「マンガ大賞2022」大賞作「ダーウィン事変」の魅力とは 交配種通じて人間の矛盾を突く
書店員などマンガに精通している人たちが、今一番面白いと思う作品を選ぶ「マンガ大賞2022」の大賞が、うめざわしゅんさんの「ダーウィン事変」に決まりました。そこで初めての人にも分かるよう、同作の魅力を紹介します。
「ダーウィン事変」は、半分はヒトで、半分はチンパンジーの交雑種(ハイブリッド)チャーリーの物語です。チャーリーは高校に入学するものの、「動物解放」を掲げるテロ組織「動物解放同盟(ALA)」に目を付けられており、同時にさまざまな人々の思惑が交錯するというストーリーです。タイトルの「ダーウィン」とは、「進化論」で知られるチャールズ・ダーウィンのことです。
第1話は、冒頭から先が見えないドキドキの展開が楽しめます。テロ組織(ALA)が生物科学研究所を襲撃し、流産しそうになった一匹のチンパンジーを発見、近くの動物病院に運びます。生まれたのは、人間とチンパンジーの間に生まれた交雑種だった……という内容です。そして15年後。チンパンジーの研究をする博士によって育てられたチャーリーは、地元の高校に進学するのですが……。
同作の魅力は、人間でも動物でもないチャーリーという「新しい存在」を通じて、人間の常識が揺らぐことです。また人間の持つ矛盾を突き付けられることで、読者をワクワクさせてくれることでしょうか。
チャーリーは、見た目はチンパンジーで愛らしい姿とは裏腹に、すさまじい能力を発揮します。作中では戦闘能力の高い、複数の敵の襲撃をものともしません。身体能力は人間をはるかに超えており、さらに瞬時の判断・処理能力も抜群。それでいてガールフレンドのルーシーとのやり取りでは、とても論理的な思考を見せます。そして人間を超える能力を持っているがゆえに、その異質性も浮き彫りとなります。
現実世界で、「人間」「チンパンジー」とネット検索をすると、予測ワードの一つに「交配」と出てきます。遺伝子の研究が進む現在、同作のストーリーは、フィクションとは思えない不思議な感覚があり、それでいてマンガの面白さがキチンと封じ込められています。
またチャーリーの存在を通して、人間の権利やエゴが浮き彫りになっており、読者にさまざまなことを考えさせてくれます。場合によっては、一部の人間がひどい発言をして、チャーリーのほうが人間らしく見えてしまうことも。人間とは何ぞや?とつい考えてしまうのです。
そして、先の読めないストーリー展開にもドキドキするでしょう。最初はチャーリーが学校でうまくやっていけるのか?……というところなのですが、話はどんどん膨らみます。テロ組織の動向、敵対する保安官、チャーリー誕生の秘密と狙い……といった具合です。そしてチャーリーが幸せであって欲しいと思わず願ってしまうのです。
マンガの魅力はいろいろありますが、その一つは、読者の予想を裏切る展開です。「ダーウィン事変」はその魅力がぎゅうぎゅうに詰まっています。