羽なし蛾「ホルスタイン」の魅惑的姿態に興奮する真冬の虫好きたち
そろそろフユシャクの本格的季節。と言っても、虫好き以外には一体何のことやら、という感じだ。冬になると、野山で目に付く虫の数は、ぐっと減る。そうなると「もうどんなに地味で目立たないやつでもいい。何でもいいから虫に会いたい」という切実な願いが芽生えてくる。
そんな時に、天からの恵みのように突然現れるのが、真冬に羽化するという超変わり者の蛾「フユシャク」の一群だ。虫好きの中には、このフユシャクのファンが結構多い。死ぬほど腹が減れば、どんな貧しい食事でもご馳走になるのと同じだ。虫に飢えた真冬の虫好きにとって、フユシャクはご馳走なのである。
しかも、このフユシャクの雌はただ者ではない。雄は冬に出てくるという以外には、あまり取り柄のない普通の姿だが、雌は羽が退化していて、とても蛾とは思えない奇異な姿なのだ。そんなフユシャクの雌の中でも特に大型で、乳牛ホルスタインか、101匹ワンチャンのダルメシアンのような目立つ柄の逸品が「チャバネフユエダシャク」だ。虫好きの間では「ホルスタイン」の通称だけで、話が通じるほどの有名人(有名虫)である。
このホルスタインが見られれば、その冬の虫撮りは「すでに勝ったも同然」とまで言い切る者もいる。そういう人(昆虫記者を含む)は、一般人から見れば「アホ」であり、「変人」であり、たぐいまれな「幸せ者」である。
「この冬も昆虫界のホルスタインに会えるだろうか」。そんな期待を抱きながら歩けば、寒風吹きすさぶ冬の森も、ワクワクする宝探しの場のように思えてくる。しかし、ホルスタインどころか、他のフユシャクさえ影も形もなかったりした冬の日の徒労感は、どんな慰めの言葉でも癒やせないほど大きい。