「宅二郎」と「ラーメン二郎」の商標問題について
ちょっと前ですが「ラーメン二郎をパクリすぎて炎上した宅二郎が商標登録完了 / 二郎が異議申し立てか」(ガジェット通信)というニュースを読みました。
熱狂的ファンのいるラーメン、ラーメン二郎(私もかつてはファンでしたが年齢的に厳しくなりました)ですが、正式な暖簾分け店とは別に、類似店(いわゆる二郎インスパイア店)が数多くあるのは周知かと思います。インスパイア店は本家二郎と紛らわしくないよう、名称や店の外観に留意することが業界の"仁義"になっていると思います(大昔に本家による「ラーメン二郎」の商標登録についてブログ記事を書いています)。
一般に、外食業界ではある程度のインスパイアは許容されるかと思います(そもそも、Wikipedia記事によれば、「ラーメン二郎」という名称の由来も当時流行っていた「ラーメン太郎」というインスタントラーメンのもじりであるそうです)。しかしやはり許されるインスパイアにも限度はあり、宅配専門のインスパイア店が「宅二郎」という店名を使い、ラーメン二郎の店舗の特徴である黄色背景の看板を使用したことに対して、許容限度を超えたと判断したラーメン二郎本店の経営者がクレームを入れたのがこの事件の発端です。クレームに対して「宅二郎」側も折れて、店名を変更し、一件落着かと思いきや、商標登録はされたままという状態になっているのが問題ではないかというのが冒頭記事の骨子です。
問題の「宅二郎」商標登録は6280422号です。今年の4月4日に出願され、早期審査請求を行なったことから、8月11日は登録になっています。何件か情報提供(刊行物等提出書)が行なわれています。「宅二郎」を商標登録すべきでないと考える人達が、「ラーメン二郎」の周知性を主張するための証拠書類を提出したものと思われますが、特許庁審査官はこれをスルーして登録査定を出してます。「ラーメン二郎」と「宅二郎」が混同を生じるとまでは言えないと判断したものと思われます(なお、黄色の看板は商標使用時の態様の話なので出願の審査段階では関係ありません)。
登録後に異議申立が行なわれています。ここでも、「ラーメン二郎」と「宅二郎」との混同のおそれについて争われているものと思われますが、決定が行なわれるまで内容はわかりません(請求人が誰かもわかりません)。
ここで、宅二郎の運営会社は、店の名称を変更したのだから、「宅二郎」の商標権を持っていてもしょうがないので放棄すべきでは(厳密に言うと、放棄してしまうと第三者がまた「宅二郎」を出願して権利化してしまうリスクがあるので、ラーメン二郎側に商標権を譲渡すべきでは)という疑問があります。実は、この運営会社は、現在「宅二郎」という商標をテイクアウト・宅配専門のおむすび屋さんに使用しているようです。ラーメン屋ではなくおむすび屋に使用しているので顧客の混同は生じない、そして、そもそも審査段階で「ラーメン二郎」と「宅二郎」は非類似とされたことから「宅二郎」の商標権をラーメン二郎に対して行使することも困難なので、商標権を保持していても問題ないという理屈かと思います。ラーメン二郎側がこれに納得しているかどうかはわかりませんが。
ところで、「宅二郎」の商標登録では役務(サービス)として「飲食物の提供」(43類)が指定されています。しかし、この役務はレストランの運営(店内で食べる飲食物の提供)のことなので、テイクアウト・宅配専門のおむすび屋に使用するのであれば、本来は「おにぎり」(30類)を指定すべきなのではないかと思います。
タイトル画像出典(CC BY 2.0):https://www.flickr.com/photos/takeshik/16228648366