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勇気をもってあげた宗教2世の声は、社会全体で守っていかなければならない 旧統一教会への第8次集団交渉

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

全国統一教会被害対策弁護団は司法記者クラブで会見を行い、旧統一教会に対して損害賠償請求を求める第8次の集団交渉の申し入れを行ったことを話します。今回の集団交渉には、宗教2世が2名参加しています。

村越進団長は「2世の方の損害賠償請求は、法律的に大変困難を抱えていることは事実でありますけれども、2世の被害が深刻であるということを考えると、弁護団としてはこれを放置することはできません。今後も積極的に2世の方の被害を取り上げて、救済を全力で取り組んでいきたい」と話します。

2世問題を、本人の努力不足や自己責任という言葉で片付けてはならない

阿部克臣弁護士によると「今回の集団交渉の通知人は20名で、被害総額は6億9484万円、昨年2月の第1次から第8次までの被害総額は53億3778万円」で、今回、集団交渉に参加した2世はTさん(四国在住20代男性)と鈴木みらいさん(仮名・関東在住30代女性)のお二人で「精神的損害について1000万円ずつ請求しています」とのことです。

Tさんの担当弁護士である河智了顕弁護士は「2世問題の話を伺っていると、世間的には親の信仰の自由、あるいはその方の努力不足や自己責任という言葉で片付けられてしまうことがあるかと思います。しかしお話を伺うと、子どもの頃から自分の意思で将来を決められず、特定の考えの親のもとで育ったご本人のことを考えると、そのような批判、自己責任をいうことは、あまりにも酷な状況があることが改めてわかります」と話します。

飛行機に乗って東京に来て、弟との修学旅行を思いだし、胸をつまらせる

Tさんは次のように話します。

「統一教会の祝福2世という立場で生まれて様々な被害に遭ってきました。自分はずっと(教会に)行きたくないという感情を抱いていますが、幼い頃から両親や教団の関係者の方から礼拝や行事への参加を強制されてきました」

これは、その後の彼の人生にも大きな影響を与えます。

「信仰の強要や貧困などがあって、思春期から精神的に体調を崩している時期が長く続きました。今日に至るまで被害に遭ってきたことを相談できず、孤独感を感じて、ずっと苦しい思いをしてきました」

Tさんは自死した双子の弟のことを思い、次のように話します。

「今回、自分の弟が4月に亡くなる前から法テラスに相談しています。弟は自分と同じ環境で生まれ育ち、高校も一緒で同じクラス、部活も同じでした。今日も飛行機に乗って東京に来たんですけど、弟と修学旅行で同じ部屋に泊まっていたことを思い出して、こみ上げてくるものがありました。弟も自分も高校を卒業して就職するんですけど、社会生活がうまくいかずにメンタルの疾患にかかり、就職しては退職を繰り返す生活を送りました。弟もそういう生活を送っていて亡くなりました」

弟が亡くなった後の信者である親や教団の行動

さらに弟が亡くなった後の信者である親や教団の行動にも憂いを覚えてきたといいます。

「弟も自分と同じように(旧統一教会の)信仰心がないんですけど、葬儀は親が勝手に統一教会式のものをしてしまい、自分もお葬式に参加するまで何も知らされていないかったんです。(葬儀には)2世の方もたくさんきていて『いつまでこういう見せびらかすようなことをやって、信じさせる方向に持っていくのかな』と感じていた」と話し「(教団には)少しでもそうしたところは、変わっていってほしい」と率直な思いを語ります。

「宗教行事の参加の強制」と「自由恋愛禁止の人権侵害」

次に、鈴木みらいさんは三つの点が大きな被害だと思うと話します。

一つ目は宗教行事の参加の強制です。

「私が幼かった時は、日曜日朝5時の敬礼式に叩き起こされて、礼拝にも参加しないといけない状況でした。教会をやめることも罪で、天国に行けないと教わっていましたし、礼拝をしないとそれも罪であると教えられていましたので参加しました。また統一教会の合同結婚式(祝福)を受けないと地獄に落ちるとも教わっており、その祝福を受けるために40日修練会に参加しないといけないいわれて、何回か修練会に参加しました」

