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『ワクチン接種率が高まっているのに新型コロナによる感染者数や死亡者数が増えている』のはなぜ?

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:イメージマート)

新型コロナ オミクロン株の大きな流行により、感染者数・死亡者数ともに過去最多となっています。

そして連日、東京消防庁からは救急車の出動率が95%を超えていると発信され、さらに各地から救急搬送困難例が増えるという状況に陥っています。

『ワクチンの接種率が高いのに、なぜ』

『オミクロン株は軽症なのでは』

という質問を受けることも増えました。

そこで今回は、段階を追って解説いたします。

感染の広がりやすさに関し、インフルエンザを例に考えてみましょう

最初に、インフルエンザを例に挙げてみましょう。

インフルエンザは流行しやすい感染症であることは、皆さんご存知かと思います。

インフルエンザは、インフルエンザウイルスが体に入ってきて感染が成立した後、1.4日の潜伏期間を経て症状がでてきます(人によって差があります)[1]。

そして、感染しやすい方(感受性が高いといいます)1.3人に感染を成立させることがわかっています(研究により数字に差はあります)[2]。

イラストACより筆者作成
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すなわち、1.4日ごとに1.3倍になっていき、すごい勢いで流行が広がります。

イラストACより筆者作成
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例えるならば、100万円を借りて1.4日ごとに1.3倍に膨れ上がり、2週間で1400万円になるような…そんな感じといえばよいでしょうか。

イラストACから筆者作成
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ですので、インフルエンザはこれまで毎年のように流行していたのですね。

インフルエンザより流行が広がりやすい感染症がある

しかし、もっと流行しやすい感染症はたくさんあります。

その一つが『麻疹(はしか)』です。

麻疹は10日の潜伏期間を経て、麻疹ウイルスへの免疫がないひとへ10人以上に感染を成立させます。

イラストACから筆者作成
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インフルエンザよりも、とても感染しやすいといえます。

しかし、我々は麻疹に対して、そこまで心配はしていませんよね。

それは、麻疹ワクチンがあるからです。

麻疹ワクチンは有効性が高く、2回接種で感染をほぼ予防でき、95%以上のワクチン接種率を維持すると流行を防ぐことができます[3]。

イラストACから筆者作成
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なお麻疹は、予防接種率95%を下回ると感染が広がる可能性が高まり、現在、95%を割り込んできているため、再度流行する可能性があります[4]。

新型コロナは変異を繰り返し、現在流行しているオミクロン株に置き換わっている

麻疹ウイルスは、そのウイルスの性質は変化していきません

ですので、有効性の高いワクチンにより、感染の拡大を防ぐことができていました。

しかし、新型コロナはそうではありません。

たしかに当初、効果が高いワクチンが登場することで、感染は収束することが期待されました[5]。

新型コロナの従来株、すなわち最初に流行した株は、潜伏期間が6日ほどで、感染しやすい方への感染の成立は1.4-3人程度と見積もられていました(研究により数値に差があります)[6]。

文献6を元に、イラストACの素材を使用して筆者作成
文献6を元に、イラストACの素材を使用して筆者作成

しかし、皆さんの御存知の通り、新型コロナウイルスの変異により、状況は変わっていきました。

従来株やデルタ株と、オミクロン株の違い

そのうちのひとつ、デルタ株は記憶に新しいでしょう。

デルタ株は、潜伏期間が3日に短縮され、感染しやすい人への感染の広がりやすさは5人に増えました。

そして、現在問題となっているオミクロン株です。

オミクロン株は、潜伏期間がさらに2日に短くなり、感染しやすい人への感染の広がりやすさが8人となりました[2]。

イラストACの素材から筆者作成
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インフルエンザなどと比べても、感染の広がりやすさはとても高いといえます。

すなわち、オミクロン株の問題は、

潜伏期間が短く

感染力や広がりやすさが高い

ということです。

そしてさらに問題があります。

『予防接種や新型コロナに罹ることで得た免疫から逃げる能力』、免疫逃避の能力が高まったことです。

オミクロン株は、デルタ株に比較してワクチンの効果が見劣りする

たとえば、ワクチンを2回接種することによる『症状のある感染を予防する効果』は、デルタ株に対して大きく下がり、半年も経過すると感染予防効果はほとんどなくなってしまいます(意味がないというわけではないことは後でお話します)[7]。

