梅田耕太郎さんの勇気と、そして私達:新幹線殺傷事件の犯罪心理学
<梅田耕太郎さんの勇気ある行為が被害を最小限にとどめた。そして、その勇気に応えるために私たちがするべきことは?>
■新幹線殺傷事件
新幹線車内で殺人事件が起きました。
<新幹線のぞみ車内殺人事件の犯罪心理学:「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」>
二人の女性が負傷し、刃物をふるう男を止めようとした男性、梅田耕太郎さん(38)が殺害されました。
■通り魔犯罪、無差別大量殺人
犯罪心理学的には、無差別大量殺人者は、孤独と絶望に押しつぶされ、自分の人生を終わりにしようと思っている人達です。彼らはまた同時に、この社会も最低だと感じ、社会に復讐しようとします。
自殺への思いもあるのですが、自分だけ死ぬのではなく、「道ずれ」を考えます。その意味では、このような犯罪を「拡大自殺」と呼ぶこともあります。
彼らは逮捕されることも、死刑になることも恐れず、大勢の目撃者の前で顔も隠さず犯行に及び、逃亡もしません。
(それ以外の大量殺人のパターンとしては、病的な強い妄想にかられて犯行に及ぶケースもあります。)
■梅田さんの勇気ある行為
一般に、無差別大量殺人を狙った通り魔事件などでは、加害者は数多くの被害者を狙います。「無差別」といっても、それは特定の個人を狙うわけではないという意味で、多くの無差別大量殺人では、逃げ遅れたり、反撃の可能性の低い女性や高齢者などが次々と狙われます。
今回容疑が事実だとすれば、男性への攻撃が長時間続いたために、両隣の女性以外の被害者が出ないですんだと考えられます。亡くなられた男性の勇気ある行為が、多くの人を助けたと言えるでしょう。
報道によると、警察は、梅田さんの行動が犯行の継続を止めたのか、それとも梅田さんの行動によって結果的に容疑者による殺人にいたってしまったのか、慎重に調べを進めているようです。
たとえば人質事件等で、犯人を必要以上に刺激しなければ誰も亡くならずにすんだのに、不用意な行動に出たために犠牲者が出るようなケースはあるでしょう。今回も、警察が慎重に調べる進めるのは当然です。
しかし報道によれば、今回の事件の容疑者は隣に座っていた女性を突然襲ったと伝えられています。女性に逃げられると、すぐに通路を挟んだ隣の女性を襲ったようです。この報道が事実であれば、脅したり、条件を出したりする犯罪ではなく、無造作に次々と被害者を狙うパターンです。
車内はパニックになり、狭い通路に人が折り重なったと報道されていますが、もしも容疑者の男を止めなければ、逃げ惑う人を追いかけ、次々と逃げ送れた人を襲ったと考えられます。
今回の梅田さんの行動は、容疑者を刺激して被害を大きくしたのではなく、犯行を止め、被害者を最小限にとどめた行為と言えるでしょう。
■容疑者は逆上したのか
<新幹線襲撃の男「犯行を邪魔され逆上した」:日本テレビ6/11>
容疑者は、なぜ梅田さんにこだわり、長時間危害を加え続けたのでしょうか。報道によると容疑者の男は「逆上」したと供述しているようですが、他の報道によると、男はあまり表情も変えずに黙々と男性を攻撃し続けたとの目撃証言もあるようです。
目撃証言が事実なら、「逆上」は、常識的な犯行動機として取調官の方からうながされただけの供述の可能性もあります。あるいは、容疑者男性は逆上しても表情を変えず、周囲からはそう見えにくい可能性もあるでしょう。
■様々な思い:「すぐに助けていただいたのに亡くなられた方には本当に申し訳ない」
亡くなられた梅田耕太郎さんに関しては、世間はその勇気ある行為を絶賛しています。ただ、ご遺族としてはどんなにみんなから賞賛されるよりも、生きて帰ってきて欲しかったと感じることでしょう。
「突然、家族を奪われたこの悲しみは言葉では言い尽くせません。今はそっとしておいてもらいたいです」と、ご遺族はコメントを出しています。
また負傷された女性は、次のようにコメントし、犯人を止めてくれた梅田さんに心から感謝すると共に、申し訳ない思いで一杯のようです。
「すぐに助けていただいたのに亡くなられた被害者の方には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。私を助けてくださった方々にお礼を申し上げるとともに、亡くなられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げます」
梅田さんの勇気を称えると共に、他の乗客は何をしていたのだろうかと考える人もいます(車掌は現場に駆けつけ、トランクを盾にして犯人に近づき、犯行を止めようとしました)。
世間が何も言わなくても、自分自身で自問自答している人もいるでしょう。
亡くなられた梅田さんのご遺族。助けられた被害者の方。もしも梅田さんがいらっしゃらなければ自分も危なかったと思っている方と、そのご家族。事件を目の前で目撃したけれど、何もできなかった人。逃げ遅れた人。人より早く逃げた人。人を押しのけたり乗り越えるようにして逃げた人。様々な人々がいたことでしょう。
助かった方々の中には、「サバイバーズ・ギルド」(生き残った人が感じる罪悪感)を持つ人もいるでしょう。しかしもちろん、助かったことは良いことです。
あのとき、どんな行動が最善だったのかは分かりません。みんなで力を合わせ、だれも亡くなることなく犯行を止めることができていれば、一番良かったでしょう。けれども、ドラマのように上手くはいきません。冷静で安全な立場にいる人が、緊急事態に直面した人を安易に責める事はできません。
事件のショックで電車に乗ることが怖くなっている人もいるかもしれません。事件に関わり苦しんでいる全ての人々を、私達は支援してかなければなりません。それが、梅田耕太郎さんの勇気に応えるための私達の責任ではないでしょうか。