二つ目が自由恋愛禁止の人権侵害について「統一教会以外の価値観は悪であり、自由恋愛禁止を教えられてきたので、芸能界の男性や異性に興味を持つこと自体が罪になりました。恋愛感情は成長過程で誰もが感じるものにもかかわらず、感じたらそれが罪なので、罪悪感を覚えてしまい、精神的に苦痛でした。私が性的な被害を受けた時も『加害者にそうしたいと思わせた、自分が悪い』と教わっていたので、(被害を)受けたときに誰にも相談できずに苦しかった。その被害自体は幼少期のときに受けたので、あの時にもし訴えられていたら」と振り返ります。

「ボランティアと偽って訪問販売を長期間させられた」

三つ目は「ボランティアと偽って訪問販売を長期間させられた」ことをあげます。

「大学生の時に、統一教会の関連団体である原理研究会(CARP)に所属していました。夏休みや春休みに、『野の花会』というボランティア団体名を名乗って寄付金集めの訪問販売をさせられました。障害者施設に寄付金がいくと話して販売していましたが、実際は(文鮮明)教祖や関連団体にお金が流れていました」

ホームである学舎などから出発して朝から晩まで、布巾などの商品を3枚2000円で売ったといいます。

「夏は暑いかったんですけど、全部(指示を受けた場所)回りきらないといけなかった」と鈴木さんは振り返り、精神的だけなく肉体的にも大変な状況下で、モノ売りをさせられています。

「高校生の時も『一番本舗』という団体でボランティアだと嘘をついて、アクリルの風鈴(1個2000円)の販売もさせられました。もしお客様に聞かれても、絶対に統一教会とは関係がないといわなければいけなかったので、1日中ずっと嘘をつきながら活動をしてとても苦痛だった」と話し、今もその行動は鈴木さんの心を苦しめています。

鈴木さんは教団側に謝罪を求める

こうした行為をさせられたのは、彼女だけではないと思います。信者時代に、教団の指示で「万物復帰」と称する訪問販売をさせられて涙を流す人をたくさん見てきましたが、成人した信者でさえも辛いものであるにもかかわらず、未成年者に嘘をつかせてモノを販売させることで、どれだけ多くの2世の心が傷ついたかわかりません。

鈴木さんは「統一教会からは謝罪も受けていませんし、信者や2世にさせたことについて反省もみえていません。信仰を強制させた方には謝罪をしてほしい」と訴えます。

宗教2世の問題は、大人の問題でもある

久保内浩嗣弁護士は「今回の損害賠償請求というのは、被害者を受けた2世にとって、新たな人生を切り開いて、今後の人生を歩んでいくためには重要なこと」と話します。

「集団交渉に加わった方もそうですが、受けている2世の相談は、10代よりは、20代~40代の相談が圧倒的に多いです。2世問題というと、一見すると子どもの問題のようにも思われますが、大人の問題です。そうした人たちを自立させるために必要なものが不足しています。Tさんも、今まで自立しようといろんなところで相談してきましたが、なかなか(解決まで)たどり着けなかった。こういったものについて、まだまだ整備が足りません」と社会全体での2世問題の取り組みの必要性を訴えます。

Tさんは宗教2世問題について「最近の報道で統一教会に関する報道が多くて統一教会ばかりが注目を浴びていますが、他の同じような宗教団体についても議論してほしいと思っています。親の保護下にいる間は、何も抵抗できない人がほとんどなので、声を上げられない人が、もっと声に出していえるような環境に変わってほしい」とも話します。

まさにTさんや鈴木さんらが被害の声をあげたことは、他の2世たちの救いの道を開くための重要な一歩になるはずです。

旧統一教会2世だった小川さゆりさんの会見の状況にさせてはいけない

ただし筆者が懸念することは、旧統一教会の2世だった小川さゆりさん(仮名)が、過去に会見をひらいた時に、旧統一教会側が信者である親を通じて、彼女に大きなプレッシャーを与えて、心を追い込むような言動をしてきました。おそらくあの会見を見て、敵対的な教団の真の姿を見て涙を流した方も多かったと思いますが、同じような状況にさせることは絶対に防がなければなりません。

久保内弁護士は「2世の方は、みんな親のことを思っているし、できれば親と仲良くしたいと思い、そういう葛藤の中で苦しんでこられました。今もその葛藤を抱えておられると思います。それでも、親と立ち向かわなければいけない」と話すように、必死の思いで2世は声をあげています。

この勇気をもってあげた声を決して教団側の組織的な行動と思惑によって、かき消されることがないように、日本社会全体で彼らをしっかりと守り、支えることが必要です。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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