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「猫の日」にちなんだ大井川鐵道の取り組み 地域を守るために鉄道会社ができること

伊原薫鉄道ライター
「猫の日」と川根小山駅にちなんで発売されたグッズ

○2月22日は「猫の日」

大井川鐵道井川線の川根小山駅 猫にちなんだ装飾が行われている(特記以外の写真は大井川鐵道提供)
大井川鐵道井川線の川根小山駅 猫にちなんだ装飾が行われている(特記以外の写真は大井川鐵道提供)

 きょう2月22日は「猫の日」である。「2(に)」と猫の鳴き声の「にゃん」をかけた語呂合わせで、1987年に制定されたそうだ。もちろん、この読み方は日本でしか通用しないわけだが、では外国はどうかというと、アメリカでは10月29日が、台湾では4月4日が猫の日とされているほか、国際動物福祉基金が定めた「世界猫の日」は8月8日だという。また、同じノリで1月11日は「犬の日」なのだろうか……と思ったら、犬の日は11月1日とのこと。記念日ひとつとっても、なかなか奥が深い。

 と、冒頭から話が脱線してしまったが、この「猫の日」にちなんで様々な企業が話題を提供している。たとえば、ヤマサちくわは猫形のはんぺん「にゃんぺん」が入ったおでんセットを今日から1週間限定で販売。黒猫がキャラクターとなっているヤマト運輸では、オリジナルグッズが当たるキャンペーンをSNSで展開している。

 そんななか、「猫の日」にちなんだ企画を大々的に展開している鉄道会社が、静岡県にある大井川鐵道だ。

○猫と大井川鐵道にどんな関係が?

 大井川鐵道は、金谷駅から千頭駅を経て井川駅に至る、全長65.0kmの鉄道である。このうち金谷~千頭間の本線ではSL列車を運行。大井川や茶畑が広がる車窓を楽しみながら、昔懐かしいSLの旅を堪能できる。また、2014年からは人気アニメ作品とコラボした「きかんしゃトーマス号」も期間限定で運行され、注目を集めている。

大井川鐵道で運行されている「きかんしゃトーマス号」(筆者撮影)
大井川鐵道で運行されている「きかんしゃトーマス号」(筆者撮影)

 ただし、SL列車も「きかんしゃトーマス」も猫とは関係がない。では、大井川鐵道がなぜ「猫の日」なのだろうか。実は、同社のもう一つの路線、千頭~井川間の井川線には、日本で6つしかない「“ねこ”が入っている駅」があるのだ。その駅とは、川根小山駅、つまり「かわねこやま」駅である。

川根小山駅の駅名標 確かに「ねこ」が入っている
川根小山駅の駅名標 確かに「ねこ」が入っている

 この駅名に目を付けた同社は、2020年から「猫の日」にちなんだグッズの販売などを行ってきたが、今年はさらにグレードアップ。乗車券セットやキーホルダーの販売に加え、井川線の列車に特別ヘッドマークを掲出した。普段、同線の列車には沿線の寸又峡温泉を描いたヘッドマークが取り付けられているが、特製ヘッドマークはこのイラストをアレンジしたもので、猫が温泉に入っている。にゃんとも、もとい、なんとも可愛らしいデザインで、猫好きの方はもちろん、そうでない方も思わず写真を撮ってしまうに違いない。

特製ヘッドマークを付けた井川線の列車(イメージ)
特製ヘッドマークを付けた井川線の列車(イメージ)

 ちなみに、井川線の列車は3編成ある一方、このヘッドマークが取り付けられているのは1編成だけ。つまり、出会えるかどうかは運次第である。もし乗車する列車が“ハズレ”だった時は、対向列車に注目だ。なお、ヘッドマークの掲出は2月26日までの期間限定となっている。同社ホームページ内の「井川線×ネコの日 特設ページ」では、列車に乗るネコなどが描かれたPC・スマホ用の壁紙を配布しているので、現地に行けない方は、ぜひ雰囲気だけでも楽しんでみてはいかがだろうか。

