スイマーとして、人として、水について考える
水を通じてCommunication(通じ合う)しながら、Education(教育)する。水ケーションは、地球の未来を担う子どもたちを対象に、我々の生命に不可欠な水と、水を生んでくれる森の大切さへの理解も深める体験型プログラムとして、2015年からスタートした。あれから8年。活動の輪は広がり、これまでに約1200人の子どもたちと想いを共有してきた。一方で、世界的な水不足は地球温暖化の影響もあって深刻の一途をたどる。いま、何ができるのか。自問自答の日々が続く。
「これからの水ケーション、どうしようか」。ともに活動を続けてきた一般社団法人 森と未来代表理事の小野なぎささんとそんな話をしたのは2022年11月上旬のことだった。小野さんとは2014年、山梨県の広報誌で女性3人による鼎談で初めて会った。父が潜水士の仕事をしていた小野さんは物心がついたころから水と隣り合わせの生活を送ってきたという。休日は山の大自然の中で過ごすことが多く、大学でも森林について勉強された。いつか、一緒に仕事がしたい。私のそんな思いと水ケーションの取り組みに、小野さんは欠かせない人だ。
水ケーションでは、子どもたちは小野さんから森と水の大切さを学ぶ「森の授業」の後に、「水の授業」へ入る。水があって当たり前ではないという事実を知り、水の中に。実際に泳ぎ、水の気持ち良さを感じてもらうとともに感謝の気持ちも抱いてもらう。
ときには山にも入り、森から湧き出る水の美しさを体感してもらう。あるとき、川のへりのところに木の根っこがあり、そこから水がしたたり落ちる幻想的な風景を目にした。小野さんが「私たちが言葉で伝えるよりも、何倍も説得力があるね」と話していたのが印象的だった。
競泳選手だった私にとって、水がある日常はごく当たり前のことだった。しかし、水ケーションを始めるきっかけとなる登山へ出かけたとき、ヘリコプターで山小屋まで水を運んでいるという話を聞いて驚かされた。現役時代の私は水に感謝することなく、大量の水をプールという巨大な容器の中に入れ、その中で泳いでいたのだ。そのことを申し訳なく思うとともに、水への知識を深めるようになった。
例えば、昨夏の東京五輪・パラリンピックの競泳会場のプールを満水にしようとすると、500mlのペットボトル約750万本の水が必要になる。日常生活に目を移せば、標準的なトイレで水を流すと一回あたり約10リットル使うといわれ、シャワーを1分間出しっぱなしにすれば約8リットルの水が流れる。水ケーションでは、子どもたちがイメージしやすいように、回を追う毎にバーションアップさせ、どうすれば水の存在をクローズアップできるのかを考えてきた。
小野さんと今後について話をしてみると、課題も浮き彫りになってきた。水ケーション活動の対象が学校やプールがある施設に限られていること。活動の参加者が子どもたちが中心になっていること。できることからコツコツと取り組んできたつもりだが、活動から一定の期間を経てステップアップを考える時期にもきていると思う。小野さんは「水を使うスポーツって他にもあるよね」と話す。カヌーやサーフィンがそうであり、ビーチバレーも海辺の砂浜で行うので水との関係は〝密〟である。野球は木製バットを使うので森と密接につながっている。会社や家庭でも水の大切さを考える機会を広げていくには、企業で働く人や子育て世代、高齢者も含めてたくさんの人に広がりを持っていきたい。
水と共に歩んできた私だからこそ「水」の大切さを多くの人と共有したい。理想と目標は高く、実現のために足元を見つめて地道に歩んでいきたいと思う。そして100年先も変わらぬ美しい水が続いていくように。