Yahoo!ニュース

3億円を投資トラブルで失った被害女性に、夫がかけた「命だけは大切にして」の言葉の重みと、悔し涙

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

昨年、TKO・木本武宏さんの投資トラブルが世間を騒がせましたが、こうしたトラブルは、投資の内容がわからないのに、良いものだと信じこんで、知人・友人に紹介した結果、被害が大きくなってしまうケースが多いです。

その恐ろしさを、身をもって経験した60代女性(仮名:木田さん)に話を聞きました。

「トータルで3億円ほどの被害になってしまいました。しかも、その投資話を知人に紹介してしまい、それがもとで知人から裁判を起こされて1千万円を超える和解金を払うことにもなりました」

さすがに隠し切れなくなり、意を決して、木田さんは夫に話をします。

「主人からは『自殺だけはするな。命だけは大切にして、全力で解決しなさい』といわれました」

この言葉は、どれだけ彼女の心に力強く映ったことでしょう。だまされた人を責めない、これは、とても大事なことです。

ワインの輸入事業をきっかけに、多額のお金を失う

どのようにして、木田さんは多額の被害にあったのでしょうか?

今から7年ほど前、ワイン輸入の投資事業を持ち掛けられたことがきっかけでした。

「この事業では、有名な男性俳優を使って宣伝していたので、信じてしまいました。私にこの投資話を勧めたのは、輸入会社のA社長です。そして、この社長を私に紹介したのは、知り合いだったB子でした」

B子の話では「A社長に出資すると、その額に応じた配当がもらえる。『自分も大手のデパートにそのワインが置かれているのを見たので、安心だよ』と誘われました」

後日、木田さんは喫茶店でA社長に会います。その時、B子の他に、C男という店舗経営の男性も同席します。

「A社長は、タブレットでプレゼンテーションしながら『D国はワイン発祥の地です。英国女王が最初に飲んだのも、ここのワインだったといわれています』などの話をしながら、ワインを輸入して日本で売ることで、いかに儲かるかを力説してきました」(木田さん)

同席していたC男もお金を出していたようで「僕もちゃんと配当をもらっていますから、安心してください」といいます。

「月に10%の金利がついて、3カ月後には元本を返します」との説明を1時間ほど受けます。

「A社長の人当りもよかったですし、すでに配当金をもらっている人もいて、儲かる話かもしれないと思いました。それで最初に100万を振り込みました。ですが、今になって思うのは、この3人が結託して私をはめていたのかもしれないということです」

だます側は、ターゲットにした相手を複数で説得して、信じさせることはよくあります。その可能性は捨てきれません。

次々にやってくる投資依頼

その後も、A社長からの投資依頼は続きます。

「『もっと預ければ、さらに儲かります』の電話が次々にかかってきて、100万単位のお金を繰り返し振り込みました。私の性格上、人の話をすぐに信じてしまうところがありまして、投資内容をよくわからずに話にのってしまった。それがダメだったのでしょうね」

その額は1千万円を超えます。

さらにA社長からは「ご自身の持っている不動産を活用して、お金を増やした方が良い」とのアドバイスを受けて、マンションを担保にお金を借りる方法を持ち掛けられます。そしてA社長の紹介する会社に赴き、自分のもっているマンションを担保にしてお金を借ります。そして、そのお金を社長に渡します。その額は2000万円近くです。

しかし後にわかったのは、A社長に紹介された金貸しは裏稼業の会社だったようで、相当の金利や手数料を取られていました。そのことに気づいた彼女は返還を求めて裁判を起こします。しかしながら、結局、このマンションは手放すことになりました。

信じた理由は、振り込まれた配当金。しかしフェイクの可能性も

彼女がここまで信じてしまったのには理由があります。それは、実際に配当があったことです。

投資をした翌月の初めに20万。2週間後に、30万など細かくお金が振り込まれます。その後、A社長から連絡があり、結局、振り込まれた以上のお金を木田さんは投資してしまっています。

これは、いったんお金を手にさせて儲かる投資と信じさせて、さらに大きな金額をださせる手口に思われます。だます側は、手にしたお金を配当に回して、儲かっているように見せかける、フェイクを使うことがよくあります。しかし、その手口を知らない木田さんの投資額はどんどん膨らんでいきます。

