「助けなきゃ!」JR横浜線踏切事故・村田奈津恵さんの勇気から学ぶべきこと:人助け行動の心理
■「助けなきゃ」女性は踏切へ 父「やめろ」
踏切の高齢者助け、女性死亡=事故現場に献花相次ぐ―横浜 時事通信Y! 10月2日(水):「JR横浜線鴨居―中山間の踏切(横浜市緑区中山町)で、高齢男性を救出しようとした女性が電車にひかれ死亡する事故があり、事故現場には2日、近所の人らが相次いで訪れ、花や飲み物などを手向けた」。
「助けなきゃ」女性は踏切へ 父「やめろ」JR横浜線:朝日新聞デジタル 10月2日(水)
村田奈津恵さんの勇気ある行動に、日本中が感動し、その死を悼んでいます。
■人助け行動(援助行動)の心理学
社会心理学の研究によれば、人助けするためには、いくつかのハードルを越えなくてはなりません。
- 何かが起きていると気づく。
- 緊急事態だと判断する。
- 自分に助ける責任があると考える。
- 助ける方法を考えつく。
- コスト(手間、時間、お金、危険性、恥ずかしさなど)を考える。
- 人助け行動の実行。
このように各段階をクリアして、初めて人助け行動が実行できます。やさしい心だけでは、人助けは生まれません。
■「助けなきゃ!」村田奈津恵さんのすばらしさ
遮断機の下りた踏切に、高齢者男性が入り込み、線路の上に横たわります。これを目撃した人は、だれでも緊急事態だと判断できます。しかし、おそらく多くの人がただ立ちすくむでしょう。
しかし、村田さんは「助けなきゃ!」と思います。通常、多くの人々がいる都会では、人は「冷淡な傍観者」になってしまいます。実は心が冷たいわけではないのですが、誰かが助けるだろう、自分が助ける必要はないと感じ、ただの傍観者になってしまうのです(都会で援助行動が起こりにくい理由・助けてもらうための工夫)。
それにもかかわらず、村田さんは人ごとではなく、「助けなきゃ!」と自分に責任のある出来事だと感じました。さらに、村田さんは救出方法を考え出します。
村田さんは、父親が運転する自動車の助手席に座っていました。「助けなきゃ!」と感じた彼女は、即座に車から降り、「誰か非常ボタンを押してください」と叫びながら、踏切内の男性救助に向かいます。
これは、驚異的です。目の前のことに思わず手を差し伸べることはあるかもしれません。しかし、訓練も受けていない人間が、すばやくシートベルトを外し、車から降り、遮断機をくぐりといった行動を即座に取るのは、とても難しいでしょう。
また、この救出方法は大きな危険性があり、心理的なコストが大きいものです。普通なら、実行できません。しかし、これまでも様々な人助け行動をとってきた村田さんにとっては、その心理的コストは行動を押しとどめるほどの大きさにはならなかったのでしょう。
■残念でならないこと
ドラマなら、ぎりぎりのところで救出が成功するでしょう。しかし、現実はそうではありませんでした。自分から動こうとしない大人を一人で動かすことは、簡単なことではありませんでした。電車は、すぐそこに迫っていました。
プロは、様々な救出方法を学び、多くの訓練を積み、緊急事態に対応します。命がけで救出作業を行いますが、実際に次々と隊員が死亡しては困ります。助けることが可能か不可能かを、彼らは判断します。
素人は、時にすばらしい勇気を発揮して、見事な救出劇を見せるてくれます。一方、助けに行く勇気ある決断をしたものの、あきらめるという決断が遅れ、悲劇が生まれることもあるのでしょう。
■私達が学ぶべきこと
村田奈津恵さんは、思いだけではなく、実行しました。私達も、一時の感情ではなく、この出来事からきちんと学びたいと思います。一人の勇気ある行動は、私達にも勇気をもたらします。
救助のために踏切や海へ飛び込むことを勧めているのではありません。しかし、私達には勇気が必要です。都会では、多くの人がいても、「冷淡な傍観者」になりやすくなります。でも誰かが勇気ある最初の一人になれば、後に続く人がでます。
駅で、人が列車とホームの間に挟まれたとき、多くの人が列車を押して動かし、救出に協力しました(乗客ら40人電車押す ホームと車両に挟まれた女性救出:産経新聞2013.7.22)。
この時には、最初の一人が行動を起こし、みんなに呼びかけます。「あなたの助けが必要だ」と、そして「みんなで押してください」と人助けの方法を指示します。みんなで協力しますから、個人の心理的コストは小さくなります。
タイガーマスク運動(伊達直人の贈り物)が広がっていったように、人の心の中には、人助けの心はあるのです。
■我々意識
心理学の研究によれば、「我々意識」があると、人助け行動が起こりやすくなります。家族、友人ではなくても、私達の町、私達の駅、私達の海と思えると、こそで事故が起きることはとても辛いことになります。困っている人を助けたくなります。
高齢者や障がい者が、事故に遭いそうになり、だれかが決死の覚悟で救助に当たる、そんな緊急事態が起きる前に、誰かが声をかけたり、誰かが見守りの目を持てば、事故が未然に防げるかもしれません。
私も、ヒーローにはなれなくても、小さな親切ならできるかもしれません。そして、幸福感に関する心理学の研究によると、親切行動を続けている人は、幸福感の高い人です。今回、村田奈津恵さんがお亡くなりになったことはとても残念なことです。けれども、きっと村田さんは幸福感をいっぱい持った人だったことでしょう。
国土交通省よると、過去5年間で発生した踏切事故は1589件、このうち死亡者は599人です。今回の出来事を通し、市民も鉄道関係者も学び、実行し、事故が減ることを祈っています。そして、村田さんが望んだような、助け合う社会を作っていきたいと思います。
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■助け合う社会のために
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