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駅名の「かぶり」どう回避する? 国名に郡名、「新○○」に「○○市」駅など11の命名方法

清水要鉄道・旅行ライター
武蔵境駅 国名の「武蔵」を冠することでかぶりを回避している

 日本全国に9000近くある駅を識別し、あるいは所在地や最寄り施設の存在をアピールするものである「駅名」。本来ならその駅と他の駅を区別するためにもかぶるのが望ましくないものだが、時にはかぶってしまうことも。だが、かぶっていては目的地への経路検索や運賃検索の上で様々な問題が生じてしまう。もちろん鉄道会社としても駅名の「かぶり」を回避するために様々な工夫をこらしてきた。

 この記事では駅名「かぶり」回避のために取られてきた命名方法のうち主な例を実例とともに紹介していこう。

1.国名を冠する

三河一宮駅
三河一宮駅

 駅名「かぶり」を回避するために取られる方法としてもっとも多いのは国名を冠する方法だ。「国」は古代の律令制から明治の廃藩置県まで主に用いられていた行政区分で、現代でも地域を指す呼称として用いられることが多い。最も多いのは愛媛県の「伊予」で、実に25駅もある。一般的にはあとから開業した駅が国名を冠するため、和歌山県や山陰、四国など鉄道の開通が遅かった地域ほど国名駅が多い傾向にある。

 ただし一部例外もあって、それが「○○一ノ宮」と「○○境」だ。「一ノ宮(一宮)」駅は大正時代には千葉、愛知、岡山、山口の4県に存在しており、特に愛知県には「三河」「尾張」の「一ノ宮」駅があったため同名駅が県内でかぶるという状況だった。これを解消するべく大正5(1916)年1月1日に一斉に改称を行って「上総一ノ宮」「三河一宮」「尾張一ノ宮(現:尾張一宮)」「長門一ノ宮(現:新下関)」となっている。岡山県の一宮駅も一か月遅れで改称して「備前一宮」となり、これにより無冠の「一ノ宮(一宮)」駅は消滅したが、その10年後に開業した香川県の琴平電鉄(現:高松琴平電鉄)の「一宮」駅が「讃岐」を冠さなかったために復活することとなった。

 「境」駅の場合は、秋田県、東京府(当時)、鳥取県に存在したが、大正8(1919)年7月1日に一斉改称し、それぞれ「羽後境」「武蔵境」「境港」となっている。

2.県名を冠する

群馬八幡駅
群馬八幡駅

 昔の行政区分である「国」の代わりに現在の行政区分である「県」を冠する例も多い。ただし、国名と比べると限定的で、「岩手」「群馬」「愛知」の3県しかない。「宮城野原」や「さいたま新都心」などは県名ではなく、古来の地域名「宮城野」や、「さいたま市」由来の地名なので、県名を冠する駅とは事情が異なる。

 ではなぜ県名を冠した駅が少ないのか。理由としては県名と同じ都市名がある場合、基本的には県名と同一の駅名(青森駅や栃木駅など)も存在するので、ややこしくなってしまうこと、国名で事足りてしまうことが挙げられる。事実、岩手県、群馬県、愛知県ともに県名と都市名がかぶらない県だ。

 この3県のうち岩手県には「陸前○○」「陸中○○」、愛知県には「三河○○」「尾張○○」という駅名があるが、群馬県には「上州○○」はあっても「上野○○」という駅名はない。これは「上野(こうずけ)」が東京の上野駅と被って紛らわしいからだとされており、群馬県内の国鉄(→JR)では「群馬八幡」「群馬総社」などのように「群馬」を冠するのが一般的だ。一方で私鉄の上信電鉄は国名由来の「上州」を使っている。

 「愛知○○」駅は「愛知御津」駅ただ一つだけで、他の駅に合わせるなら「三河御津」となるところを、「既に三河○○が多いから」という理由で「愛知」を冠している。「愛知大学前」駅は大学由来の駅名なのでここで挙げる例には当てはまらない。

