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ワクチン接種に対する心理は、4月からの5か月間でどう変化したか そしてその理由は?

原田隆之筑波大学教授
(写真:Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート)

ワクチン接種に関する調査

 コロナウイルス感染症に対する人々の心理は、この1年半の間に大きく変化している。それと同じように、ワクチン接種に対する心理も大きく変化している可能性がある。

 それをデータで実証するために、ワクチン接種が本格化し始めた2021年4月と現時点(9月)のワクチン接種に対する人々の考えを調査し、比較した(N=1,000)。

 前回の記事(「ワクチンを接種した/したい」が85.5% 若者の接種希望も大幅増)で、その調査の概要を紹介したが、抜粋すると以下のとおりである。

・全体では、「2回接種済」「1回接種済」「予約済」「多分接種する」「絶対に接種する」を合わせた「接種した/したい」人は、全体の85.5%

「多分接種しない」「絶対に接種しない」人は、8.9%

・年代別では、年代が上がるごとに「接種済」の割合は大きくなり、「2回接種済」は60代82.6%、70代以上88.0%

・「多分接種しない」「絶対に接種しない」を合わせると、60代4.7%、70代以上6.6%

・20代、30代では、「2回接種済」「1回接種済」「予約済」「多分接種する」「絶対に接種する」を合わせた「接種した/したい」人は、20代80.1%、30代76.2%

「多分接種しない」「絶対に接種しない」は、20代10.5%、30代11.5%

4月からのワクチン接種意図の変化

 この調査では、9月現在の接種意図・接種行動と、ワクチン接種が本格化し始めた4月時点での接種意図を尋ねた。

 4月のことを振り返って思い出してもらうので、記憶の誤り(想起バイアス)があることは想定されるが、この5か月の間にどのような変化があったかを知ることは、重要である。

 結果は図-1のとおりである。

図‐1 ワクチン接種意図の変化
図‐1 ワクチン接種意図の変化

 上から20代4月と9月、30代4月と9月・・・というように並んでいる。

 濃いブルーの部分は、「2回接種済」「1回接種済」「予約中」「絶対に接種する」を合わせた割合である。水色は「多分接種する」の割合である。この2つの部分が、ワクチン接種に積極的な人々であるといえる。

 グレーは、「周囲を見てから判断したい」という意見で、まだ迷っている人の割合を示している。

 そして、薄いピンクは「多分接種しない」、濃いピンクは「絶対に接種しない」というワクチン忌避傾向を有する人の割合である。

 最も注目すべき点は、どの年代でも濃いブルー(接種済、絶対接種)の割合が、4月から9月になると著しく増加しているということである。どれもみな、有意な変化である。

 これに水色の部分を加えると、どの世代も80%近くの人が、すでに接種したか接種を希望していることになる。

 その裏返しとして、迷っている人、接種したくない人は大きく減少している。先にも述べたが、その割合は全体でわずか8.9%である。

考えが変わった理由

 そもそも、日本人は世界的に見ても「ワクチン忌避」という心理的傾向が強いことがこれまでの研究で示されていた。そのため、コロナワクチンについても、その傾向が見られるのではないかと危惧されていた。

 また、接種が本格的になり始めてからは、SNSなどで科学的根拠に基づかないワクチンについての情報、いわゆる「ワクチンデマ」がさかんに流布されるようになり、その影響も懸念されていた。

 しかし、この結果を見ると、それらの影響はきわめて限定的だといえそうである。

 世界に先駆けてワクチン接種が本格化したアメリカでは、7月30日に必要回数接種済が人口の50%を超えたあたりから頭打ちとなり、9月11日現在でも54.3%にとどまっている(Our World in Data)。この間、特に若者の接種を促そうと、食事券を配ったり、懸賞金を付けたり必死の努力をしていることが伝えられたが、目覚ましい効果は上がっていないようである。

 一方、出遅れた日本であるが、9月9日に必要回数接種者は人口の50%を超えたと見られている。そして、その増加の勢いは鈍化しておらず、このままのペースだと早晩アメリカを抜くことは間違いない。

 それでは、なぜ人々は4月時点からの意見を変えたのであろうか。その理由は図‐2のとおりである。

図‐2 接種したいと意見が変わった理由
図‐2 接種したいと意見が変わった理由

 4月には「接種したくない」という意見だったが、現在「接種したい」と意見が変わった人に、その理由を10の選択肢のなかから1つ選んで答えてもらった。回答者は、67名でグラフの数字はその実数である。

 最も多かったのは、20名が「変異株など今の感染状況を見て打ったほうがよいと思ったから」と答えていた。以下、多い順に「周りの人が打っているから」(17名)、「早く自由に行動したいから」(15名)、「家族に勧められたから」(12名)となっていた。

 「政府が打つことを勧めているから」「友人に打つことを勧められたから」などの理由は0人だった。

 ただし、考えが肯定的に変わったとはいえ、その大きな理由が感染状況の変化という、いわば偶発的な理由であったという点であることには注意が必要である。同様に「周りの人が打っているから」というのも、自分の意思というよりは同調的な理由であるにすぎない。

 逆に、4月時点では接種意図を持っていたが、現時点で接種したくないと意見を変えた人にもその理由を尋ねた。あてはまった人のなかで、回答者はわずか6名だった。

 最も多い理由は「副反応が思ったよりこわいものだとわかったから」(3名)で、「家族に打たないように勧められたから」「政府が信頼できないと思うようになったから」「なんとなく不安だから」がそれぞれ1名ずつであった。

 この回答を見ると、手放しでは安心できないものの、心配された「ワクチンデマ」などのネガティブな影響は限定的であったことがわかる。さらに詳細な分析をする必要があるが、「ワクチンデマ」は、元来ワクチン忌避傾向のある人の間で広まり、その人々がワクチン忌避傾向を一層強くすることに影響力を及ぼした可能性がある。

 「ワクチンデマ」に関する私の過去の記事(ワクチンをめぐるデマの危険性 なぜ人はデマにはまるのか)でも、「デマによって社会が分断されるのではなく、元々社会的に分断された人々の心のなかにデマが入り込み、一層分断を促進する」と分析した研究を紹介した。

 今後「ワクチンデマ」の影響力や、デマを信じやすい人々の心理についても、データをもとに分析を続けたい。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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