「ウクライナの夢」世界最大の航空機An-225破壊とその影響
※追記:日本時間3月2日1時33分にアントノフ社公式アカウントが、「夢は燃えていない」とツイートしました。詳細判明次第、反映致します。
※更に追記:日本時間20時過ぎ、同機が破壊されている映像が確認されました。破壊は事実の模様です。
世界最大の航空機の破壊
ロシアによるウクライナ侵攻が続いている中、悲しいニュースが入ってきました。
世界最大の航空機でウクライナに1機しかないAn-225(ムーリヤ)が、キエフ近辺の空港でロシア軍に破壊されたことが明らかになりました。ウクライナ政府の公式Twitterアカウントも破壊されたことを伝えています。
2月24日にキエフ近郊にあるホストーメリ空港がロシアの空挺部隊による攻撃を受けた時、同空港はウクライナ国営アントノフ航空の拠点がありAn-225が駐機されている空港のため、航空ファンの中には同機を心配する声もありましたが、懸念が現実のものとなったようです。
宇宙機輸送から民間貨物輸送へ
An-225は元々、旧ソ連が開発していた「ソ連版スペースシャトル」とも呼ばれる宇宙機ブランを輸送するために、既存の輸送機An-124(ルスラーン)を原型にアントノフ設計局(現アントノフ社)が開発した機体で、6発のエンジンを備えた巨人機でした。1988年に初飛行したものの、肝心のブランが宇宙を1回無人飛行した後にソ連崩壊によって立ち消えになり、目的を失ったAn-225は長らく放置されていました。
しかし、特大型貨物の航空輸送需要が高まると、2002年にAn-225による商業飛行が開始されました。日本には2010年2月にはハイチPKOに参加する自衛隊機材を輸送するために成田空港に初来日。その後も2011年3月に東日本大震災による原発事故を受けて、フランス政府が援助した放射線測定機材などの救援物資を輸送しました。また、2020年の新型コロナウイルス流行後は中国から世界中に医療物資を輸送するため飛行しており、中部国際空港にも給油のために複数回飛来しています。世界中で活躍していたわけです。
原型機An-124の商業飛行は
世界最大の航空機であるAn-225は失われてしまいましたが、An-225の原型となったAn-124はAn-225が登場する前に世界最大だった航空機で、アントノフ航空でも商業飛行が行われています。
日本でもソ連時代から同型機が頻繁にチャーターされていて、広島電鉄の車両輸送、自衛隊のイラク派遣、更にはボージョレ・ヌーボーの輸入等にも使われたことがあり、日本に頻繁に飛来していました。2月にも中部国際空港に飛来しています。
筆者が航空機の位置情報サイトflightradar24で調べた所、アントノフ航空が所有する7機のAn-124のうち、5機はウクライナ国外にいるようです。しかし、ウクライナ情勢が安定しないことにはウクライナに戻れませんし、戻ってもアントノフ社がメンテナンスを行える状況かは不明です。
先のAn-124による自衛隊のイラク派遣輸送では、ロシア企業所有のAn-124が使用されていました。しかし、今後はロシアへの経済制裁の絡みで使えなくなる可能性があり、ウクライナのAn-124も使えるか分からない以上、両国を合わせて十数機のAn-124が使えないことになると、実質的に特大型貨物輸送で使える民間機が激減することになります。
An-124は米ボーイング社の最新貨物機であるB747-8Fより貨物室の長さは短いものの、より広い貨物扉を備え、より高く幅のある貨物を搭載できるため、他の機体で輸送できない貨物も考えられ、大きな影響が出てくるかもしれません。
An-225再建とウクライナの夢
先に引用したウクライナ政府アカウントのツイートでは、An-225を再建することも表明されています。また、ウクライナには未完成のAn-225が残されており、これを元に製造するという声もあります。しかし、An-225のような巨人機は、ソ連の宇宙計画という国の威信を懸けたプロジェクトがあったから完成した面もあり、商業面で考えれば再建が割にあうかは疑わしいものがあります。
実際、アントノフ航空の親会社であるウクライナ国営企業ウクロボロンプロムのゼネラルマネージャーの声明では、An-225の再建には30億ドル以上の費用と5年の歳月がかかるとしており、その費用は同機を意図的に破壊して損害を与えたロシアに支払わせると表明しています。しかし、現状ではその見通しは立っておりません。同声明は次のように続きます。
ソ連の宇宙開発のために作られたAn-225は、ソ連崩壊後にウクライナの夢となりました。再び、夢が空を飛ぶ日は来るのでしょうか。