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また起きた!「ベランダ等高所からの子どもの転落死」〜今後、どう取り組むべきか

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
「ベランダの柵を考えるプロジェクト」報告書の表紙 筆者抜粋

 2022年11月2日午後、千葉県内の48階建てマンションの25階から幼児が転落し、亡くなった。10月22日には東京都内の14階建て集合住宅から、やはり幼児が転落して亡くなっている。そして今日、大阪府内の4階建集合住宅の出窓から2歳児が転落したようだ、との報道があった。

 東京都の報告(「子供のベランダからの転落防止のための手すりの安全対策ー東京都商品等安全対策協議会報告書ー」東京都生活文化局 2018年)によると、2007年4月から2017年3月までの10年間に、ベランダからの転落により救急搬送された、又は受診した12歳以下の事例は145件で、そのうち、入院を要する事例は全体の7割以上にのぼり、死亡に至った事例は2件であった。

 従来、ベランダ等の高所からの転落の予防策は、「見守り」や「目を離さないようにする」といった保護者の「意識を変えたり、注意する」という人の力に依存したものが主であったが、その予防効果はほとんどなく、依然として転落事故が発生し続けている。近年、高層マンションに住む人が増え、ベランダの構造や柵のデザインは多様化・複雑化しており、ベランダの危険性に対しては、保護者の意識や行動に依存しない予防策の開発が喫緊の課題となっている。

環境改善による予防策の検討

 私が理事長を務めているNPO法人 Safe Kids Japanでは、2017年から2018年にかけて「ベランダ1000プロジェクト」を行って、現在使用されているベランダの状況を把握し、危険性について検討した。今回はベランダの環境を改善することによって転落予防の具体的な方策を検討するため、医師、研究者、エンジニア、設計者・デザイナー、建築士、ホームインスペクター、保育施設経営者など多職種からなるチームを結成し、公益財団法人 三菱財団の助成を受けて、2020年から2022年にかけて、「見守り」など人の努力による予防ではなく、環境改善による予防策を検討することを目的に検討を重ねてきた。

「ベランダ1000プロジェクト」報告書の表紙 筆者抜粋
「ベランダ1000プロジェクト」報告書の表紙 筆者抜粋

 プロジェクト・チームでは、まずはじめに「子どもが部屋からベランダに出て転落するまでの状況」を細かく分け、それぞれの状況に対する予防策を挙げた。多数のアイデアが出され、それらの中から12の対策について、各アイデアの利点や課題、コスト、実現可能性、普及のしやすさなどを考慮し、最終的に2つの案に絞り込んだ。その後、実物大の柵の模型を製作し、保育園児に協力してもらって「柵に登れるかどうか」の実験を行った。今回は、「柵の高さを変える」対策と、「笠木部分を変える」対策の検証結果について紹介したい。

※参照「ベランダの柵を考えるプロジェクト

柵の高さを高くすれば、子どもは乗り越えにくくなるか?

 「柵の高さを変える」対策について、柵の高さを120cm、130cm、140cmに設定し、それらを乗り越えられるかどうかの実験を行った。

「ベランダの柵を考えるプロジェクト」報告書より 筆者抜粋
「ベランダの柵を考えるプロジェクト」報告書より 筆者抜粋

 その結果、柵の高さを高くすることによって、子どもが柵を乗り越えにくくする効果は、3歳児クラス、4歳児クラスの子どもではある程度の抑止効果がみられるものの、5歳児クラスの子どもでは、柵を高くする効果はほぼみられないことがわかった。

「ベランダの柵を考えるプロジェクト」報告書より 筆者抜粋
「ベランダの柵を考えるプロジェクト」報告書より 筆者抜粋

笠木部分が回転すれば、子どもは乗り越えにくくなるか?

