米有力紙がK-POPに物申す? BTSジョングクを批評しファンから怒りの声
米音楽業界のポップミュージック部門で人気を不動のものにしたBTS。中でもメンバーの一人、ジョングク(JUNG KOOK)が先月3日、ソロデビューアルバム『ゴールデン』をリリースし、大きな話題となっている。
歌詞が全編英語の同作は米ビルボード・ホット100チャートにランクインを果たしている。ジョングクはアルバムのPRも兼ねて先月ニューヨークを訪れ、9日には中心地タイムズスクエアでアメリカのファンに向け野外ライブを行った。
- 11月9日、NYのタイムズスクエアで屋外ライブを行ったジョングク。
ジョングクの新作はSNSも賑わせている。多くのファンがYouTubeやTikTokなどで「Jungkook dance challenge」と称し彼のダンスを真似るショート動画をアップし、盛り上がっている様子が伝わってくる。
ポップミュージック界のメインストリームに上り詰めたBTSのメンバーのニューアルバムがリリースということで、この国の専門家が放っておくはずはない。さまざまなメディアがアメリカでのK-POP現象を特集しており、中でも最近ある大議論が沸き起こった。
NYTがジョングクの曲を酷評?
米有力紙ニューヨークタイムズの音声メディアが、ジョングクのアメリカでの快進撃と音楽性を取り上げたのだが、内容が彼の功績をそれほど賞賛するものではなかったのだ。
問題のエピソードは、12月1日付のポップキャスト*のJung Kook, BTS and English Language K-Pop(ジョングク、BTSそして英語のKポップ)というタイトルのものだ。導入文に「K-POPがアメリカ人に知られるまでの長い道のりと、受け入れ後の潜在的なリスクについての会話」とある通り、韓国のポップ音楽がアメリカ市場で認知されるに至った背景の解説と、アメリカでの成功後の批評(K-POPから"K-"がなくなること)について議論された。
- *Popcast:同紙のポップミュージック・チームが音声で音楽ニュースを伝えるコンテンツ
出演は司会進行のジョン・カラマニカ(Jon Caramanica)氏と、ゲストとしてアジアン・ポップスやアイドルカルチャーの批評家、Kara(キャラ)氏だ。キャラ氏のXのプロフィールには「アジアのポップカルチャーのアメリカ人ファン。アイドル専門家。日本語OK」とある。この批評によって受ける影響力を鑑み、ラストネームは匿名だった。
「K-POPは大きな市場を求め日本、そして米国へ」
ポップキャストの冒頭でキャラ氏はこのように説明した。
「韓国はとてもとても小さい国です。それで2000年代半ばごろ、大きな音楽市場である隣国・日本への進出が始まりました。そしてさらに次のステップとしてアメリカ市場が視野に入ってきたわけです」
PSY(サイ)の『江南スタイル』の世界的大ヒットから、RAIN(ピ)、Wonder Girls(ワンダーガールズ)の活躍を振り返る。ほかにもBIGBANG(ビッグバン)、2NE1(トゥエニィワン)、SHINee(シャイニー)、IVE(アイヴ)、LE SSERAFIM(ルセラフィム)などを輩出したK-POP史を解説。韓国のサブカルの祭典として外せない、ロサンゼルスやニューヨークで開催されるKCON(ケイコン)についても触れた。
それらの説明の後、K-POPの最高峰と言えるBTSの躍進について、キャラ氏はこのように説明する。
「YouTubeやインスタなどSNSの台頭に伴って2010年代半ば、彼らはアメリカのポップミュージック界のメインストリームに躍り出た」
「世界を視野に入れエネルギーをアメリカ市場に集中させたのは、2010年代後半から2020年代初頭にかけて」
「(アメリカに同様のボーイズグループの対抗馬がいない中)全米のK-POPファン層から、ワン・ダイレクションなどそれまでの一般的なボーイズグループ/ボーイバンドのファン層にターゲットを拡大させた」
これには、司会のカラマニカ氏も「自分にとってのブレイクポイントも『Butter』(21年)だった」と同意した。
