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もと阪神タイガースの野原祐也選手が、社会人野球のクラブチーム監督に就任

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
OBC高島の野原祐也新監督。ちょうど、この日に届いたウエアで撮影できました。

野原祐也選手(32)は2008年の育成ドラフト1位で阪神タイガースに入団し、1年目の2009年7月に支配下登録されて9月に1軍戦出場。“富山のおかわりくん”と呼ばれた長打力と、アンパンマンのような笑顔でファンに愛され、当時まだ現役選手だった金本知憲監督にいじられていたのが懐かしいですね。

しかし在籍期間は4年と短く、戦力外通告を受けて2013年から再び古巣のBCリーグ・富山サンダーバーズ(現在はルートインBCリーグ・富山GRNサンダーバーズ)に復帰。選手兼任コーチとしてプレーし、その間に12球団合同トライアウトも受けた野原祐也選手ですが、昨年会った時は「久しぶりに試合で走って疲れた(笑)」と、ほとんどコーチに専念という様子でした。11月に退団が発表されています。

OBC高島の選手寮がある周辺。2月半ばは、まだこんな雪でした。
OBC高島の選手寮がある周辺。2月半ばは、まだこんな雪でした。
遠くに、雪を乗せた伊吹山が見えます。
遠くに、雪を乗せた伊吹山が見えます。
選手寮である『大家寮』と、隣には室内練習場。
選手寮である『大家寮』と、隣には室内練習場。
室内練習場の中はこんな感じです。
室内練習場の中はこんな感じです。

その後のことを知らずにいたところ「監督をすることになったんです」と2月半ばに電話をくれたため、5日後の19日に行ってきました。山だけでなく田畑や道路にも雪が積もる滋賀県高島市へ。“野原新監督”の仕事場はOBC高島、横浜ベイスターズやメジャーリーグで活躍し、今季もアメリカでプレーする大家友和投手(40)がゼネラルマネージャーを務める社会人野球チーム(OBCは大家友和ベースボールクラブの略)です。

クラブチームとはいえ、滋賀県高島市の今津グラウンドを本拠地とし、同市新旭町にある選手寮は室内練習場や屋内ブルペンなども隣接した恵まれた環境。それは選手が勤務する地元企業や地域の皆さんの力添えがあってこそでしょう。恩返しにと、チームもいろんなお手伝いをしています。お邪魔した日も午前中は監督、選手が揃って『びわこ こどもの国ちびっこマラソン大会』で選手の伴走をしたり、タイム係やゴール係など務めたとのこと。

14時から始まる練習の前に、選手寮で野原祐也監督の話を聞きました。監督を引き受けた経緯、心境などです。それにしてもスリムになったような?「秋に引退して、100キロいくんじゃないかと思ったら、6キロ痩せました(笑)」。この日の練習を見ていても、太る心配はまったくないと思えますね。

嬉しさの次に押し寄せた不安

打診を受けた時の気持ちは?「えっ、監督!?という感じで…」。それが正直なところかもしれません。「大家さんから話があったんです。まず、大家さんに声をかけてもらったことが嬉しかったですね。独立リーグ(富山)で一緒にプレーした時もすごく勉強させてもらいましたし、まさかこういう形で声をかけていただけるとは」。驚きもかなり大きかったのでしょう。

室内練習場の入り口で。この日届いたウエア、全身ご覧ください。
室内練習場の入り口で。この日届いたウエア、全身ご覧ください。
室内でノックを打つところ。現役さながらのスイングも。
室内でノックを打つところ。現役さながらのスイングも。

すぐに返事をしたんですか?「嬉しいのが最初にあったけれど、責任が非常に大きいので不安も押し寄せてきて。少し待っていただいて考えさせてもらいました。本当は即答したい気持ちもあったんですが、責任重大ですからねえ。期待に応えたいのはあるけど、自分に務まるかどうか。迷惑をかけるのでは…と」。当時を振り返り、揺れる思いを話してくれます。

「一度練習を見に来てくださいと言っていただいて、来たんです。寮も室内練習場も今津スタジアムもある。環境がすごくよくてビックリしました。プロを目指している選手も多いし、とても力を入れてやっていると思った。こういうところから声をかけてもらった責任をまた感じて…」。やはり責任感がのしかかるわけですね。でも実際にチームを自分の目で見て、引き受ける決心をした野原監督。1月18日に就任発表があり、2月1日から練習開始となりました。

選手も野原監督も、地元の企業などに勤務して平日は仕事、夜に練習という環境。「仕事をしながら野球をやるということが今までとは全然違いますね。選手からも勉強させてもらっています」。確かに独立リーグもNPBも野球が仕事でしたから、そこにまず慣れないといけません。お世話になっている方々に挨拶するため高島市内を回ることも。「富山でも地元の皆さんの支えがあってやっていましたけど、高島市の皆さんの強い熱意を感じます。そのおかげでやれていることを、選手たちはよくわかっています」

