国内へ、海外へ 空前の旅行ブームに沸く中国人
「爆買い」「爆花見」に続き、ゴールデンウィークも、夏休みも・・・と勢いが止まらないほど、中国人の日本旅行ブームが続いている。例年、7月が中国人の旅行のピークとされるので、この流れはまだしばらくは続きそうだ。
今年2月、中国の日本大使館・領事館などで発給された日本観光ビザが、約33万4000件に上り、過去最高を記録した、というニュースが流れたばかりだが、今や平日の昼間でも、日本全国どこででも、中国人観光客の姿を見ない日はなくなった。
彼らの目的の多くはズバリ、日本でのショッピングだ。とくに医薬品や家電製品などに人気がある。拙著『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中公新書ラクレ)の中で具体的な商品名や、彼らを消費行動の背景を紹介しているが、中でも日用品や食品を買って帰る中国人が非常に多いのが特徴だ。
まだ日本に来られない友人や同僚、親戚などに頼まれて「買い物疲れ」でクタクタになる中国人も多い。日本にいても、中国のSNSは通じるので、それを介して、さまざまな「買い物リスト」が次々と送られてくるのだという。安心、安全が確保できない中国で暮らす中国人にとって、日本製品信仰は、日本人が想像する以上に大きいのだ。
その点については、こちらの記事や、こちらの記事で、詳しく紹介した。
また、最近では、ただ買い物をするだけではなく、別の楽しみ方をする人も増えてきた。先日も愛知県豊橋市に出張した友人が、何の変哲もないビジネスホテルで「宿泊している中国人観光客を大勢いた。大浴場に行ったら、日本人は自分ひとりだけでびっくりした」と話していた。ゴールデンルートの途中で愛知県を通過するらしく、銀座や浅草だけでなく、愛知でご当地グルメの「ひつまぶし」や「海老フライ」などを堪能しているのだとか。岐阜県の古民家を活用した民宿のご主人からも「中国人の観光客がネットで探して、わざわざやってくるんです」という話を聞いた。
それほどまでに、中国人の間では今、日本旅行が大ブームとなっているのだ。
日本だけではない。中国人は世界各地に出没しており、私の友人からも「ツアーでイタリアに行ったとき、レストランに入ったら、中国人観光客の団体が入ってきて、自分たちを取り囲むように座った」や、「イギリス行きの飛行機に乗ってトイレに立ったとき、ファーストクラスの座席は全部中国人の高校生でびっくり仰天した」などという話も聞いた。
中国人の海外旅行は日本を始め、韓国、台湾、香港、タイなど比較的距離が近いアジアが人気だが、フランスやイタリア、イギリスなどヨーロッパも人気だ。ヨーロッパのB&B(ベッド&ブレックファスト)なども中国人で満杯になっているという。
そうした旅行ブームを反映してか、北京や上海などの大都市にある大型書店では、旅行本が大流行りだ。どの書店でも、たいてい1階は旅行本、料理本、地図、ベストセラーなどが置かれているのだが、最近はとくに旅行本の売り場スペースが拡大している。国内旅行は各省ごとに1冊にまとめられていて、日本のようにさまざまな出版社が発行しているし、海外も国別になっている。
日本についての旅行ガイドも多いが、単に名所旧跡が載っているのではなく、「ショッピング」専門のガイドブックや、地下鉄などの路線を駆使する旅行ガイドなども出版されている。
テレビでも旅行番組が花盛りだ。私が上海のホテルのテレビで見た番組は、中国の中でもメジャーではない観光地を、レポーターが実際に旅しながら案内するというもので、民家で家庭料理を味わったり、地元のお祭りを紹介する内容だった。
中国では定年が早く、女性は50歳前後、男性は55歳前後から「隠居」の身となる。彼らは貧しかった頃の中国で育っているので、「田舎での生活が懐かしい。田舎で農業体験や、野菜中心の素朴な食事を出してくれる民宿などに泊ってみたい」といって、都市から郊外の農村に行く1泊2日のバスツアーなども人気があるという。
国内へ、海外へ、中国人の海外旅行ブームはとどまるところを知らない。