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「地方の子どもほどゲームをしている」は本当か?

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(提供:イメージマート)

先日ある自治体の広報誌に、その地域の小学6年生が「ゲームや動画に費やす時間が全国平均に比べてとても多い」ということが書いてありました。

データを見ると、以下のような感じでした。


〇平日1日にゲームをする時間が3時間以上の子ども

その自治体:45% 全国:30%

〇平日1日にSNSや動画視聴をする時間が3時間以上の子ども

その自治体:45% 全国:21%


確かにこの自治体では、全国平均に比べて子どもたちはかなりデジタル依存が強いことが示されています。平日の学校が終わってから3時間以上ゲームをするのは生活の中で結構な時間を割くことを意味しますが、おおむね半分の子がそのような状態です。SNSや動画視聴においては、全国平均の倍以上の割合になっています。ゲームと動画の子が重なっているとすると、6時間以上費やしていることになり、家に帰ってから寝るまでほとんどデバイスを見ていることになるでしょう(もしくは深夜まで起きているか)。

この自治体は、実は自然豊かなとても美しい場所です。私は先般その地に伺う機会があり、実際の様子を拝見してきましたので、分かったこと・聞いてきたことを過去に聞いた話とあわせてお伝えしたいと思います。

◎全国的な傾向はどうか?

「地方の子ほどゲームをしている」という話を私は全国各地で結構な頻度で聞くことがあります。

冒頭にご紹介したデータは、文部科学省実施の「全国学力・学習状況調査」の結果です。小学6年生を対象としています。公表されているデータを見ていて、ひとつ気づくことがあります。

それは各都道府県内において、政令指定都市とそれ以外の地域を比べると

「政令指定都市である都市部の子の方がゲームをしていない」という結果です。

程度に差はあれ、どの都道府県でもおおむね同じ傾向でした。

「地方の子ほどゲームをしている」という仮説も可能性はありそうです。

「平日1日にゲームをする時間が2時間以上の子どもの割合」を都道府県別にランキングにすると以下の通りとなりました。

平日にゲームをする時間が2時間以上の子どもの割合は、北海道が最も多く、山形県、新潟県と続きます。少ない方から見ると、長野県が最も少なく、鹿児島県、東京都と続きます。
これだけのデータで「地方の子ほどゲームをしている」と明確に言い切ることまでは示されていませんが、東京・神奈川はゲームの時間が少ないベスト5に入っています。家にこもりがちな寒い地方でゲームをする子が多いのかな?と思えないでもないですが、それ以外の様々な要因も影響しているでしょう。

ゲームやデジタルデバイスというとつい都会をイメージしてしまい、「都会の子ほどやっている」「自然豊かな地方の子はやっていない」とイメージしそうですが、少なくともそうではなさそうです。

◎現地で聞いてきたこと

私は、先日冒頭にご紹介したゲームをする子の割合がとても多い自治体にお伺いする機会を得ました。

大きな山のふもとにあり、とても自然豊かな素敵な地域でした。

学校に伺うと広い校庭があり、裏山でも遊べる素晴らしい環境でした。「校庭の狭い東京の子が見たらうらやましがるだろうな~」と感じました。

そこで保護者の方にお話をお聞きすると

やはり「子どもがかなりゲームをしていて困っている」ということでした。

平日の放課後や家庭において「ゲームをする時間が長くなる」要因として以下の声が聞こえてきました。今までに聞いた声も含めて整理してみると、大きく3つあります。

・友達の家が遠い

「友達の家が遠く、一度家に帰ると一緒に遊ぶのが難しい」

「校庭開放があっても、家に帰ってからでは遠くて行けない(一度家に帰らないと校庭開放に参加できないルール)」

・習い事が少ない

「習い事や塾が少ないので、過ごす選択肢がない」

「親も忙しく、習い事への送迎が難しい」

・放課後の居場所が少ない

「学童保育に入れない、行きたがらない」

「子どもの放課後の居場所が中高学年には物足りない」

このような要因があり、結果として「子どもが必然的にゲーム・動画に流れてしまう」ということでした。

「せっかく自然豊かなのに、消化試合のような放課後になってしまう、、」という嘆きの声もありました。

都市部は友達の家も近く、放課後の選択肢もいろいろとあるので、結果ゲームや動画の時間が少ない、ということが考えられます。

もちろんゲーム・動画が悪い、ということではないのですが、それ以外の過ごし方を望んでいるのにそう出来ないとなると、考えるべき課題になってきます。

◎解決策は?

子どもの数が減り、学校の統廃合も進んでいます。また昔のように町のあちこちに遊び場があるわけではないので、地方部においては「一度家に帰るとそこから外に出られない」という状況が起きやすくなっています。せっかく自然が豊かでもなかなか生かされません。

都市部においては習い事などのコンテンツは多いものの、当然費用がかかるので、家庭の経済状況により放課後の過ごし方の格差が生まれてしまいます。子どもたちが望む過ごし方ができる豊かな放課後が都市部にも地方部にも必要になっています。

こうした問題に共通する解決策は『学校施設の活用』ということではないでしょうか。

放課後の学校で子どもが過ごすことができて、外遊びや様々な活動ができて、家庭の状況に関係なく参加ができれば、解決策になる可能性があります。学校施設であれば北海道から沖縄までありますし、学校外に施設を整備するより当然コストもかかりません。もちろん親の送迎なく参加できるのも重要なポイントです。

「地方の子ほどゲームをしているのでは?」という視点から始まり、

「豊かな放課後」をつくっていく責務が都市部でも地方部でもあるのではないか?という問題意識が生まれ、

「学校施設を活用した放課後の居場所」というソリューションが見えてきました。

昭和の頃のように町全体が遊び場にならない令和の時代において、豊かな放課後をつくり出すことが私たちに求められています。

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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