3.郡名を冠する

魚沼中条駅
魚沼中条駅

 国や県よりも小さい行政単位「郡」を冠した駅名もまた局地的に見られる。青森県の「津軽」、福島県の「会津」「安積(あさか)」、栃木県の「那須」、神奈川県の「高座」、新潟県の「魚沼」「頚城(くびき)」、長野県の「安曇(あずみ)」「木曽」「伊那」「佐久」、岐阜県の「郡上」、鹿児島県の「頴娃(えい)」などだ。駅名として消えたものだと愛知県の「碧海(へきかい)」もあった。

 郡名を冠した駅が主に見られるのは青森県の「陸奥」や新潟県の「越後」、長野県の「信濃」などのように一つの国の範囲が広かったところで、魚沼中条駅のように、同じ「越後」に同じ「中条」駅がある場合に命名されることが多い。

4.市町村名を冠する

鹿角花輪駅
鹿角花輪駅

 郡名と比べると一気に少なくなるが、市町村名を冠した駅名も存在する。その多くは「郡山富田」「ひめじ別所」などのように近年開業した駅だ。ただし、「石巻あゆみ野」「ひこね芹川」などのように同名駅がないのに市町村名を冠する例も見られるため、「市町村名+所在地名」という命名自体が近年の流行りと見ることもできる。

 新駅だけでなく、自治体名をPRするために既存の駅を改称する場合もあり、「陸中花輪」を改称した「鹿角花輪」が代表例だ。こちらも「えびの飯野」のようにかぶらないのに市町村名を冠した例が見られる。

5.会社名を冠する

JR藤森駅
JR藤森駅

 近くに他の鉄道会社の同名駅がある場合は、しばしば会社名を冠する方策がとられる。JRではJR西日本のみで見られ、「湊町」を改称した「JR難波」、「上田辺」を改称した「JR三山木」を除き、JRになって以降の新規開業駅である。平成9(1997)年開業の「JR藤森」がその端緒で、以降「JR小倉」など京都府・大阪府・奈良県の新駅で命名された。おおさか東線は全14駅中実に5駅が「JR○○」駅である。

 会社名を冠する駅は私鉄では古くから見られ、「東武」「西武」「京成」「京王」「小田急」「京急」と関東大手私鉄に多い一方、関西大手および準大手私鉄では「近鉄」「京阪」「神鉄」「山陽」と採用例は限られる。大手では他に「西鉄」があるほか、名古屋鉄道では「名鉄」「名電」が混在している。

 珍しい例としては東京メトロの「地下鉄○○」で、「地下鉄成増」「地下鉄赤塚」の2駅のみ見られる。営団地下鉄時代は「営団成増」「営団赤塚」だった。

 また、神戸高速鉄道は「高速○○」で、「高速神戸」「高速長田」がある。

 富山地方鉄道と一畑電車は「電鉄○○」で、かつては神戸電鉄や山陽電鉄も「電鉄○○」を使用していた。

 他に東葉高速鉄道の「東葉勝田台」、東京都交通局の「都電雑司ヶ谷」、東京モノレールの「モノレール浜松町」、伊豆急行の「伊豆急下田」、北越急行の「ほくほく大島」、北陸鉄道の「北鉄金沢」、愛知環状鉄道の「愛環梅坪」、四日市あすなろう鉄道の「あすなろう四日市」、広島電鉄の「広電○○」、高松琴平電鉄の「琴電○○」がある。

6.「本」を冠する

本厚木駅
本厚木駅

 街外れに元々「○○」駅があり、後から中心部に駅ができた場合は「本○○」を名乗る場合が多い。「厚木」に対する「本厚木」、「塩釜」に対する「本塩釜」などがその例だ。この場合、海老名市にある「厚木」駅のように元の「○○」駅は○○市ではなく隣の市町村に所在するという例も珍しくない。「本川越」の場合は、かぶり回避だけでなく「川越駅よりもこちらの方が本来の川越市街地に近い」というアピールのために「本」を冠しているという面もあるだろう。

