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米国で問題になっている「タンブルウィード」って何?

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 米国発のニュースによると、モンタナ州でタンブルウィードと呼ばれる枯れ草が住宅地に押し寄せ、家屋をおおうほどになって問題になっているようだ。このタンブルウィードとはいったい何なのだろうか。

タンブルウィードは外来種

 若い世代にはあまりなじみがないかもしれないが、マカロニウェスタンなどの古い西部劇映画を観ていると、干し草の巨大なかたまりが砂ぼこり混じりの風に吹かれ、主人公の背後を転がっていく様子がよく描かれていた。この草のかたまりがタンブルウィード(Tumbleweed)で、まさに転がる(Tumble)雑草(Weed)そのままのネーミングになっている。

 最近の米国発のニュースによると、北西部のモンタナ州に強風が吹き、このタンブルウィードが住宅地へ大量に吹き寄せられて大変なことになっているという。タンブルウィードとは、乾燥して根から茎が分離し、風によって転がる複数の植物の総称で、何か特定の植物の名前ではない。

 主にヒユ科のロシア・アザミ(Salsola tragus L.)やアマランサス・アルバス(Amaranthus Albus)、キク科の白ヤグルマギク(Centaurea diffusa)といった被子植物で、米国には1800年代の後半に外来種として侵入したと考えられている。特にロシア・アザミは、1870年代にサウスダコタ州で確認されてから十数年後の1885年には南カリフォルニアにまで広がったという記録がある(※1)。

 ロシア・アザミの在来種は北米大陸にはなく、本来の原産地はロシア東部からシベリアまでのユーラシア大陸、北アフリカ、中東などとされ、米国へ渡ったロシア移民によって北米大陸に運ばれたと考えられている。ただ、米国へいつどうやって侵入したか、侵入後にどうやって広がったのか、遺伝的な進化や分岐はまだよくわかっていないようだ(※2)。

日常生活を脅かすタンブルウィード

 いずれにせよ、米国やオーストラリアなどの平坦で広大な乾燥地域では、このタンブルウィードが厄介な存在になっている。そもそも飼料や肥料などに利用できるほどの栄養価もなく、農耕地ではその旺盛な吸水力で水源を奪い、既存の生態系にも悪影響をおよぼす。

 タンブルウィードは、土壌の流出などによって土地の浸食や変形を促進すると考えられ、枯れて乾燥しているため、燃えやすく山火事の原因にもなる。筆者も米国中西部を旅したことがあるが、オフロード車のタイヤを貫通するほど鋭い棘を持つタンブルウィードも見かけた。

 何より厄介なのは、根から茎が容易に分離し、大量のタンブルウィードが風によって吹き寄せられ、枯れて硬い枝や棘などが絡み合って巨大化することだ。時には高さ数メートル、数十トンの重量にもなる。また、そうした地域では、タンブルウィードの花粉や棘によるアレルギー性の皮膚炎も多く発症しているそうだ(※3)。

 それらが集合して道路をふさいだり、住宅地では戸口やガレージをおおいつくし、警察や消防などの出動を妨害したり、住民の日常生活をさまたげる存在になる。住人にとって、こうしたタンブルウィードの山は常に火災の危険と隣り合わせだ。米国カリフォルニア州では、タンブルウィードの除去のために年間120万ドル(約1億8000万円)が投じられている。

 米国やオーストラリアなどでは、タンブルウィードの被害が無視できないほど大きく、それを防ぐための研究も多い。例えば、ロシア・アザミを駆除するための昆虫や細菌を探したり(※4)、除草剤を研究したりしている(※5)。だが、そもそもタンブルウィードは除草剤に強く、最近では多種類のタンブルウィードの交雑によって薬剤耐性も獲得しているようだ(※6)。

 日本に自生するタンブルウィードの植物はほとんどないようだし、乾燥地や平坦で広大な土地もないが、報じられているように米国やオーストラリアなどでは大きな問題になっている。外来種が環境へ悪影響をおよぼし、やがて人間の生活も脅かす存在になるのは世界中どこでも共通の問題だろう。

※1:James A. Young, "The Public Response to the Catastrophic Spread of Russian Thistle (1880) and Halogeton (1945)" Agricultural History, Vol.62, No.2, 1988

※2:Debra Ayres, et al., "Tumbleweed (Salsola, section Kali) species and speciation in California" Biological Invasions, Vol.11, 1175-1187, 28, October, 2008

※3:A. Ferrer, et al., "Allergenic Differences among Pollens of Three Salsola Species" International Archives of Allergy and Immunology, Vol.151, Issue3, 199-206, February, 2010

※4-1:Richard D. Goeden, Donald W. Ricker, "The Phytophagous Insect Fauna of Russian Thistle (Salsola kali var. tenuifolia) in Southern California" Annals of the Entomological Society of America, Vol.61, Issue1, 67-72, 1, January, 1968

※4-2:Dana Berner, et al., "Field assessment, in Greece and Russia, of the facultative saprophytic fungus, Colletotrichum salsolae, for biological control of Russian thistle (Salsola tragus)" Biological Control, Vol.76, 114-123, September, 2014

※5:Lincoln Smith, "Host plant specificity and potential impact of Aceria salsolae (Acari: Eriophyidae), an agent proposed for biological control of Russian thistle (Salsola tragus)" Biological Control, Vol.34, Issue1, 83-92, July, 2005

※6:Marcos Yanniccari, et al., "Constitutive overexpression of EPSPS by gene duplication is involved in glyphosate resistance in Salsola tragus" Pest Management Science, Vol.79, Issue3, 1062-1068, March, 2023

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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