なお、3回接種すると、もう少し効果が上がりますが、それでも感染を予防する効果はかなり見劣りします。

オミクロン株は、予防接種や罹ることで得た免疫から逃げる能力が強いということです。

感染はしやすくなったとしても、ワクチンの重症化を予防する効果は残っている

ただし、とても重要な点があります。

重症化予防効果はデルタ株のときよりも下がるものの、ある程度長期間残ることがわかっているのです。2回接種でもある程度期待でき、さらに3回接種をすると効果はさらに上がるようです[7][8]。

しかし、完全ではありません。

流行自体は十分抑えることも、死亡率をゼロに近づけることは難しいのです。

オミクロン株自体は、必ずしも軽症化していない

現在、重症化をする『率』は大きく下がっており、これはワクチン接種による効果と言えるでしょう。

しかし、オミクロン株そのものが軽症化したとは必ずしもいえません

もしかすると、皆さんの『従来株』『デルタ株』『オミクロン株』の重症度の差はこんな感じではないでしょうか

イラストACから筆者作成
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しかし、ワクチンを接種していない方にとっては、オミクロン株は、デルタ株よりも軽症ではあるものの、従来株と重症度はかわらないという研究結果もあります[9][10]。

すなわち、ワクチン未接種のひとにとっては、以前と変わらない(治療がある程度改善されたとは言え)相手です。

皆さんの予防接種率があがってきたことはすばらしいことです。

しかし、3回接種7割弱、2回接種8割、です[11]。

イラストACより筆者作成
イラストACより筆者作成

ワクチンを接種していても、割合が低くともやはり一定の方が重症化しますし、亡くなる可能性もあります。

ワクチン未接種ならなおさら…です

イラストACより筆者作成
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すなわち、

潜伏期間が短く、

感染力や広がりやすさが高く、

免疫から逃げる性質が強まった

オミクロン株の性質により、全体的な患者数や重症化されたり亡くなったりする人数が、残念ながら増えるという結果になっています。

イラストACより筆者作成
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最近はじまったオミクロン株対応ワクチンの発症予防効果は有効性が高まっているという日本からの報告があります[8]。接種をした方はよりリスクが下がり、接種をしていない方は風邪だと思っていたら重症化した…というリスクが高まっています。

もちろん、接種をしないという選択をされる方もいらっしゃるでしょう。それはそれで尊重すべきかもしれません。

しかし、悪化したときに後悔される方も少なくありません。

知らないことで、後悔してほしくないのです。

今後、厳しい状況が続くことが予想されます。

この記事が、なにかのお役に立つことを願っています。

※この記事に加え、倉原優先生の記事も御参考いただければと思います[12]。

【参考文献】

[1]Lancet Infect Dis 2009; 9:291-300.

[2]BMC Infect Dis 2014; 14:480.

[3]Journal of the Royal Society Interface 2010; 7:1537-44.

[4]世界で麻疹(はしか)の患者が急増。日本でも大きな流行になるリスクが高まっています

[5]New England Journal of Medicine 2020; 384:403-16.

[6]Rev Med Virol 2020; 30:e2111.

[7] JAMA Network Open 2022; 5:e2232760-e.

[8]新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第五報):オミクロン対応 2 価ワクチンの有効性 2022 年 12 月 13 日(2022年12月30日アクセス)

[9] Impact of SARS-CoV-2 variants on inpatient clinical outcome. Clinical Infectious Diseases 2022. https://doi.org/10.1093/cid/ciac957

[10]SARS-CoV-2 Omicron Variant is as Deadly as Previous Waves After Adjusting for Vaccinations, Demographics, and Comorbidities (preprint). 2022.(2023年1月8日アクセス)

[11]チャートで見る日本の接種状況 コロナワクチン(日本経済新聞)(2023年1月8日アクセス)

[12]軽症が多いはずのオミクロン株で、新型コロナ死亡者数が過去最多 理由は?

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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