やり返されたら困る攻撃をして、相手にやり返される顛末
色々ややこしい事態になっているようです。今回は個人情報が絡むだけに、直接的なリンクや名前の表記は避けたいと思います。
シリアの内戦と難民問題が世界的課題になっている中、日本の漫画家が難民の少女を中傷する絵をフェイスブック上にアップしました。これには非難が殺到し、国際的にも報じられています。
この絵自体は批判を受けて作者が削除したものの、以降もSNS上でくすぶり続けていました。
そんな中、ある市民団体に所属するツイッターアカウントが、問題の漫画家の絵を評価するフェイスブックアカウント337人の名前、プロフィールURL、居住地、出身校、勤務先のリストを作成し、公開すると表明し、実際に多数が閲覧出来る環境でリストが公開されました。
で、このような攻撃手法ですけども、「公開情報だからそれを公開することは問題ない」と思われるかもしれませんが、実は限りなくブラックです。というのも、公開されている電話帳の電話番号をパソコン通信の掲示板に転載した行為が、プライバシー侵害に当たると裁判所が認定した判例があるのです(掲示板プライバシー侵害事件(平成11年6月23日神戸地裁判決))。今回の行為も、かなり際どいとこだと思います。
さて、漫画家の絵や表現に批判はあれども、さすがに賛同する人間のプライバシーまで暴き立てて晒すというのはどうなんでしょうか。その行動についてはやはり批判を受けましたが、それからすぐに『報復』も受けました。同じことをやられたんですね。
問題のリストを作成・公開したアカウントが、SNS上の断片情報から本名・勤め先を暴かれました。そして、その勤め先が現在整備が進んでいるマイナンバーのセキュリティを官公庁向けにも提供するセキュリティ企業だったことから、個人情報を保護する企業の人間が個人情報の暴露に積極的に関わるってどうなのかと大批判を受け、ネットの炎上事案となりました。
リスト公開アカウントは今は削除されておりますが、会社にも騒動が伝わっているのは確実で、休暇明けになんらかの対応が取られるのではないかと思われます。
プライバシーの暴露に対し、同じ暴露でやり返すのもアウトですけども、やはり最初にやったという既成事実と口実を相手に与えてしまったのはいかにも悪手だったと言わざるを得ません。「やったら相手が困る」攻撃というのは、「やられたらこっちも困る」攻撃であることが多いのですが、それを考えずに社会的地位にある人間がやらかしてしまうのはなあ……と少々呆れ気味でもあります。
「やられたら困る攻撃法をしてしまう」事例は、人類の歴史を振り返れば、様々なところで見られました。特に国民国家が成立する前、傭兵や戦士階級による戦争が主だった時代は戦争をコントロールする権力が弱かったため、悲惨な結果となることもありました。強力な国民国家の出現と、国家・多国間の協定によって「やってはいけないこと」のルールが作られ、際限無い破壊に一定の歯止めが効くようになったのは19世紀後半から20世紀に入ってのことです(戦争のルールについては以前の記事にて)。そういう意味で、ネットというのはまだ権力による統治の行き届いていないフィールドなのかもしれません。
米共和党のトランプ大統領候補も、対立候補の電話番号暴露攻撃を行っていましたが、最近はそういう過激路線にも冷ややかな目が向けられるようになったか、支持率2位に転落してしまいました(共和党支持率トップ争い、神経外科医vs不動産王)。これだけが支持率低下の理由ではないとはいえ、プライバシー暴露はマジョリティーの目にも良い印象を与えない例、なのかもしれません。
しかし、こういう実名制SNSの嫌なとこが如実に出た炎上です。実名制だから炎上し難いという話も某社様から言われてたりしたんですが、フタを開けると炎上の宝庫ですね。フェイスブックのこういう騒動がイヤなので、「氏名:dragoner」、「通っていた学校:金正日政治軍事大学」のような無茶苦茶なプロフィールでも、心よく受け入れてくれるGoogle+がぼくは大好きです。