○縁起の良い駅が並ぶ

 ところで、大井川鐵道は川根小山駅以外にもう一つ、駅名にちなんだ話題作りが行われている。きっかけとなったのは、2020年11月にオープンした沿線の賑わい交流拠点「KADODE OOIGAWA」だ。新東名高速道路島田金谷インターチェンジ付近、大井川鐵道本線のすぐ横にあるこの施設は、地元の島田市と中日本高速道路、JA大井川、そして大井川鐵道の4者が連携して整備。お茶をはじめとする特産品の販売やカフェ、子どもの遊び場、観光案内所などが設けられている。

 大井川鐵道では、施設の開業に合わせて新駅の設置を決定。施設の運営会社が同駅の命名権を取得し、門出駅と名付けた。一方、同駅の隣にある五和(ごか)駅は、その読みが「合格」を連想させることから、以前より地元団体が“合格駅”としてPR活動を展開。駅舎内に「合格地蔵尊」を設置するなどしてきた。そこで大井川鐵道はこの活動にあやかり、門出駅の開業と同時に五和駅を合格駅へと改称。かくして、大井川鐵道にはなんとも縁起の良い名前の駅が2つ並ぶこととなった。

五和駅から改称された合格駅  駅名標も特別デザインだ
五和駅から改称された合格駅  駅名標も特別デザインだ

 両駅の誕生後は、受験生や就職活動中の学生が数多く訪れており、駅名標の写真を撮る姿もすっかりおなじみとなった。さらに、大井川鐵道は沿線の地蔵尊を巡る周遊バスの運行や、このバスと鉄道(一部区間)が一日乗り放題となる周遊きっぷの販売を期間限定で実施。地元と手を携え、地域おこしに力を注いでいる。縁起が良い名前の駅で、きっぷの販売や記念撮影スポットの設置などを行う例は全国で数多く見られるが、ここまで大々的に展開している例は極めて珍しい。

○「ゆるキャン△」とのコラボも好調

「ゆるキャン△」とのコラボ企画で千頭駅に設置されたボード 多くのファンが訪れた(筆者撮影)
「ゆるキャン△」とのコラボ企画で千頭駅に設置されたボード 多くのファンが訪れた(筆者撮影)

 大井川鐵道は沿線人口の減少、マイカー利用の増加などによる利用者減少が深刻であるのに加え、コロナ禍による観光客の激減、さらに2022年9月の台風被害による一部区間の運休が続き、非常に苦しい経営状況だ。そんななか、人々の興味を惹きつけ集客や増収を図るため、同社は今回紹介した事例のほかにも、様々な取り組みを行っている。

 たとえば、人気コミック・アニメ作品「ゆるキャン△」とのコラボ企画もその一つ。同作品に井川線が登場したことから、作品に描かれた場所を巡るキャンペーンを展開し、「びっくりするくらい多くの人が来てくれた」(同社関係者)そうだ。そして、その中には「大井川鐵道は、乗るどころか見たこともなく、その存在を『ゆるキャン△』で初めて知った」という人も少なくなかったという。

「ゆるキャン△」コラボのヘッドマークを付けた列車(筆者撮影)
「ゆるキャン△」コラボのヘッドマークを付けた列車(筆者撮影)

 こうした取り組みで訪れた人々は、鉄道を利用し、グッズを買い、そして地元のお店や施設を利用してくれる。大井川鐵道だけでなく地域全体に経済効果が表れるというわけだ。厳しい経営を迫られ、人手にも余裕のない同社にとって、様々な取り組みの原動力となっているのは「地域の足と暮らしを守る」という使命感であり、一方で地域の人々がそれを支えている。

 今後も大井川鐵道は、様々なアイデアと行動力で魅力ある取り組みを進めてくれることだろう。その奮闘に期待したい。

井川線随一の絶景スポット、奥大井湖上駅 貴方もこの景色を眺めに行ってみませんか?(筆者撮影)
井川線随一の絶景スポット、奥大井湖上駅 貴方もこの景色を眺めに行ってみませんか?(筆者撮影)

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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