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羽なし蛾「ホルスタイン」の魅惑的姿態に興奮する真冬の虫好きたち

天野和利時事通信社・昆虫記者
真冬に羽化するチャバネフユエダシャクの雌はホルスタイン柄の羽なし蛾

 そろそろフユシャクの本格的季節。と言っても、虫好き以外には一体何のことやら、という感じだ。冬になると、野山で目に付く虫の数は、ぐっと減る。そうなると「もうどんなに地味で目立たないやつでもいい。何でもいいから虫に会いたい」という切実な願いが芽生えてくる。

 そんな時に、天からの恵みのように突然現れるのが、真冬に羽化するという超変わり者の蛾「フユシャク」の一群だ。虫好きの中には、このフユシャクのファンが結構多い。死ぬほど腹が減れば、どんな貧しい食事でもご馳走になるのと同じだ。虫に飢えた真冬の虫好きにとって、フユシャクはご馳走なのである。

 しかも、このフユシャクの雌はただ者ではない。雄は冬に出てくるという以外には、あまり取り柄のない普通の姿だが、雌は羽が退化していて、とても蛾とは思えない奇異な姿なのだ。そんなフユシャクの雌の中でも特に大型で、乳牛ホルスタインか、101匹ワンチャンのダルメシアンのような目立つ柄の逸品が「チャバネフユエダシャク」だ。虫好きの間では「ホルスタイン」の通称だけで、話が通じるほどの有名人(有名虫)である。

ホルスタインこと、チャバネフユエダシャクの雌は時々、こんな目立つ場所にいたりする
ホルスタインこと、チャバネフユエダシャクの雌は時々、こんな目立つ場所にいたりする

ここにもいたチャバネフユエダシャクの雌
ここにもいたチャバネフユエダシャクの雌

大写しにしてみるとこんな感じ。まさにホルスタインかダルメシアン。とても蛾とは思えない。
大写しにしてみるとこんな感じ。まさにホルスタインかダルメシアン。とても蛾とは思えない。

 このホルスタインが見られれば、その冬の虫撮りは「すでに勝ったも同然」とまで言い切る者もいる。そういう人(昆虫記者を含む)は、一般人から見れば「アホ」であり、「変人」であり、たぐいまれな「幸せ者」である。

チャバネフユエダシャクの雄は、こんな普通の蛾
チャバネフユエダシャクの雄は、こんな普通の蛾

4月ごろによく見かけるチャバネフユエダシャクの幼虫は、なかなかの美人
4月ごろによく見かけるチャバネフユエダシャクの幼虫は、なかなかの美人

尺取り虫なので、ちゃんと尺を取って歩く
尺取り虫なので、ちゃんと尺を取って歩く

 「この冬も昆虫界のホルスタインに会えるだろうか」。そんな期待を抱きながら歩けば、寒風吹きすさぶ冬の森も、ワクワクする宝探しの場のように思えてくる。しかし、ホルスタインどころか、他のフユシャクさえ影も形もなかったりした冬の日の徒労感は、どんな慰めの言葉でも癒やせないほど大きい。

何の収獲もなかった徒労感いっぱいの1日…と思ったのその時
何の収獲もなかった徒労感いっぱいの1日…と思ったのその時

オオ、神は見放さず。東屋の柱に張り付いていたチャバネフユエダシャクの雌。ホルスタイン柄を目にすると、一気に疲れが吹き飛ぶ。
オオ、神は見放さず。東屋の柱に張り付いていたチャバネフユエダシャクの雌。ホルスタイン柄を目にすると、一気に疲れが吹き飛ぶ。

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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