Yahoo!ニュース

敦賀気比、夏のリベンジ果たし初優勝

森本栄浩毎日放送アナウンサー
優勝の敦賀気比は、昨夏、大阪桐蔭に敗れた悔しさを胸に、苦しい練習に耐えての栄冠

1915年に夏の第1回選手権が始まってちょうど100年。節目の年にふさわしい敦賀気比(福井)と東海大四(北海道)いう、これまでにない「雪国」決勝となった。

気比の篠原主将は、センバツ史上4人目の「宣誓」「優勝」の栄誉を手にした
気比の篠原主将は、センバツ史上4人目の「宣誓」「優勝」の栄誉を手にした

不利と見られた東海が中盤以降、圧倒的に攻めたが、最後は気比の長打力に軍配。とは言え、準決勝でお互いに前年に苦杯を嘗めさせられた相手との決戦があった。両校ともその「リベンジ」を果たしていて、一定の達成感がある中での決勝だったが、それを感じさせない緊迫感があるいい試合だった。

気比、2回戦に勝って進撃

今大会の優勝争いを左右した試合は、やはり気比と仙台育英(宮城)の2回戦だった。センバツでは特に2回戦でのパフォーマンスが本来の実力に最も近い。ぶっつけ本番のように戦わなければならない1回戦は、波乱が起こったり大差がつくことがよくあるが、2回戦は選手のコンディションも落ちておらず、実力がそのまま発揮される。この試合は、気比の平沼翔太(3年)、仙台育英の佐藤世那(3年)が力を出し切った投手戦だった。

平沼は、「1、2回戦で投球数が少なかったのが大きい」と振り返る制球力を発揮した
平沼は、「1、2回戦で投球数が少なかったのが大きい」と振り返る制球力を発揮した

これくらいのレベルの投手だと、好機で失投をすることはまずない。気比は5回の初めての好機に3番・林中勇輝(2年)が、2点打を放った。東哲平監督(34)は、「唯一の失投を打てたのはチームとして収穫」と話したが、これは的を射ている。初戦で決め球のフォークを見切られていた佐藤世も、この日は気比打線を寄せつけていなかったからだ。9回に反撃されたが、リードが2点だったことで、平沼は勝負に徹して相手に1点を与えた。今大会、最もレベルの高い試合だったことは間違いない。

「打倒 大阪桐蔭」目指して

優勝争いを左右するというのは、この試合の勝者が優勝するという意味ではない。センバツはトーナメントが決まった段階で、どこでどのチームと当たるかが想定できる。今大会の本命校は大阪桐蔭だと多くの人が思っていただろう。大阪桐蔭は対戦校は別にして日程には恵まれ、気比と仙台育英の勝者と当たるのは準決勝になる。個人的には、いかなる組み合わせになっても、大阪桐蔭を倒せるのは気比しかない、と思っていた。その理由は、

・昨夏、非常に悔しい負けを喫していたこと 

・そのときの主戦が健在で、かなり力をつけていること 

・チームとして、攻守のバランスがいいこと を挙げていた。大阪桐蔭は分析力に優れ、初対戦のチームは力を発揮させてもらえない。1回戦で完敗した東海大菅生(東京)が好例で、何もさせてもらえなかった。仙台育英は強いチームだが、佐藤世のような決め球がはっきりしている投手と準決勝ぐらいで当たったら、きっちり対応したのではないか。

冷静に「宿敵」と対戦

11-0というスコアは驚くが、結果については驚かない。初回の松本哲幣(3年)の満塁弾が幸運だとしても、2回の下位打線の長打連発で試合は決したと言っていい。それくらい、平沼は成長していた。前夏も同様に満塁弾を浴びた大阪桐蔭は、すぐに反撃してムードでは気比を圧倒していたが、この日の初回の守りで、平沼は桐蔭打線を3人で片付けた。今度は平沼の投球が桐蔭を圧倒していた。点差が開いたのは偶然で、それは桐蔭エースの田中誠也(3年)から際どい球を選んで四球を得たことによる。ストライクゾーンについて云々しても仕方ないが、これは後攻チームが不利になる材料のひとつだ。平沼が先にマウンドに上がっていたら、初回に苦しんだ可能性はある。6回途中12失点で敗れた夏、「先輩に申し訳ない」と泣き崩れた平沼は、7ヶ月経って技術的にも精神的にも逞しくなった。それは試合前の言葉から感じとれた。「夏のことは夏のこと。リベンジとか特に意識せず、とにかく相手に勝つ」。周囲の期待を裏切る?コメントからは、全く気負いが感じられなかった。

東海大四もリベンジ果たして

決勝の相手、東海大四の快進撃には驚いた。こちらのゾーンは浦和学院(埼玉)が初戦の龍谷大平安(京都)を撃破したことで、ややリードと見られていたからだ。実際に、今大会ナンバーワンの県岐阜商・高橋純平(3年)を圧倒した試合などは圧巻だった。その浦学が東海と準決勝で当たった。

浦和学院を破った瞬間、東海大四の大澤は喜びを全身で表した。見事なリベンジだった
浦和学院を破った瞬間、東海大四の大澤は喜びを全身で表した。見事なリベンジだった

この両校は、秋の神宮で当たり、浦学がコールドで圧勝している。大会前のキャプテントークでも、東海の宮崎隼斗主将(3年)が、「試合前のノックもすごくて、やる前から圧倒されていました」と明かしていた。気比同様、東海にも「リベンジ」を果たしたい相手が現れたのだ。決勝点が失策によるもので、看板の守りが破綻した浦学の森士監督(50)は、「侮っていたのかも」と悔やんだが、そこまで浦学の出来が悪かったとは思わない。東海エースの大澤志意也(3年)が、「冬の間は、浦学に勝つことを目標にやってきました」と言い、大脇英徳監督(39)は、3点目のセーフティースクイズについて、「ずっとやってきたとっておきの作戦」と胸を張った。気持ちで勝ったと言ったら言い過ぎだろうか。それにしても神宮の試合が仇になるとは、浦学にとっては気の毒な話ではないか。前出の気比は、夏の甲子園の再戦だったからこれは何ら問題ないが、「神宮大会」とは、実に罪作りな公式戦だと思ってしまう。いずれにしても、達成感、雨という集中力を殺ぐ条件があったにもかかわらず、最後まで緊迫感のあるすばらしい決勝だった。雪のハンディに耐え、「地味な練習の成果」(気比・東監督)を形にした両校選手に拍手!

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

森本栄浩の最近の記事