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放課後の行き場を失う「小1の壁」 ~今こそ考えたい、子どもが放課後に本当にやりたいこと~

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

春になり、小学校は卒業式が終わり新年度に向かっています。「小1の壁」という社会課題が言われるようになって久しいですが、春になるとその悲鳴が特に大きく聞こえます。

「学童保育に申し込んだが入れなかった…」

「学童の入りやすいエリアに引っ越し、保育園の友達とお別れした…」

「進級し、もう学童に行きたくないと子どもが言い出して、居場所を必死で探している…」

「習い事の送迎などもきついので仕事は辞めることにした…」

「小1の壁」は文字通り、子どもが小学校に入ると仕事と家庭の両立が難しくなる社会問題を指していますが、もはや小1だけの話ではなく、小学2年・3年になってもずっと続いていく問題になってきています。

学童に新たに入る1年生が多すぎて、子どもが2年生になると学童の卒業を迫られる「小2の壁」という言葉も生まれ始めています。小学生が肩たたきされてしまうのです。

そして「小1の壁」が解決に向かっているかというと、そうでもありません。昨年発表された学童保育の待機児童は前年より増え、過去最多の数になりました。

「学童保育の待機児童:1万7,279人(前年比109人増)過去最多の人数」

*2018年12月厚生労働省発表

「小1の壁」は職場の環境を除き親子の生活の要因を考えると、以下の3つに分解できます。

1.子どもの放課後の過ごし方への対応

2.子どもの小学校への適応

3.保護者の小学校への適応

この3つです。

1は子どもの放課後の安心安全をどう確保するか、どういう過ごし方をしたいか、

2は子どもが大きく環境が変わる小学校に上手になじめるか、

3は平日行事が多かったり、PTAがあったりする小学校に保護者が戸惑わずに対応できるか、

ということが問われてきます。そしてこの3要素が待ったなしに同時に襲いかかるので乗り越えるのが厳しくなるわけです。

この3つの要素への対応はどれも重要ですが、やはり「小1の壁」で最も高い壁は「子どもの放課後の過ごし方をどうするか」です。色々と課題や対策が保護者からも政府からも叫ばれていますが、その時にいつも忘れてはいけないな、と思っているのは大人だけが語るのではなく、「当の子どもはどうしたいのか?」という視点です。

◯子どもたちは放課後や夏休みに何がしたいのか?

「放課後や夏休みにやってみたいことは何ですか?」

私たちの法人は、全国の小学生1,000人以上に質問し以前に調査結果をまとめました。

調査対象:小学生1,029人(男子48% 女子52%)

質問内容:「放課後や夏休みにやってみたいことは何ですか?」

回答方式:直接記入

まとめ方:「お絵かき、ぬりえ、写し絵」などと書いてあるものを『絵画』とまとめる

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このような葉っぱの形をしたアンケート用紙に書いてもらいました。

早速結果をランキングで発表します。表の右にちょっとした解説や、実際に書いてあった内容を記載しております。

まずは20位~11位です!

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概ね定番の遊びが多いように感じます。一輪車は小学生に人気があります。野球はやる子が少なくなっています。

そしてベスト10です!!

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サッカーが1位でありました。そしてドッジボール、鬼ごっこと続きます。全体を眺めるとそれほど昔の遊びと変わっていないような印象があるかもしれません。昔も今も子どもたちのやりたい遊びは定番のものが多いのです。

しかし何か違和感のあるものがないでしょうか。もう一度ランキングを眺めてみてください。

〇気づいたことその1「今日は何をしようか?」と考えたことがない子が多い

違和感のあるもの、それは5位の「なし」です。

「放課後や夏休みにやりたいことは何ですか?」という質問に対して「ない」「わからない」「どうでもいい」などと書いたものを「なし」としてまとめると、何と全体の5位になってしまいました。

考えてみると、現代の子どもたちは月曜日から日曜日まで過ごし方が決まっている子も多く、「今日は何をしようか?」ということを考えたことがない子も多いのです。確かに私たちの放課後の活動においても「次はどうしたらいいの?」と子どもが大人に尋ねてくることがあります。「放課後なんだから好きにしていいんだよ」と言いますが、常に大人の指示や誘導を待つ子は増えていると感じます。私たちは放課後に子どもたちが主体的な過ごし方をできるように考えなければなりません。

昔の放課後は自由がありました。どこへ行く、だれと何をして遊ぶ、それは子どもが決めることで、そこに自立や創造、また社会勉強や危険回避能力の醸成もあったように思います。現代は子どもを襲う凶悪事件などもあり、なかなか昔のようにはいきませんが、その中でも子どもたちが「今日は何をしよう?」と考える余白は大いに作ってあげたいと感じます。

〇気づいたことその2「子どもたちが本当に望むこと」

もう1つこのアンケートは大切なことを教えてくれました。実は先ほどのランキングには出てこなかった“隠れ1位”と呼ぶべきものがありました。それは下記のものです。

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それは「友達と」というキーワードであります。

「友達とサッカーの試合がしたい」「みんなでプールに行きたい」など、実に4人に1人の割合で何をしたいかに関わらず「友達と」「みんなで」などのキーワードが入っていました。

私たちは子どもたちに“何がしたい?”と尋ねたアンケートでしたが、子どもたちからは「誰と」したいかの答えが返ってきたわけです。

「何をするかより誰とするか」と大人の世界でも言われることがありますが、子どもたちもまさにそうなのです。

少年時代、友達といれば何をしていても楽しかった思い出があります。そして友達と遊べるのは私たちにとって当たり前の毎日でしたが、今の子どもたちはそれがなかなか難しい環境にあります。子どもたちの望みである「友達みんなで遊べる放課後!」を私たちは作っていかねばならないと強く感じました。

〇学校よりも長い放課後

小学校低学年が学校で過ごす時間は年間で1,200時間ほどです。それに対し放課後と夏休みを合計すると年間で1,600時間を超えると言われます。放課後や夏休みの方がかなり長いのです。さらにこれからの世の中の変化を考える時に、教科書で一斉に知識を学ぶことの大切さは変わりませんが、放課後に自分の好きなことに自由に没頭できる中から生まれる個性や創造力も非常に重要度を増していると言えます。

そのように考えると、「小1の壁」を考える時に、単純に学童保育や待機児童の数などの“量”だけにとどまらずに「どう過ごすか」という“質”の観点も忘れてはいけないと思います。

また大人だけで議論するのではなく、当の主役である「子どもたちはどうしたいか?」を真ん中において考えたいと思います。

4月になると非常に慌ただしい日々がやってきます。どうか多くの親子が「小1の壁」に悩むことなく、笑顔で過ごせることを願っています。

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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