 読みは基本的に「ほん○○」だが、「本星崎」のように「もと○○」も少数ながら存在する。

7.東西南北を冠する

北金岡駅
北金岡駅

 「○○」駅の北に新しい駅ができた場合に駅名を「北○○」とするのはそう珍しいことではないが、時に遠く離れた土地に「北○○」駅ができる場合もある。「広島」駅に対する「北広島」駅があるのは広島県ではなく北海道で、所在地の広島町が市制施行する際には駅名に合わせて北広島市となった。

 秋田県山本郡三種町の「北金岡」の場合、大阪府堺市の「金岡(現:堺市)」駅と区別するために「北」を冠したもので、金岡駅の名が消えて久しい今も「北」を冠している。

 方角を冠する駅の亜種として「中央○○」駅があり、「中央弘前」「中央前橋」は地方私鉄のターミナル駅で、「中央林間」はニュータウン駅だ。

8.「新」を冠する

新平野駅
新平野駅

 新しくできた駅の方に「新」を冠するのもよく見られる方法だ。「新大阪」「新神戸」のように新幹線駅で採用されることも多いが、「新三田」「新茂原」のように新幹線が絡まない場合でもよく採用される。「新平野」や「新吉野」は遠隔地の駅と区別するために「新」を冠した例だ。

 「栃木」に対する「新栃木」、「可児」に対する「新可児」のように後からその都市に乗り入れた鉄道会社が自社駅に「新」を冠する場合があり、東武鉄道や名古屋鉄道などに見られる。福井鉄道は「武生新(現:たけふ新)」「福井新(現:赤十字前)」と、後ろに「新」をつけていた。

9.「○○市」「○○町」を名乗る

上野市駅
上野市駅

 既に他社の「○○」駅がある都市に後から乗り入れた鉄道会社が自社の駅を別につくった場合、「○○市」「○○町」という駅名をつける例が多い。「高槻(JR)」に対する「高槻市(阪急)」のように私鉄の方が「○○市」を名乗るのが一般的だ。「上野市」駅のように合併で市名が替わってもそのまま名乗り続ける例もある。

 かぶりを避ける相手は近隣の駅とは限らず、埼玉県狭山市の「狭山市」駅は大阪府大阪狭山市の「狭山」駅と区別するために「市」をつけたものと思われる。ただし、のちに改称で「大阪狭山市」駅も誕生しているのがややこしいところだ。

 兵庫県の「社町」駅は長野県の「屋代」駅とのかぶりを避けるために「町」をつけたものと思われるが、このように「同音異字」駅名に配慮する例も多い。

10.地形をつける

浜金谷駅
浜金谷駅

 駅名の前後に「山」「川」「谷」「浜」といった地形を表す漢字をつけることでかぶりを回避する例もある。「金谷」に対する「浜金谷」が代表例だ。こうした地形駅名は、「○○山」や「○○川」という地名も存在することが一般的なので、かぶり回避が目的なのか判別しづらい。見分け方としては「千葉県富津市金谷」のように所在地名が無冠であるかどうかだが、こうした地名も駅開業時と変わっている場合もある。

 川の上流・中流・下流に由来する「上○○」「中○○」「下○○」もこれの一種で、無冠の「○○」駅が先に遠隔地に存在している場合はかぶり回避の意図があると考えられる。

 地形ではなく港という施設だが「大津港」「境港」もこの類例に加えてよいだろう。

11.漢字を変える

幸田駅
幸田駅

 漢字を変えることでかぶりを回避する例もある。「広田(こうだ)」だったのをかぶり回避のために漢字を変えた愛知県の幸田駅がその代表例だ。幸田駅のように地名の方も駅名に合わせて改称される例もあるが、足尾線(→わたらせ渓谷鉄道)の「神土→神戸(ごうど)」駅のように本来の標記に戻される例もある。わたらせ渓谷鉄道には「相老(あいおい)」駅もあり、これも兵庫県の相生駅とかぶらないように漢字を変えているが、東武鉄道との共同使用駅ということもあってか、神戸駅のように本来の標記に戻ることはなかった。

 以上、ざっくりとではあるが駅名かぶり回避策としてよく使われる11の命名方法を紹介した。この記事が読者諸氏が駅名に目を向けるきっかけとなれば幸いである。

鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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