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ギリシャのユーロ離脱は時間の問題―金融支援得られずロシアに接近か

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
アラン・グリーンスパン元FRB議長=Wikimedia Commonsより
アラン・グリーンスパン元FRB議長=Wikimedia Commonsより

緊縮財政とトロイカ(EUと欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金)との決別を公約したギリシャの新政権は今年だけで250億ドル(約3兆円)の債務返済が予定される。EUの金融支援がなければ3月には返済資金が枯渇する恐れがある。EUとの対立はギリシャをユーロ圏から離脱させ、ロシアとの連携強化に導くとの懸念を強めている。

ヤニス・バルファキス財務相は2月11日のユーロ圏財務相会合で、EUからの緊縮財政圧力を和らげるため、既存の債務を同国の将来の名目経済成長率に応じて返済額(例えば成長率が7%超であれば全額返済)を決め、景気回復後に返済を開始するというGDP連動国債に変更するデット・デット・スワップを提案した。しかし、ECBのイェンス・ワイトマン理事(独連銀総裁)はロイター通信の2月12日付電子版で、「ギリシャには、すでに返済期日の延長や金利減免、一部の債務では返済猶予も実施済み。従って返済条件の変更は短期的にはギリシャの資金繰りの助けにはならない。(金融支援の見返りに)ギリシャが達成すべき目標(緊縮財政など)を減免することは債権者の信頼回復に逆効果となる。ギリシャは既存の合意に従えば追加金融支援が得られる」と指摘する。

また、ECBのピーター・プラート専務理事も英紙フィナンシャル・タイムズ(『FT』)の12日付電子版で、「ギリシャの銀行はジャンク級の国債でもそれを担保に緊急流動性支援(ELA)を受けることができるという免責条項が適用されているが、もし、ギリシャがEUの現行の救済プログラムを一方的に破棄すれば2月11日(その後18日に延期)以降はこの免責条項が停止し、ギリシャの銀行はELAを受けられなくなると警告してきたが、重要なのはギリシャの銀行に返済能力があることだ」と釘をさす。

この発言の真意について、『FT』のクレア・ジョーンズ記者は、「これは、もしギリシャが2月28日までに債権者と新たな救済プログラムで合意しなければ、それ以降はELAが打ち切られ、ギリシャの銀行システムだけでなく、最終的にはユーロ圏のメンバー国として存続できないことを意味する」とし、ユーロ圏離脱の可能性を否定し得ないという。その後、ECBは2月13日にギリシャに対するELAの免責事項の停止期限を18日に延期し、50億ユーロ(約22兆円)のELAを実施したものの、依然としてギリシャの新救済プログラムが成立しなければELAは打ち切られることになることに変わりはない。

その後、ギリシャは2月20日に、既存の2400億ユーロ(32.4兆円)の救済プログラムを6月末まで条件付きで延長することで合意した。しかし、AP通信のローン・クック記者らは20日付電子版で、「この合意は、ギリシャは破たんを少なくとも4カ月猶予され、国外への資本流出を防ぐ資本移動規制が不要となり、銀行は当面取り付け騒ぎを回避できたに過ぎない。期限後は再び多額の債務返済が待っている」と、時間稼ぎに過ぎないと指摘する。 

グリーンスパン氏、ギリシャのユーロ圏離脱と世界金融市場の混乱を予測

米連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン元議長も英BBC放送のラジオ局BBC4の番組で、「誰も好き好んでギリシャに追加金融支援はしたくはない。ギリシャは追加支援がなければデフォルトとなり、ユーロ圏を去ることになる。ギリシャがユーロ圏を離脱するのが最善の解決策だと分かるのは時間の問題だ。現行の救済プログラムが失敗すれば、ギリシャの新政権は新たな救済プログラムが認められる資格はない。なぜなら、2度も救済プログラムの失敗は許されないからだ」という。

また、同議長は、「ギリシャのユーロ圏離脱は、世界的な金融市場の崩壊を引き起こす。ユーロ圏の全加盟国が財政統合したとしても、単一の政治統合体にならなければ、単一通貨「ユーロ」は存続し続けることはできない」と話す。これはギリシャのアレクシス・ツィプラス新首相が2月8日に議会でEUの現行の救済プログラムを破棄し、新プログラムの締結を目指す方針を示したと同じ日にBBC4で述べたものだ。

また、ギリシャがEUの2月28日以降、新たな金融支援が得られない場合、ロシアとの連携を強化するとの観測が広がってきた。ロシアのアントン・シルアノフ財務相は1月29日に米経済専門オンラインメディアCNNマネーに対し、「もし、ギリシャが金融支援を求めてくれば、是非とも検討したい。その場合、両国の関係をあらゆる面から検討することになる」と積極的だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領もスプートニク(旧ノーボスチ通信)の1月28日付電子版で、「両国は現在の欧州や世界の問題を一緒に解決を目指せる」と述べるほど、EUと米国の対ロ制裁を受けているロシアとしてはEUの中で対露制裁に批判的なギリシャの新政権との関係強化には力が入る。

英国のマンチェスター大学のディミトリス・パパディミトリウ教授(政治学)は、スプートニク(旧ノーボスチ通信)の1月28日付電子版で、「ギリシャの政権与党である急進左派連合(SYRIZA)と社会主義運動党(PASOK)はプーチン支持で知られ、両国がより緊密な関係になる可能性は高い。ギリシャのニコス・コジアス外相は東西冷戦時代、ギリシャ共産党とのパイプがあり、ロシアを支持していた経歴がある」という。独ベレンバーグ銀行のエコノミスト、ホルガ―・シュミディンク氏もスプートニクで、「ギリシャは新しい資金と信頼できるバックストップ(安全装置)としての流動性を必要としている」と言い切る。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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