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前線通過後も大気不安定 暑さ一服も東北から北陸は長引く秋雨前線による雨に警戒

饒村曜気象予報士
雨に濡れる傘のアップ(写真:イメージマート)

前線の通過

 寒冷前線が北日本を通過し、この寒冷前線に向かって下層では暖かく湿った空気が流れ込み、上空には寒気が流入しています(図1)。

図1 予想天気図(8月21日9時の予想)
図1 予想天気図(8月21日9時の予想)

 このため、東日本から西日本では、21日の昼前にかけて大気の状態が非常に不安定となる所があり、局地的に雷を伴った非常に激しい雨が降り、土砂災害や浸水害、洪水害の危険度が高まっている所があるでしょう。

 福井県坂井市付近では21日0時10分に約80ミリの記録的短時間大雨情報が発表になりました。

 いましばらく厳重な警戒が必要です。

 予想天気図を見ると、四国沖に上空の寒気に対応した小さな低気圧があります。

 また、小笠原の東海上と沖縄の南海上には低圧部(中心がはっきりしない気圧が低くなっている領域)があり、ともに低圧部の中から、熱帯低気圧が発生する見込みです。

 いずれにしても、寒冷前線通過後に移動性高気圧があらわれて晴天になるという単純なシナリオにはなりません。

 令和4年(2022年)の夏は、6月下旬から7月初めにかけて太平洋高気圧が非常に強まり、記録的な暑さになったものの、その後は、太平洋高気圧がみかけほど強まらず、時折寒気が南下したり、台風8号の北上を許したりしています。

真夏日と猛暑日の推移

 令和4年(2022年)は、西日本から東北南部まで梅雨明けした6月末から7月の初めは、強まった太平洋高気圧の縁辺をまわるように暖かくて湿った空気が流入し、晴れて強い日射によって記録的な暑さが続きました。

 夏日(最高気温が25度以上の日)、真夏日(最高気温が30度以上の日)、猛暑日(最高気温が35度以上の日)を観測した地点数が急増しています。

群馬県の伊勢崎では、6月25日に最高気温が40.2度、6月29日に最高気温が40.0度となり、観測史上初めて6月に40.0度を超しました。

 令和4年(2022年)の最初の暑さの波です(図2)。

図2 全国の夏日と真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(令和4年(2022年)6月~8月)
図2 全国の夏日と真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(令和4年(2022年)6月~8月)

 しかし、7月に入ると下層に暖湿気が流入し、大気が非常に不安定な状態が続きました。

 ときおり、上空に強い寒気が南下し、局地的に猛烈な雨が降り、「記録的短時間大雨情報」が頻繁に発表となっています。

 7月上旬から中旬の暑さの2波では、真夏日の観測地点が全国の過半数を超えましたが、猛暑日はほとんど観測されていません。

 そして、九州から東北南部は梅雨のような天気(戻り梅雨)となりましたので、夏日と真夏日、猛暑日の観測地点数は減っています。

 東北北部が「梅雨明け」をし、九州から東北南部が「戻り梅雨明け」をした、7月29日以降、夏日と真夏日、猛暑日の観測が増え、暑さの3波となっています。

 7月31日には夏日と真夏日の観測地点数が今年最多となりました。

 しかし、40度以上という記録的な暑さは観測されず、猛暑日の観測地点数も7月1日を超えませんでした。

 それだけ、6月末から7月最初の猛暑が異常だったのです。

 朝鮮半島で熱帯低気圧に変わった台風8号が持ち込んだ多量の水蒸気が流入した8月3日~4日の東北地方日本海側から北陸地方では、線状降水帯が発生し大雨となっています。

 8月3日19時15分に、山形県置賜地方の6つの市と町(長井市、南陽市、川西町、飯豊町、米沢市、高畠町)に「大雨特別警報(浸水害)」が発表され、その後、大雨特別警報(土砂災害・浸水害)に更新となっています。

 また、8月4日1時56分には新潟県でも岩船地域の、村上市と関川村に対して大雨特別警報(土砂災害・浸水害)が発表となっています。

 この時の大雨によって、夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数が大きく減りましたが、その後、暑さが戻り、4波となっています。

 しかし、季節が秋に向かって進んでいることもあり、3波のような暑さにはなっていません。

東京の暑さ

 東京では、令和4年(2022年)の最高気温が35度以上の猛暑日が、8月3日で13回目と、明治8年(1875年)の統計開始以来の最多記録である平成7年(1995年)と平成22年(2010年)に並びました。

 そして、8月9日の最高気温35.7度で14回目と新記録になり、歴代最多日数を更新し、8月10日の35.3度で15回目、8月16日の36.4度で16回目と、更なる記録更新をしています(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温の推移(8月21~27日は気象庁、8月28日~9月5日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温の推移(8月21~27日は気象庁、8月28日~9月5日はウェザーマップの予報)

 ウェザーマップの16日先までの天気予報を見ると、傘マーク(雨)や黒雲マーク(雨の可能性が高い曇り)日が続いており、お日様マーク(晴れ)や白雲マーク(雨の可能性がほとんどない曇り)はほとんどありません(図4)。

図4 東京の16日先までの天気予報
図4 東京の16日先までの天気予報

 降水の有無の信頼度が5段階で一番低いEや、二番目に低いDの予報がほとんどですが、曇雨天の天気が続いて9月を迎えそうです。

 また、東北や北陸地方では、東京より傘マーク(雨)が多い見込みです。

 仙台では8月21日の日曜日は晴れますが、週開け以降は15日連続で傘マークです(図5)。

図5 仙台の16日先までの天気予報
図5 仙台の16日先までの天気予報

 しかも、降水の有無の信頼度が5段階で一番高いAや二番目に高いBを多く含む16日先までの天気予報です。

 秋雨前線が東北から北陸地方に停滞したまま9月を迎えそうです。

 これまで大雨が降り続いた東北地方から北陸地方は、長引く秋雨前線による雨に対し、厳重な警戒が必要です。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに著者作成。

図3の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに著者作成。

図4、図5の出典:ウェザーマップ提供資料。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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