人の命を守る事業への投資を持ち掛けられる

1年ほどが経ち、配当が止まります。元本も戻ってきません。A社長に不動産で借りた金利分だけでも返してほしいと話すと、次のような話を持ち掛けられます。

「ある特許を使えるようになったので、新しい事業を始めることにした。以前から、人助けになる、命を守る仕事をしたかった。この事業で借りた分を返済したい」

次に紹介されたのが、防災アプリ会社への投資話でした。

確かに最近、日本は異常気象で大雨、台風、地震の被害も多くなってきています。木田さんは、人のためにもなるし、これは良い投資かもしれないと思います。

さらにA社長は「6億が入る見込みになった。それで全額返せるから、つなぎ融資をしてもらえないか」と持ち掛けます。

それを信じさせるためでしょう。

「6億の支払いの公正証書を、A社長は、ちらちら見せてきました」(木田さん)

すでに、ここまで億を超えるお金を投資しており、もう後には引けない状況でした。

自分の持っている別の物件を担保にして、A社長の指示通り、お金を借ります。その額は1億円を超えます。A社長は彼女のお金を取り戻した気持ちにつけいってきたといえます。

知人を紹介してしまい、さらなる深みにはまる

最悪なことに、木田さんは知人女性から「良い投資はない?」と尋ねられて、この防災事業を話して、A社長を紹介していました。

「知人女性がお金を貸した時の最初の保証人は、アプリ会社の関係者でした。しかし、途中でA社長と知人女性から『どうしても(木田さんに)名義を変えてほしい』といわれて、紹介した手前上、断れずに私が連帯保証人になりました」

しかし後に、A社長は行方をくらましてしまいます。そして木田さんは、知人女性から訴えられます。

「最終的には、和解して1千万円を超えるお金は、すべて私が返すはめになりました」

投資内容がよくわからないまま、誰かに紹介してしまうと、その損失を自らが、かぶってしまうことにもなりかねません。安易な紹介は非常に危険ということが分かります。

A社長を紹介した、B子との出会いの先に、マルチ商法の存在

B子さんとの出会いは、ある投資セミナーだったといいます。さらに、この投資セミナーに誘われたきっかけを尋ねると、主婦E子だったといいます。さらに、この女性(主婦E子)と出会ったのは、mface(エムフェイス)という投資がきっかけだったといいます。

これはよく覚えています。

マレーシアのSNS「mface(エムフェイス)の広告枠を買えば、クーポンという仕組みでお金が増えていく」と宣伝して、紹介者が別の誰かを紹介する手口で、180億円を超えるお金を集めたといわれています。しかし、現金化する仕組みが複雑で、お金が戻らないというトラブルが多発しました。

彼女もこの投資をしていたというのです。

「200万円ほどを投資しましたが、戻ってきていません。もうなくなっているのではないでしょうか」

mfaceに参加するなかで、木田さんは「良い投資がある」と、主婦E子から投資セミナーを紹介されて参加します。

「ここでは、一人30万円を出して、グループで投資する形でした。でも結局は返ってきませんでした」

つまり、木田さんは、mfaceで主婦E子と出会い → 投資セミナーでB子と出会い → ワインの投資事業でA社長を紹介されて投資 → さらに防災関連の投資に誘われる。この流れのなかで、3億円もの被害になってしまったのです。

裏稼業の人間たちが、ハイエナのようにやってきた

そもそもは父の遺産をもとに、彼女が投資などで増やした不動産や貯金でした。その後、A社長だけでなく、様々な裏稼業と思われる人たちを紹介されて、金を借りさせられ、資産を奪われていきました。おそらく、お金をだまし取れる相手とみられてしまい、詐欺行為を行う輩がハイエナのように彼女の元に群がってきたと思われます。

「誰にも相談しないで家を買ったりしてきたので。その思い切りのよさが、あだになってしまったのかもしれません。それに当時は、A社長の指示のままに行動していて、思考が停止していたんじゃないかと思うんです。途中で、主人に相談すればよかった」と後悔を口にします。

「それに(A社長を)助けてあげなくちゃという気持ちになってしまったように思います。困っている。力になってあげなくちゃと。そこを利用されたようにも思います」

心の優しさに付け込み、お金をだまし取っていたとすれば、絶対に許してはいけない手口です。

借金は1億5000万円、パートでお金を返し、悔し涙を流す日々

現在裁判を起こして、A社長などに返還請求を起こしていますが、お金が戻ってくるかはわかりません。現在、木田さんが抱えている借金は1億5000万円ほどだそうです。

「抵当には入っていますが、何とか手元に残っている物件もありまして、その賃料などで返済をしています。しかしそれでも毎月の返済額には足りません」

それで彼女は障がい者グループホームの夜勤で、パートとして働いています。

「床にはいつくばるようにして、トイレ掃除をするたびに、A社長が私に対してやったことを思い出し、悔し涙がでます」

彼女は歯を食いしばりながら、必死で今を生きています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

多田文明の最近の記事