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東京オリパラ「延期」について思うこと

萩原智子シドニー五輪競泳日本代表
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 東京オリンピック・パラリンピックが、中止ではなく、延期と決定したことは、一人のアスリートとして、希望が繋がったと受け止めている。ただ今後は、調整しなければならないことが山積しており、関係者の負担は計り知れない。

 今回は、アスリートの「メンタル面」と「フィジカル面」に焦点を当て、延期について考えてみる。

 4年に1度の舞台を夢見て、準備をしてきたアスリートたち。指導者も含め、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大が終息の気配を見せない中、「大会延期」について、ある程度、予測をしていたように感じる。現場は冷静に受け止めている印象だ。現場のアスリートや指導者は、現状について「なるようにしかならないから、今できることを全力でやる。」「オリンピックを目指せることも幸せだけど、元気に生きられることはもっと幸せだと思う。」「粛々と淡々と準備をしてます。」と前向きに話をしてくれた。しかし一方で、「不安だが、決定に従うのみ。」「延期になった場合の選手選考基準はどうなるのか?」など不安を口にするアスリートがいるのも確かだ。

 延期を前向きに捉え、前に進もうとするアスリートもいれば、そうではないアスリートも存在する。前者において言えば、例えば、メディアが前向きなアスリートを紹介することは、スポーツそもののの意義として大切なことだと思うし、ファンや子供たちにとっても希望の光となっていることは間違いない。一方で、後者はどうだろうか。ネガティブな想いを口にできない環境になってはいないだろうか。アスリートも人間だ。不安や不満、目標をどこへ持って行ったらいいのか?どこへぶつけたらいいのか?と心が乱れているアスリートもいるに違いない。

 今後、アスリートや指導者を含め、東京オリンピック・パラリンピックに関わる人たちのメンタルケアは重要になってくると感じている。既に国立スポーツ科学センターのスポーツメディカルセンターは動き出し、東京2020オリンピック・パラリンピック出場候補選手を対象に、必要に応じて、心理サポート等を行っていく予定だという。

 メンタル面も心配だが、フィジカル面でも注意しなければならないだろう。アスリートたちは、4年に1度の舞台を目指し、年単位、月単位、週単位に分けて計画を立て、強化を進めている。本番でベストパフォーマンスをするために、ギリギリまで追い込んでいる状況でもある。延期になったことで、強化する時間が増えるというメリットもあるが、一歩間違えばオーバートレーニングとなり、故障や怪我のリスクが高くなることも忘れてはいけない。

 現在は、自身と向き合い、十分注意しながらトレーニングを進められるアスリートも多くなっている。同時に、高い知識を持った指導者やトレーナーの存在も心強い。一生懸命になるアスリートに、休む勇気を伝えてくれるだろう。

 現場のある指導者が話してくれた「水泳ができることの価値をもう一度、見つめ直す時間になっている。泳げることは幸せなんだと、競い合える場があること、応援してもらえることは、本当に幸せなことなんだと、選手と一緒に考えていきたい。」という言葉どおり、アスリートは、今一度、オリンピック・パラリンピックが開催されることの意味を考える時間にしてほしい。

 大会延期という前例なき事態の中だからこそ、様々な人々の支えがあってこそ、素晴らしい舞台でベストパフォーマンスが発揮できるということを噛みしめてもらいたいと感じている。

シドニー五輪競泳日本代表

1980年山梨県生まれ。元競泳日本代表、2000年シドニー五輪に出場。200m背泳ぎ4位。04年に一度引退するが、09年に復帰を果たす。日本代表に返り咲き、順調な仕上がりを見せていたが、五輪前年の11年4月に子宮内膜症・卵巣のう腫と診断され手術。術後はリハビリに励みレース復帰。ロンドン五輪代表選考会では女子自由形で決勝に残り意地を見せた。現在はテレビ出演や水泳教室、講演活動などの活動を行っている。

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