在日中国人の人口が佐賀県や山梨県を超えて、日本の都道府県レベルの人数になったことは脅威か?
ここ数年、在日中国人について取材している。かつて「在日」といえば在日韓国・朝鮮人を指す代名詞だったが、昨今では在日中国人の存在感のほうが増してきている。その理由のひとつは、何といっても人口の多さだ。
法務省の統計(23年末)によると、在日中国人は約82万1800人と、全在留外国人中トップとなっており、2位のベトナム(約56万5000人)や3位の韓国(約41万人)を大きく引き離している。
この約82万人という数字を日本の都道府県別の人口と比較すると、佐賀県(約79万4300人)や、山梨県(約79万5500人)のそれをすでに超えていることがわかる。佐賀県は47都道府県の人口別で42位、山梨県は41位と下位なので、在日中国人の人口も、その付近に位置していると表現することもできる。
中国の政治リスク、不自由さなどの理由から日本に移住する人が増えているので、もしかすると、あと数年もしないうちに、現在40位の和歌山県(約89万1600人)や、39位の秋田県(約91万3500人)の人口に匹敵するくらい、増えるかもしれない。
2017年のときは約73万人だった
ちなみに、筆者は今年と2018年にも在日中国人社会に関する本を出版しているが、2018年に出版したときには、本の帯に、編集者が「もはや鳥取県の人口を遥かに超える」や「70万人の衝撃!」などという目をひくキャッチコピーをつけた。本の冒頭(プロローグ)は「日本の中国人は、高知県民とほぼ同数」という小見出しから書き始めている。本を執筆していた当時(2017年末)、在日中国人の人口は約73万人で、在留外国人総数の約3分の1を占めていたことに着目したからだ。
しかし、その頃、日本の都道府県(鳥取県や高知県)との人口比較の部分については、とくに読者からの反響はなく、気に留める人は多くなかったように思う。
当時のメモを見返してみても、読者からは「そうなのか……」といった程度の反応だけで、とくにその数字に対して注目されたり、驚かれたりした、という記憶はない。それよりも、同著内で紹介した、埼玉県川口市の「芝園団地」や、横浜市の中国人児童が多い公立小学校、在日中国人の教育熱心さ、高田馬場の中華料理(当時はガチ中華という言葉はなかった)などについて記述した部分の反響のほうが大きかった。
だが、6年後の今年9月に出版した本『日本のなかの中国』では、その様相が一変した。
6年間で変わった在日中国人に対する意識
本の帯にも、プロローグの冒頭にも、日本の都道府県別の人口との比較は一切書いていないのに、いくつかのメディアでその点について触れると、XなどのSNSで「やばい、在日中国人は佐賀県の人口を超えるほど増加したのか」「中国人の来日を今すぐ止めなければならない」「中国人があまりにも多すぎて脅威だ」「中国人の来日や移住を規制しろ」といったコメントが多数あることに気がついた。
また、日本の都道府県との人口比較だけでなく、「在日中国人」というワード自体、かなり危険分子的な存在として、一部の人々の間で非常に注目を集めていることを知った。
それらを見ていくと、23年、福島第一原発の処理水問題で、中国から日本に迷惑電話が掛かってきたことや、今年9月に中国・深圳の日本人学校で日本人男子児童が殺害された事件などと関連して、「中国人」全体に対する日本人の嫌悪感が増していることが、日本在住の中国人のイメージ悪化と関係しているのではないかと感じた。
さらに、近年、来日して日本の不動産を購入する富裕層が増えていることについても「外国人の不動産購入に政府が早く規制をかけなければ、日本中の不動産や資源(森林、水など)が彼らに買われてしまう」といった焦りや恐怖の気持ちを持つ人が増えていることも背景にあると思った。
芝園団地などのエリアを除き、在日中国人が、かつての横浜中華街のように、みな同じ地区にかたまって住んでいるわけではないが、都内に関していえば、高田馬場、小岩、豊洲、上野などに明らかに増えている。それだけでなく、日本社会のあちこちで、その存在感、経済的パワーが日々増している。
「佐賀県の人口を超えた」ことへの読者の敏感な反応は、多くの日本人がそうしたことを感じ取っていることの証拠ではないか、と感じている。