米大手音楽レーベルが生成AIプロバイダーを提訴(想定内)
言うまでもなく最近の生成AIテクノロジの進化は目覚ましく、SunoやUdio等の音楽生成AIを使えば、簡単なプロンプト入力だけでそれらしい楽曲の音源がすぐに作れてしまいます。ヒットするかは別としてそのまま音源を販売してしまっても大丈夫そうなクオリティです。
コンピューターを使ったコンテンツ制作は生成AIテクノロジが一般化する前からありました。しかし、それらの場合では、人間がコンピューターを道具として使っているだけなので、仮に生成物が著作物と判断される場合であっても、その人間による著作物であると考えれば特に問題は生じなかったのですが、生成AIテクノロジの進化によりこの前提が崩れてしまっています。また、人間の創作活動では、過去の作品から学んで新たな作品をクリエイトしていくのは当然ですが、AIが世界中のあらゆる音源を学習して新たな作品を生成することを同じように考えて良いのかという問題もあります。
当然に予想されていたように、ソニー、ユニバーサル、ワーナー等の大手音楽レーベルが、SunoとUdioを著作権侵害で米マサチューセッツ州連邦地方裁判所(Suno)とニューヨーク南地区連邦地方裁判所に提訴しました(参照記事)。RIAA(米レコード協会)がプレスリリースを出しています。訴状もRIAAのサイトにアップされています(対Suno訴状、対Udio訴状)。
生成AIによる著作権侵害の考え方は、今後大きな変化があろうことは当然として、現時点では、日米共に、おおよそ以下のようになっていると思います。①公表された著作物を使って機械学習を行うというだけでは著作権侵害とは言えない、②学習済のモデルを使って生成された生成物が既存の著作物と類似する場合には著作権侵害になり得る。
今回の訴訟が重要な点は、具体例により、AI生成物と既存著作物の(表現としての)類似性が主張されている点です。訴状では、たとえば、"1950s rock and roll, rhythm & blues, 12 bar blues, rockabilly, energetic male vocalist, singer guitarist"というプロンプトと有名なチャック・ベリーの「ジョニー・ビー・グッド」の歌詞をSunoに入力することで元曲に類似した楽曲が生成されたことが証拠として示されています(タイトル画像参照)。
訴状では元曲とAI生成曲が楽譜により比較されていますが、メロディラインは譜割りレベルでよく似ており、単なる曲調や雰囲気レベルの類似を超えているように見えます(なお、歌詞が一致するのは元曲の歌詞をそのまま入力したからであって、それは著作権侵害とは関係ありません)。単に曲調や雰囲気が似ているだけで著作権侵害なら多くのロックンロールの楽曲は著作権侵害になってしまいそうですが、そのレベルを超えて似ていると思います。また、現時点ではSunoのサイトにまだ音源が残っていますので耳でも確認可能です。
レコード会社側は、差止めと1楽曲当たり最高15万ドル(約2400万円)の損害賠償を求めています。この訴訟がどのように展開していくかは読みにくいですが、単純にフェアユースだからOKという結果にはならないように思えます。プロンプトのフィルタリング(現在でも、アーティスト名をそのまま入力するとリジェクトされるようですが様々な回避ハックがあるようです)、既存曲と類似していたらフィルターする(YouTubeのコンテンツID的な)仕組み等で技術的に回避すればよいのか、生成AIのプロバイダーがレコード会社側にライセンス料金を払うようになるのか、検討すべきことは山ほどあります。今、私たちは、著作権とAIに関するものすごく長く重要な議論のまさにその始まりにいると思います。