超多忙でも「日々、勉強」

1月はそれぞれ自主練習、2月から全体練習が始まったわけですが、雪も多い季節とあって室内での練習がほとんど。私がお邪魔した前日の18日に、北大津高校のグラウンドを借りて今季初の屋外練習ができたところだったそうです。選手いわく「外でやるのは去年の11月23日以来」だとか。そこでフリーバッティングに登板して1時間投げ続けた野原監督は「ちょっと肩が…」と苦笑い。

室内練習場に併設のブルペンで球を受ける田中兼任コーチ。
室内練習場に併設のブルペンで球を受ける田中兼任コーチ。
投げるのは川上達也投手(27)。高島市出身、高島高校OBです。
投げるのは川上達也投手(27)。高島市出身、高島高校OBです。

実は田中息吹貴捕手(27)が今季からコーチ兼任になったものの、他にいません。野原監督が打撃コーチも投手コーチも兼任という形。せめて投手コーチは欲しいですよね。どなたか?

室内でのウォーミングアップのあと、野手は守備練習と打撃練習、ピッチャーはブルペンでピッチング、寮のロビーや食堂(一番暖かいからだとか)で体幹トレーニング、外でランニングという内容でした。野原監督はすべての場所を行ったり来たりしてノッカーを務め、ピッチングを見て、もちろん打撃の指導も。ランニングを見に行ったときは既に引き揚げてくるところでしたが、みんなに声をかけながら戻ってきます。新入団選手も6人(新人5、移籍1)いて、この日に入寮した選手との顔合わせもあったり、本当に忙しい。

体幹トレ中の那珂大心投手(23)。「150キロを投げる!楽しみ」と野原監督。
体幹トレ中の那珂大心投手(23)。「150キロを投げる!楽しみ」と野原監督。
中多淳投手(24)の腕を取り、トレーニングのやり方を教える監督。
中多淳投手(24)の腕を取り、トレーニングのやり方を教える監督。

体幹トレーニングをチェックしに行った際は、実際に足を持ったり腰を抑えたりしながらアドバイス。過去にケガもあったので、そこから学んだことは多いでしょう。「自分もそうでしたが、もしかしたら今でも気づいていないかもしれませんけど、20代前半にはわかっていなかったことが結構あります。自分自身が経験したこと、プラス勉強したことを伝えていきたいですね」と話していました。

楽しみも多いのでは?「楽しみは楽しみですが、その反面…」。そう責任ですね。「自分は監督1年目だけど、選手にとっては関係ありませんから。100点を目指して頑張っていきたい。日々、勉強です」。この生真面目さは阪神にいた頃とまったく変わりません。

とても大きい、新監督への期待

昨年に続いてキャプテンを務める佐竹誠人選手(27)に、野原新監督の印象を尋ねてみました。「コミュニケーションを取っていただいて、選手からも話しかけやすいです。話を聞いていただけるので」。キャプテンとしては、監督と選手とのパイプ役ですね。「そうなんですけど、でも他の子もいろいろ話しかけているので。親しみやすいというか、近い存在でいてくださるから助かっています」。すると野原監督が「頼りにしてるよ」とひとこと。

佐竹誠人(まこと)内野手。キャプテンです。
佐竹誠人(まこと)内野手。キャプテンです。
余聖傑(ユ・スンチェ)投手は昨年、左肘を手術しましたが、打ってもすごい!
余聖傑(ユ・スンチェ)投手は昨年、左肘を手術しましたが、打ってもすごい!

佐竹選手の今季の目標は?「都市対抗の近畿2次予選に行くこと。あとはクラブ選手権ですね。これに優勝すれば日本選手権もついてくるので。ただし上を見すぎず、目の前の試合を大事にしていきたいです。上を見すぎるとしんどくなってしまうから」。信頼も厚い、堅実なキャプテンです。監督をよろしくお願いしますね。

そうそう、もうひとつ、こんなことも。「このまえ監督のスイングを見て、メッチャ速いわっ!と思いました」と目をクルクルさせながら言います。確かに、この日の室内でノックをする際、ブンッと素振りした音を聞いて「おお~」と私も思いました。その他の選手たちは「練習にメリハリがある」「7年ぶりの新監督就任で、気分も変わるし新鮮な気持ち」「今までのOBC高島とは180度変わった」という感想です。周囲の期待も半端じゃないようで、これまた責任感がのしかかる?

