深層崩壊にも警戒 熱帯低気圧由来の雨雲が九州へ
1000ミリを超える雨
西日本を中心として記録的な豪雨となっており、九州南部(鹿児島県と宮崎県)と熊本県では、降り始めの6月28日からの144時間(6日間)降水量は400ミリを超え、宮崎県えびのでは、1000ミリを超えました。
九州南部以外は、多くても400ミリですので、いかに九州南部と熊本県の降水量が多かったかがわかります。
西日本を中心とした記録的な豪雨となっているのは、梅雨前線が同じ位置にあり、太平洋高気圧の縁を回るように、湿った空気が、同じ場所に流入し続けたというのが大きな原因です。
梅雨前線は停滞前線の一種であり、もともと南北方向の移動は小さいのですが、令和元年の梅雨前線は、全くと言っていいほど南北方向の移動をしませんでした。
太平洋高気圧の縁を回るように湿った空気が流入しましたが、その中には熱帯低気圧(熱低)も含まれています。
6月27日18時に北上してきた熱帯低気圧が、四国沖で台風3号へ発達して関東沿岸を通過しましたが、その3時間前に、グアム島の南海上で次の熱帯低気圧が発生しました。
この熱帯低気圧は、北西に進みながらやや発達したものの、台湾付近に達した7月2日6時以降は熱帯低気圧として解析できなくなりました(図2)。
熱帯低気圧としての循環がはっきりしなくなったためですが、熱帯低気圧由来の雨雲の塊は北上を続け、ばらけながら3日に九州南部を通過しました。
熱帯低気圧由来の雨雲の塊は、上空まで多量の水蒸気を含んでいますので、普通の雨雲より豪雨となりやすく、厳重な警戒が必要な雨雲です。
降り続いた雨によって、九州南部では、土の中の水分量(土壌雨量指数)が極めて多いというランクに入っています(図3)。
鹿児島の16日先までの天気予報を見ると、降水の有無の信頼度が5段階で一番低いEランクである日も交じっていますが、傘マークが7月17日まで連続しています。
半分以上の日が、降水の有無の信頼度が5段階で一番高いAですので、雨が続くと考えて良いでしょう。
土の中の水分量が減らないうちに次の雨が降りますので、土砂災害が発生しやすい状況は10日間以上続くことになります。
いつ大規模な土砂災害(表層崩壊)が起きてもおかしくない状況になっています。
加えて、これだけ記録的な雨が降ると、深層崩壊の危険性もでてきます。
深層崩壊と表層崩壊
土砂災害は、災害の形態によって、山崩れ・かけ崩れ・地すべり・土石流などに分けられ、崩壊の形態により、表層崩壊と深層崩壊に分けられます(図5)。
深層崩壊は、大雨、融雪、地震などが原因で発生します。
深層崩壊はまれにしか起こらないのですが、ひとたび発生すると大災害に結びつく可能性があります。
深層崩壊は、地下水圧の上昇によって発生するので、大雨の数日後に発生することもあります。強い雨のピークと深層崩壊のタイミングが大きくずれることがあるのです。
深層崩壊は土砂災害警戒情報の対象外
土砂災害警戒情報は、強い雨に起因する土石流や集中的に発生するがけ崩れを対象としていますので、対象のほとんどは表層崩壊です。
土砂災害警戒情報が非常に有効な情報であることには間違いがないのですが、予測が難しい、深層崩壊や山体の崩壊、地すべりといった土砂災害は情報の対象外です。
気象庁HPには、土砂災害警戒情報の利用上の留意点ということで、このことの説明がありますが、わかりづらい位置にあります。
斜面の状況には常に注意を
土砂災害警戒情報は、土砂災害の全てに対応しているものではなく、非常に有効な情報ですが万能ではありません。
土砂災害警戒情報等が発表されていなくても土砂災害は発生することがありますので、斜面の状況には常に注意を払う必要があります。
そして、土砂災害の前兆現象に気がついた場合には、直ちに周りの人と安全な場所に避難するとともに、市町村役場等に連絡して下さい。
土砂災害の前兆現象には、地鳴り、落石、小さな崖崩れ、擁壁のひび割れ、地下水の濁り、橋などのゆがみなど、いろいろとありますが、要するに、普段とは異なる状況のことです。
普段と異なっていたら、自分の身を守るために早めの避難行動が大切です。
タイトル画像、図1、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。
図2の出典:気象庁ホームページ資料をもとに著者作成。
図5の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100、オーム社。