインタビューした結果、以下のような示唆が得られた。

示唆1. AIと服選びの相性は良さそうである

まず、服選びはロジカルに導き出される「正解」があるわけではない。何を良いと思うかは人それぞれの好みに大きく左右される。

そしてAIは、ある程度の条件を与えられれば、それに従って多くの選択肢を出すことができる

それを踏まえると、AIは服選びを含む、以下のような性質をもつ商材と相性が良いと言えるだろう。

  • 単一の「正解」があるわけではない(条件に対する厳密な正確性が求められるわけではない)が、
  • 個々の「好み」には、ある程度方向性があるカテゴリの商材

示唆2. 服選びにおいては、ユーザに言葉で考えさせるな&選ばせるな

ファッションは多くの人にとって、欲しいものや自分の好みを言語化することが難しい分野の商材だと言えるだろう。

精緻に言語化して探すというよりも、まずはどんどん具体的な選択肢を見て選んでいくのが向いているのではないだろうか。

そのような性質を踏まえると、以下のような提示方法が良いと考えられる。

  • 0から欲しいものをユーザに言語化してもらうより、提示した選択肢から選択してもらう方が良い
  • その場合の選択肢は、テキストではなくビジュアルの方が良い(例:「どちらが好きか」の質問とともに提示される服画像の選択肢を次々に選んでいくと、「あなたにおすすめの服」が出てくる、等)

服以外にも、アクセサリーやカバンなどのファッション全般や、家の内装、また家具や小物などのインテリアなどもその傾向は強いだろう。

今回はMyntraのユーザインタビューの結果と、結果から導き出された示唆についてお届けした。

これらは、言われてみれば当たり前のようなことだが、これらをユーザ行動に肌感覚を持った上で、言語化しておくことは必要なことだと考えている。

今後は、現在のMyntraの機能が今後どのように進化していくのか、ロイヤリティや売上向上に寄与するのかなどにも注目していきたい。

インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント

株式会社hoppin 代表取締役 CEO。東京大学卒業後、株式会社ビービットにてUXコンサルタント。上海オフィスの立ち上げも経験。その後、上海のデジタルマーケティングの会社、東京にてスタートアップを経て、中国/インドのビジネス視察ツアー、中国/インド市場リサーチや講演/勉強会、UXコンサルティングなどを実施する株式会社hoppinを創業。2022年からはインドのバンガロール在住。

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