「選手は財産。みんなを見てあげたい」

「将来的には監督をという思いはあったけど、まさかこんなに早くやるとは」と話す野原監督。監督になる夢が実現し、さて次の夢は?と聞いてみたら少し考えて「一日一日で精いっぱいですねえ。みんなに、ことしの目標を書いてもらったんですけど、それを達成できるようサポートすることが今の自分の目標。今はそれで精いっぱいです。なので先のことは…」という答え。浮ついたことは言いません。「なんとか選手をサポートしたい。そして高島市の皆さんのために、高島市を盛り上げられるよう頑張ります!」

ノックを受ける野手陣。
ノックを受ける野手陣。
松浪遼選手(23)の打撃に注目する監督。内野、外野、捕手ができるそうです。
松浪遼選手(23)の打撃に注目する監督。内野、外野、捕手ができるそうです。

練習を見ながら、ふと「監督になって思うのは、選手みんなが “財産” だということですね。みんな見てあげたい」という言葉がありました。選手でいた時には覚えなかった新しい感情でしょうか。そして「プロを目指す選手には目標を達成できるよう、また都市対抗やクラブ選手権の大会に1つでも近づけるようサポートしていきたい。口うるさく言うことも出てくると思いますけど。今はまだ探り探りの状態ですね」と続けました。あれから3週間近く経ったので、もう把握できているはずです。

「毎日、気を張っていますね。練習中だけでなく、車を運転していても、どこにいても常に緊張しています」とのこと。家でも?「はい。選手時代は家に帰るとリラックスできたんですけど、今は家に帰ったら反省と緊張。ずっと頭を使っていますよ。寝る前にも考えているし」。時間が全然足りないという感じかも。とにかく外での練習がなかなかできなくて、考えることは多かったでしょうね。

きょう3月11日が初采配!

3月に入って実戦がスタートします。本当は3月4日、NSBベースボールクラブとのオープン戦が今津スタジアムの今季開幕試合だったのですが、積雪で中止となりました。代わりに別のグラウンドを借りて実戦形式の練習を行ったとのこと。そのため、きょう3月11日に行われる佛教大学とのオープン戦(佛大園部グラウンド、13時)が野原新監督の初采配となります。

ランニングから戻ってきた投手陣と。
ランニングから戻ってきた投手陣と。
練習後、集合して監督の話を聞く選手たち。
練習後、集合して監督の話を聞く選手たち。

その後も土日祝はすべてオープン戦が組まれています。

【3月】

12日 朝日大 (朝日大) 13時

18日 北陸大 (今津) 13時半

19日 大和高田クラブ (わかさ) 9時※

20日 金沢星稜大 (今津) 12時

25日 愛知学院大 (愛知学院大) 10時

26日 京都学園大 (京都学園大) 10時

【4月】

1日 BCL福井 (県営福井) 10時、13時

2日 追手門大 (今津) 10時、13時

※印は、もともと『第139回 社会人野球京都府春季大会』での公式戦でしたが、OBC高島は3月11日の1次リーグ初戦をチーム事情により棄権しています。よって19日の2戦目、大和高田クラブとの試合はオープン戦として行われるそうです。ちなみに同じ滋賀のカナフレックス(もと阪神・藤井宏政選手が所属)は4日の初戦で宇治ベースボールクラブに12対0で7回コールド勝ち。次は19日にミキハウスベースボールクラブと戦います。

OBC高島の公式戦は、4月8日と9日に甲賀市民スタジアムで開催される『第88回 都市対抗野球大会 滋賀1次予選』が今季初戦。まず8日11時半から瀬田クラブとの対戦です。ここではOBC高島が2つ、カナフレックスが1つ勝てば決勝(9日の14時)で顔を合わせることになります。ただし優勝チームしか5月の京滋奈予選に進めないので…今年からは非常に複雑ですねえ。

もと阪神の社会人選手たちの今季は

また、もと阪神の選手が所属する他のチームについても少しご紹介します。それぞれオープン戦は既に行っていて、公式戦はきょう11日から始まる『JABA東京スポニチ大会』にパナソニック(阪口哲也選手)と新日鐵住金鹿島(玉置隆投手)が出場。12日には直接対決がありますよ。パナソニックは4月3日からの『JABA静岡大会』にもエントリーしています。早々に日本選手権の切符を手に入れたいところでしょう。

野原監督、いい笑顔でしょう?
野原監督、いい笑顔でしょう?

和歌山箕島球友会は4月9日の都市対抗1次予選から公式戦スタートです。昨年逃したクラブ選手権にも出ないといけませんから、みんな気合が入っているはず。穴田真規選手もオープン戦でホームランや長打を打っていました。3月28日にはパナソニック(パナソニックスタジアム)との試合もありますね。

そして昨年で引退した三菱重工長崎の野原将志さんは現在、不動産会社で営業の仕事をしていて、今月まで研修を兼ねて大阪に滞在中。先日は休みを利用して同僚と甲子園へオープン戦を見に来たのですが…江越選手は教育リーグに出場中、松田投手は登板せずと長崎勢の出番がなくて残念。でもスタンドからの景色や通路の売店を初体験し、そこそこ楽しんだみたいですよ。今度はナイターのジェット風船をスタンドで見たいと言っていました。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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