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EUと北朝鮮が急接近。両者の経済関係はどうなっているのか。今までの推移は。

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
今年3月にブリュッセルを訪れた韓国の康京和外相とEUのモゲリーニ上級代表(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

EUと北朝鮮の接近

北朝鮮がEU(欧州連合)との対話を進めようとしている。

報道によると、会談は北朝鮮から要請があったもの。

北朝鮮外務省欧州2局のキム・ソンギョン局長が4月初めにもブリュッセルを訪れ、欧州委員会や欧州対外活動庁の高官と会談する方向で調整しているという。

これに先立って、韓国の外務大臣康京和(カン・ギョンファ)氏は3月19日、ブリュッセルのEU外相会議に非公式に参加して、北朝鮮情勢について協議している。韓国外相がEU外相会議に参加するのは初めてだった。

EU側は、2015年のイラン核合意につなげた交渉を支援した経験を生かし、北朝鮮との交渉の促進や支援に向けた要請があれば仲介に乗り出す構えだという。

4月27日には、南北朝鮮の首脳会談が予定されている。

参照 毎日新聞の記事:EU南北仲介に意欲 韓国外相訪欧 北朝鮮の非核化へ

北朝鮮とEUの経済関係

北朝鮮とEUの経済関係はどうなっているのだろうか。

欧州委員会の発表の2016年の調査を見てみよう。

EUにとって北朝鮮は、輸入額から見ると181番目の国、輸出額から見ると184番目にすぎない。率直にいって、EUが北朝鮮によって経済で影響を受けることはほとんどなさそうである。

逆に、北朝鮮にとってEUは、輸入額から見ると7番目、輸出額から見ると18番目である。制裁で輸出入が大幅に減ってこの順位なので、北朝鮮にとってEUとの関係が冷え込むのは、経済に一定の影響を与えているようだ。

それでは、一体何を輸出入しているのだろうか。

これも欧州委員会の統計資料(HS)によると。

◎EUが北朝鮮から輸入

1、化学または関連産業の製品(39.9%)

2、卑金属及びその製品(20.0%)

3、機械及び電気器具(13.1%)

4、真珠、貴金属及びその製品(7.2%)

5、テキスタイルおよび繊維製品(6.2%)

◎EUが北朝鮮へ輸出

1、化学または関連産業の製品(24.2%)

2、機械及び電気器具(16.7%)

3、食料品、飲料、タバコ(12.7%)

4、木材、紙、板紙のパルプ(10.1%)

5、その他(9.9%)

となっている。

北朝鮮の主要輸出品目は資源やテキスタイルなどである。資源の貿易は制裁で止まったとしても、約4割を占める1位の「化学または関連産業の製品」とは一体何なのだろう。

8年前のたった6.3%

全体の貿易額や、今までの推移はどうなっているのか。

聯合ニュースのフランス語版が発表していたので、以下に引用する。

EUと北朝鮮の貿易額は、ユーロスタットによると、昨年の2017年は1773万ユーロで、前年2016年よりも26.7%落ち込んだ。これは、北朝鮮の核・ミサイル実験に対する経済制裁を、EUが強化したためだ。

EUから北朝鮮への輸出は1264万ユーロで、前年の1859万ユーロから32%減少した。

北朝鮮からEUへの輸出は、9.3%減の509万ユーロだった。

昨年のEU・北朝鮮貿易総額は、2006年に2億8431万ユーロだったのに比べると、6.3%に過ぎない。2006年とは、北朝鮮が10月に初めて核実験を行い、EUが制裁を発動した年だ。

国別ではどうか。

EU加盟国の中では、北朝鮮に対する最大の輸出国はドイツで386万ユーロ、次はデンマークで196万ユーロ、3位はフランスで177万ユーロであった。

北朝鮮からの輸入が最も多い国はオランダで256万ユーロ、次いでオーストリアの82万4000ユーロ、スペインの45万8000ユーロとなっている。

北朝鮮、日本、EU、今後の展望は

上記のことを総合的に見ると、EU側にとって北朝鮮は、経済のパートナーとしては特に重要ではない。やはり核問題をめぐって、アメリカ・中国・ロシアに対して、外交的強さを確保するのが一番の目的になるものと思われる。

反対に北朝鮮は、もしEUとの貿易を、初めての核実験の前の2006年程度に回復させることができれば、上位の主要な相手になる可能性はある。もちろん、輸出入ともに群を抜いた相手国である1位の中国には遠く及ばないだろうが。そのため、経済問題の話し合いも重視したいところに違いない。

日本はこの中で、どういう位置づけなのだろう。

日本の立場は、他の国々とは絶対的に違う。なぜなら北朝鮮は日本領土の上空にミサイルを飛ばしたからだ。

もはや経済がどうとか言っている次元ではない。北朝鮮の行為は、すでに「挑発」の域を超えている。人間の歴史をひもとけば、この状況は、これが原因で戦争が始まってもおかしくないような事態である。しかもどの国も100パーセント北朝鮮に非があると認めるような内容だと思う。

今まで日本は「断固とした強い態度で」を繰り返してきた。今後外交技術的にも貫くべきである。アメリカやEU、中国、ロシアが動いたからといって、日本からすり寄って「うちと対話しませんか」などとやったら、なめられて、今後どうなるかわかったものではない。

そして水面下で動いて、EUやアメリカ、あるいは中国、ロシアや韓国が「強硬な姿勢だったが、日本をなんとかなだめて交渉の席につかせた」という形をとることにすればいい。必ずのってくる国・地域は現れる。というか、向こうからやってくるだろう。それほど日本は地政学的にも経済的にも重要な大国であることを忘れてはならない。

そうすれば「日本はこのような野蛮な行為を決して許さない国である」ことを国際社会で示すこともできるし、日本の体面は保てる。その上、日本はなだめ役に「あなたを選んで外交アドバンテージを与えましたよ」と恩を売ることもできて、その国・地域とは緊密な関係が深まる。

そして何よりも断固たる毅然とした態度こそが結局、北朝鮮を抑止することになり、平和にもつながるのだ。

自国の領土の上空を他国がミサイルを飛ばしたなどという大事件に正しく対処できないと、100年後の歴史で「これが日本の悲惨の第一歩だった」と描かれることになってもおかしくない。

日本外交が強い毅然とした態度と、国益と、平和の保持にかなうやり方をすることを期待している。

日本をとりまく状況は、ますます厳しくなっている。

我が国は、朝鮮半島・中国・アメリカ・ロシア・EUといった世界の錚々たるメンバーを相手に、安全保障のために外交交渉をしていかなければならないのだ。しかも、上記のうち4つは日本の隣国である。

平和と繁栄を享受し続けたいのなら、日本は外交大国にならなくてはいけない。

筆者は、日本の教育指針では「外交大国になること」を第一の目標と掲げ、プログラムを見直すことを心から提案したい。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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