能登半島地震からいま、輪島塗はニューヨークへ渡る。
8bitNewsでは年初の能登半島地震発災以来、一人の社長と共に発信を続けてきた。
石川県輪島市で輪島漆器店「岡垣漆器店」を営む岡垣祐吾さんだ。
一月に発生した能登半島地震により、自らの家も店舗も被災した。
岡垣さんは一月の地震直後、二月にニューヨークで開かれた見本市へ出展した。
「きっかけは妻の一言でした。元々ニューヨーク出展の話が決まっていたのですが、一月の地震で先のことを考える余裕がなくなった。けれどある日、妻に、ニューヨークへは行くんでしょ、と言われて行っていいんだと思えました。」
「もう一つは職人さん達の後押しです。こんな時だけどニューヨークへ行こうと思うんです、と言ったら行ってきて、と背中を押してもらえました。」
岡垣さんは10月に再度の渡米を計画していた。
能登半島豪雨があったのはその直前のことだった。それでも岡垣さんは2度目のニューヨーク展覧会へ向かった。
輪島からニューヨークへ向かった人物がもう一人。
輪島塗職人の鬼平慶司さんだ。
今回の展覧会のメインビジュアルにもなっている作品は、鬼平さんがカナダのオーロラを輪島塗のデザインへ落とし込んだものだ。
蓋を開けると湖にオーロラが映る様子が描かれ、更にその内側には月があしらわれている。
単に美しい風景のデザインではなく、そこへ職人が見出した物語性も醍醐味の一つだ。
展覧会準備にはアメリカ人デザイナーの姿もあった。メリッサ・バウアーさんだ。
メリッサさんは一月の地震を受け、展覧会への協力をアメリカから申し出た。
会場には輪島の職人とメリッサさんのコラボ作品の試作も展示。
メリッサさんがデザインしたのは通常よりもとても大きいサイズのお盆だった。
メリッサさんとのコラボは職人にとって新たな挑戦だった。
会場で能登半島豪雨の一報を受けたメリッサさんは語る。
「希望です。まさに、希望。これから始まるんです。今こそ、新しいことにチャレンジする時なのだと思います。」
多くの人に支えられた展覧会には大勢のニューヨーク市民が訪れ、大盛況のうちに幕を閉じた。
展覧会の他、岡垣さんはニューヨークのある場所へ向かった。
ニューヨークで営業している鮨店「すし匠」だ。店主の中澤圭二さんは、東京で鮨を握った後ハワイへ出店。現在はニューヨークへアメリカ2号店を開店したばかりだ。
ドアを開け店内へ入ると、そこは日本そのもの。
ニューヨークの雑然とした通りから空気が全く異なる静かな装いがそこにはあった。
中澤さんは語る。
「昨年一年間、日本で備前焼、藍染など様々な職人の元を訪ね歩きました。しかしどの職人も継承者がいないという。日本人が日本の文化を見つめないと。日本人よりアメリカ人の方が詳しい、なんていうことになってしまいます。」
「今こそ、輪島塗を始めとした“本物”の職人が持つ価値とは何かについて考えなくてはいけません。きっぷ切りの職人は淘汰されました。偽物の切符を見抜く技術がちゃんとあったにも関わらずです。既に鮨は機械で正確に握る技術ができています。“偽物”が“本物”に追いつこうとしているんです。我々は切り抜けなくてはいけません。」
能登半島を取り巻く文化の維持と再生は、日本全国に問いを投げかける。
これからの日本は、何を残し、何を創り出していくのか。
私たちが何に価値を認めたいと願うのかが、今問われている。
取材協力:大西ギャラリー