 柵の高さが120cmあれば「子どもが飛び越える高さではない」と言われているが、子どもは飛び越えるのではなく、柵によじ登るのである。この「よじ登る時間」は10秒で完了する。すなわち、「ごみ捨てに行ったほんのわずかな時間しか目を離していない」と言っても、転落するには十分な時間であると認識する必要がある。

 塀や手すり、腰壁などの最上部に取り付けるものを笠木といい、ベランダの柵の上部に取り付けられているものもある。子どもが柵の上部に手をかけ、自分の上体を引き上げる動作を阻止すれば、すなわち「手がかりを使わせない」ようにすれば、よじ登ることができないはずと考えた。そこで、笠木部分が回転する手すりを製作し、保育園児に協力してもらって実験を行った。

笠木部分(オレンジ色)が回転する実験用の手すり 筆者撮影
笠木部分(オレンジ色)が回転する実験用の手すり 筆者撮影

 この実験機のオレンジ色の部分が回転し、子どもがつかもうとしてもつかめないような仕組みになっている。子ども達には、下記の条件で手すりを乗り越えられるかどうか挑戦してもらい、次のような結果が得られた。

実験の様子 筆者撮影
実験の様子 筆者撮影

①回転する手すりを、高さ130cmの高さにし、柵の真上に設置した場合

3歳児クラスおよび4歳児クラスの園児には高い効果が見られた一方、5歳児クラスの園児の実に64%が柵を乗り越えられた。このことから、手すりが回転しても、高さを高くするだけでは転落予防の効果は低いということがわかった。

②回転する手すりを、高さ110cmの高さにし、10cm手前に設置した場合

3歳児クラスの園児を対象に行ったところ、手すりを乗り越えられた園児は0人だった。

③回転する手すりを、高さ110cmの高さにし、20cm手前に設置した場合

4歳児クラスおよび5歳児クラスの園児を対象に行ったところ、手すりを乗り越えられた子どもの割合は両クラスとも28%であり、一定の効果は見られた。

④回転する手すりを、高さ120cmにし、20cm手前に設置した場合

4歳児クラスおよび5歳児クラスの園児を対象に行ったところ、手すりを乗り越えられた子どもは4歳児クラスで20%、5歳児クラスで36%だった。乗り越えることのできた園児の多くは、両腕を手すりに巻き付けて手すりを固定した上でよじ登っていた。

今後に向けて

 今回のような転落死事故が起こると、柵の構造が「建築基準法に合致しているかどうか」が判断基準の一つになるが、建築基準法に照らして判断するのではなく、子どもの転落死という事実をもとに予防に取り組む必要がある。靴に足を合わせるのではなく、足に靴を合わせることが必要だ。

 具体的な流れと対策を考えてみよう。

①子どもが転落死すれば、必ず警察が現場検証を行い、詳しい調書が作成される。調書には、必要な情報はすべて網羅されている。

②国土交通省は、ベランダ等高所からの子どもの転落予防対策を考える専門家会議を設置し、転落死した例を収集・整理する。

③犯罪性がないと判断されたら、警察はその資料を上記の専門家会議に提供する。

④専門家会議で詳細に分析し、子どもの高所からの転落死を予防するための建築物(手すり等を含む)のガイドラインを作成し、国は建築基準法を改正する。

 今後は「転落した」という事実を重視する必要がある。転落の原因がはっきりしない場合は、現場の状況を再現して「子どもが柵によじ登れるかどうか」の再現実験を行う必要もある。

おわりに

 今回のように転落事故が続くと、メディア等から「なぜ同じような事故が続くのでしょうか?」と聞かれることがある。その答えは、「これまで予防策として行われてきた『ベランダは危険な場所であるという意識を持つ』『子どもから目を離さない』といった対策は有効でなかったから」ということだ。今回そのことがまた証明されてしまった。

 2022年9月に起こった園バス置き去り事故死では、迅速な対応がなされ、人の力だけに頼る安全対策から、センサ設置など、新たな対策が義務付けられた。ベランダ等高所からの転落も、同じ事故死が起こり続けていることを重く見て、園バス置き去り事故への対応と同じ対応をする必要がある。

 今まで行われていない新たな対策を取らなければ、同じ事故死が続くことになる。子どもから目を離していても転落することがない「幼児の高所からの転落予防:安全徹底プラン」を早急に作成する必要がある。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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