しかし、2人の会話が進むにつれ、特にキャラ氏が何かモヤモヤしている様子が伝わってくる。いくつかのK-POPを賞賛する一方で、BTSの『Dynamite』『Butter』『Permission to Dance』、スティーブ・アオキとのコラボ『MIC Drop』が英語の歌詞(洋楽)であるとし、ジョングクのニューアルバム(全編英語)についても不満げだ。カラマニカ氏もこのアルバムについて「最初聴いた時、軽すぎてエッジ(特徴、魅力)がないと感じた。その後何回か繰り返し聴いてオッケー(まぁいいじゃん)と思った」と酷評。
西洋のポップスの影響を受けたジョングクの曲は洋楽寄りすぎて、K-POPのサウンドではないと言いたげだ。キャラ氏は批評を続ける。
「作詞家もプロデュース陣もすべてアメリカ人で、基本的に韓国人の顔を持ったアメリカのアルバムだと思う。ジャスティン・ティンバーレイク(の曲や世界観)にそっくり。ジャスティン・ティンバーレイクはすでにここにいるのだから、なぜジャスティン・ティンバーレイクと同じような韓国人アーティストが必要でしょうか? 私たちはここで『トロールズ・バンド・トゥギャザー』*を今すぐ観ることができます。それを観るためにわざわざソウルまで飛ぶ必要はありません」
- *Trolls Band Together:映画『トロールズ』シリーズの3作目で今年11月公開
ジョングクのアルバムについての批評は続く。「アメリカントップ40のようなサウンド。チャートインしているそれぞれの曲のサンプルみたいな感じ」「悪いとは思わない。何もおかしいことはない。いい曲もあるし、極めて持ちの良いメインストリームのアルバム」
K-POPの特徴がない洋楽になってしまったのは、所属事務所がパンデミックによる経済的な打撃からどうにかしようと金儲けに走った結果として、「アメリカの音楽だけど韓国人によるもの。K-POPの要素はまったく含まれていない」「自分が聴いて楽しめる感じの曲ではない」と断言した。
このポッドキャストの会話に激怒したのが、ARMYことBTSのファンだ。彼らはポップキャストが配信されるや否や、ニューヨークタイムズが差別を助長しているとして、SNS上で「ゼノフォビア(外国人排他主義者)」「アンチと元ARMYの会話」「心の狭い閉塞的な考え」と怒りを露わにした。さらにニューヨークタイムズにはエピソードの削除と謝罪を求める声が上がった。Xで上がった「#NewYorkTimes Racist」というハッシュタグは一時期トレンド入りした。あまりにも反響が大きくなり、キャラ氏は自身を批判するARMYをSNSでブロックしている。
このエピソードはカラマニカ氏による「私たちは大人であり、違った意見を言う権利がある。ご視聴ありがとう」という言葉で締めくくられている。批評はジャーナリズムの一部である。おそらく今後もファンの反発が理由でエピソードが削除されることはないだろう。
ARMYでない立場の筆者がこの騒動について知った時、客観的に思ったことがいくつかある。まずキャラ氏がゼノフォビアか否かはこの会話からは判別できないが、彼女が言わんとすることはわからないでもない。アメリカで大ヒットしているラテン系の曲にしても、やはりどこかしらラテンのスパイスが必ず含まれているもの。それにアジア系が映画なりアートなりそれぞれの世界に進出する際、何かしらの「アジアらしさ」を求められることはよくある。裏を返せば、この国でアメリカ人が真似できない特徴があるならば、それは武器になり「無敵の人」になりうる。
そしてジョングクに(ポジティブな思考で)一言申すとしたら「おめでとう」だ。K-POP、J-POP含むアジア発のアーティストの多くがアメリカ進出を果たしても淘汰される中、BTSはトップにまで躍り出た。だからこそニューヨークタイムズという主要メディアが取り上げ、批評しているのだ。名も知られていない人は議論の俎上にも載らない。つまりそれだけ「注目されている」ということ。このように批評されるのは、BTSがアメリカ、世界という大海原でいよいよそのようなトップアーティストの地位に上りつめた証だろう。
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(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止